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茶色の朝

毎年どこかにこの記事を載せている。
音もなく近づく軍靴の気配に、私は言葉をもって抵抗する。

フランク・パヴロフ著、ヴィンセント・ギャロ絵の「茶色の朝」に、茶色の犬が登場する。
パヴロフと犬とくれば、条件反射的に「条件反射」が浮かぶが、それとは何の関係もない。

以下、編集して引用または要約。

「わかるだろう、あの犬を茶色だって言い張るには無理があったんだ」
「たしかに、あんまりラブラドールの色じゃないよな。けど何の病気だったんだ?」
「病気のせいじゃない。茶色の犬じゃなかった、ただそれだけさ。」

主人公の「俺」は、先月自分の猫を始末した。
白に黒のぶちだ。

国の科学者たちの言葉によれば「茶色」を守るほうがよいという。
茶色がもっとも都市生活に適しているそうだ。
法律ができ、茶色以外の猫たちが処理された。
それは、まだ増えすぎた猫の問題だった。

次は犬だ。
そして次に、このばかげた法律をたたいた新聞が廃刊になる。
市民は「茶色新報」を見るしかなくなった。
図書館の本が「茶色」を除いて撤去され、当たった競馬は「茶色記念」だ。

「茶色」以外のものは禁止されたが、「茶色」でさえあれば、安全は保証される。
「俺」はくそいまいましいと思いながらも、しだいに「茶色」に守られる生活に慣れていく。

「俺は規則を守ってるんだぜ」

そしてある朝のこと、「茶色ラジオ」がニュースを伝える。
前に黒い犬を飼っていた人が「国家反逆罪」で逮捕されたことを。

「前だって?」
今、茶色の猫を飼っていれば安全だと思っていた。
だって、ぶちは始末したんだぜ。
前のことなんて詮索しだしたら、犬や猫を飼っていたことのある人はみんな逮捕されてしまう・・・。

俺はようやく気がつく。

いやだと言うべきだったんだ。
抵抗すべきだった。
だけど、どうやって?
俺には日々の仕事があるし、こまごまとした生活のこともある。
みんな、ごたごたはごめんだからおとなくしていたんじゃないか。

そしてある朝。
ついに「俺」の部屋のドアがノックされる。

今日、78回目の敗戦の日。

何色の朝だ?

読んでいただきありがとうございますm(__)m