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ICT教育レポート③ xRが変える学び方革命

黒板や教科書が消える未来

 xRを聞いたことのある人はまだまだ少ないかと思います。でもVR(仮想現実)は知っている、AR(拡張現実)もポケモンGOなどで知っているという人はいるでしょう。それにMR(複合現実)というものを合わせた、総合的な呼び方がxRとなります。リアリティ(現実)にいろいろな「x」を組み合わせるものの総称、それがxRです。使い方次第では教科書や資料集、黒板がいらなくなります。なぜかというと目の前に「在るから」です。今回はこれらのデジタル技術・機器が学校現場をどう変えていくか、お話ししていきます。

幌レンズ2

AR(拡張現実)と教育

 目の前に本物そっくりの花や昆虫があって、それを自由に動かすことができたら、また拡大縮小もできたら面白いと思いませんか。本物をいじくり回すのはかわいそうですし、なにより子供達全員分を用意するのは大変です。でも現実を拡張するARであればデジタルデータさえあれば目の前に浮かび上がらせて自由に動かすことができるのです。

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 これはzSpaceと呼ばれるパソコンを用いた教育です。モニターからいろいろな教材を取り出して観察できます。例えば心臓を画面から取り出して目の前で観察し、外側だけでなく中の様子も観察することができます。それに図形の展開や切断、投影などの数学の授業において、これまでは頭の中でイメージするのが難しかったのですが、zSpaceであれば自由に何度でもそれができるのです。また、地球などの天体や、立体的な地図を出して観察もできたりします。

 教科書を読んで理解するのは難しいものです。それができればみんなテストで百点ですよね。そのため、私たちは体験的な学び方を必要としているのです。ラーニングピラミッドと言われる学び方のそれぞれの方法の学習定着率の高さでいくと、体験的な学びが講義や読書より遙かに高い定着率が期待できることが分かることでしょう。

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MR(複合現実)と教育

 では次にMR(複合現実)についてお話ししましょう。マイクロソフト社が出しているホロレンズ2は目の前の現実世界にデジタル物を投影することができます。ARは画面の前でないと見えず、MRの方が自由度は格段に高いものとなります。

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 例えば、机の上をかわいいカメレオンが自転車で走り回ったり、壁をモニターにしてYouTubeの動画を流したり、何もない空間にキーボードを出現させてタイピングをしたり、部屋の中を水族館に変えたりできるのです。初期型のホロレンズ1はまだ画角が狭く、使いづらいものがありましたが、ホロレンズ2ではそれも解消され、現実の中にデジタルがある世界を気軽に体験できるようになりました。
 では教育でどう使うかというと……。

 おや、教室でMRゴーグルをつけた先生と子供達がいますね。

「皆さん、教室の中央に集まってください」
「はーい」
「ではこれから地球のマントルについて学んでいきます」

 そういって先生は地球を教室に出現させます。それも教室いっぱいに。そして指で地球の表面をつまみ、はじき出すように外へ向けると子供達の目には地球内部のマントルの流れが映し出されました。子供達は歓声を上げ、教室をぐるぐる回りながら観察をします。

「このマントルは地球の内部から外に向けて移動し、そしてまた沈んでいきます。さて、次はこの上にプレートを重ねてみましょう」

 先生は仮想のキーボードを操作し、マントルの上にプレートを表示します。そして速度を速めてプレートが移動する様を見せるのです。

「先生、あそこ、大陸がぶつかるよ!」
「いいところに気がつきました。みんなここを見てごらん」
 
 先生が指し示した場所に子供達は集まって、ぶつかる瞬間を固唾をのんで見守っています。やがて陸のプレート同士がぶつかり、海がなくなって巨大な山が出現しました。

「これがヒマラヤ山脈です。世界一高いエベレストを擁するこの山脈がどうしてできたか分かりましたね」

 子供達は頷きます。そして先生はアンモナイトの化石がエベレストから発見される理由を聞くのです。子供の一人がそこは海だったから!と答えてみんなの拍手をもらいました。


……これは少し先の未来のお話です。MR機器は機材がまだ高価なため、教育現場で使うにはまだまだ課題があります。しかし、このようにMRは授業の在り方を一変させます。体験と対話、そして様々な資料提示ができ、目の前のデジタル物に直接に仮想ペンでメモを書いたり、音声メモを残したりできるのですから。この技術を使えば世界の何処にだって行くことができますし、またMR映像チャットで誰とでも交流も可能です。未来の学校はすぐそこまで来ているのです。楽しみですね。
 個人的に使った感想では、子供達の反応は素晴らしく好印象でした。機器操作も大人より慣れるのが早く頼もしいものでした。

 仮想現実で社会見学

 次はVR(仮想現実)です。ゲームの世界では年々その性能が高まっていき、その映像の精緻さは現実との区別がつきにくくなるほどです。教育分野でも利用は進んでおり、体験系のコンテンツが多いです。MRは産業用としての利用は伸びつつありますが、機器操作の面から教育利用は先進校のみとなっています。ARのzSpaceは機器が高価なため、タブレットのカメラ機能を使ったデジタル物の投影が見られますが、これからに期待する技術です。(とはいえ、ARはタブレット用のアプリが増えてzSpaceに近いことができるようになり面白くなってきました)それに比べてVRはスマートフォンとグラス代わりの安い固定器具があれば使えますし、またVR動画の数が多いためにすぐに教育に利用しやすいのです。
 例えば、ヴェネツィアのゴンドラに乗って周遊するVR動画を見せれば「水の都」の意味はすぐに分かるでしょう。同じようにアルプスの高原の牧場を教えるのに、そこの風景を体験させたり、アジアの文化の違いを学ぶために香港の人と車が行き交う街なかの映像を見せたり……。まさに百聞は一見にしかず、なのです。NASAの火星の本物の動画を見せたときは子供達が歓声を上げたものでした。「先生、僕は火星にいるんだよ」と興奮気味に飛び上がっていました。
 そして最近は社会見学のコンテンツも出てきました。伝統工芸の現場や工場見学、働く人のインタビューなどをVRで体験できるのです。360度見渡せるので、子供達は思い思いの方向を向いて観察したり、動画の中で人物が話し始めると一斉に向き直ったりします。 
 便利で面白い技術なのですが、一つご注意を。ARやMRと違って、先生が子供の顔を見ることができないのです。私も授業をしましたが、進行に骨が折れます。ちゃんと見れているか、気分が悪くないか、それとも見るふりをしてサボっていないか(笑)、いやはや、なかなか難しいものです。これを解決するために、いずれVR空間そのものを共有して授業を行うか、MRで広い教室に必要な映像データを出現させていくか、いずれにしても技術の進歩を待ちたいと思います。

子供達は二つの世界を持つ

 子供達はアナログ(現実)とデジタルの二つの世界を持ちます。それらを組み合わせたものが自分の居場所となっていくでしょう。アナログの世界で直接的なコミュニケーションを学び、デジタルの世界で違う自分となって自由に飛び回り、その中間の世界で双方の技術や知識を学ぶのです。フロンティアのある世界は停滞しない、と言われます。地球は深海以外にそのような場所はなく、そのうえ世界では人口が急激に膨れ上がっています。
 閉塞感が高まる現実の世界で、実は二つだけ限界がない世界があります。一つは宇宙で、これについては後日語るとして、もう一つはデジタルです。その世界は現実の世界より広く、また一瞬でどこへでも行けます。xR、多層・多元的なデジタル世界では、一つの教室で多国籍の子供達がアバターを用いて一緒に学んでいるかもしれません。もちろん依存やアナログ(現実)からの逃避等に気をつけねばなりませんが、今のデジタルネィティブ世代が活躍するのはそういう世界だと知っておいてください。
 映画で見た、あのSFの時代に子供達の片方の足はすでに踏み込んでいるのです。

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