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『ペスト』(ダニエル・デフォー著、平井正穂訳、中公文庫)

本に書かれていた説明書きによると、カミュの『ペスト』よりも現代的と評されているようである。カミュの『ペスト』も続けて読んだので、その比較はまたの機会に譲りたい。

本書は章とか区切りは全くないため、切るタイミングが難しかった。

1665年に起きたロンドンペストについて、記録のような回顧録の形で綴られている。なお、この時デフォーはまだ生まれたばかりで、実際にロンドンにいたわけではない。本書の内容はデフォーの叔父などから聞かされていたものではないかとされている。

昔と今

疫病を扱った本ということなので、どうしても現在の状況と比較しながら読み進めていくことになる。そして、昔も今も人のすることは大して変わらないのかもしれないと思うのである。

ペストに感染したことを隠そうとする人。ペストに感染することを恐れてロンドンから地方へ逃げていった人たちに対して、誹謗中傷を行った人たち。次第に細かい感染者の状況を把握できなくなり、また数字が肥大化していくことで、徐々に投げやりになる人たち。投げやりになった人たちの中には、自粛をしなかったり、感染対策をしなかったり、至近距離で人と会話をしたりといった行動をするようになった人もいた。

様々なデマも流行した。日本でも、スーパーからトイレットペーパーが無くなったり、マスクが全然手に入らなくなったりといったことが発生したが、これらもデマが発端にあったと思う。

さらには、感染症との闘いが長期間に及ぶと、どうしても自粛疲れが出てくる。それは昔も同じだったようである。

「昔も今も人がすることは変わっていない」と断定するのは早計にすぎるが、それでもやはり、危機の時代に人間は似たような行動をするものなのかもしれない。今は様々な情報を自力で入手できるからこそ、情報リテラシーをしっかりと身につけ、実践したいものであると思わされた1冊である。


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