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石鹸の味はしないでしょ  叶

チーズを「石鹸の味がするから嫌い」と言う人を一度は見たことがないだろうか。
わたしはかつてチーズが嫌いだったが、
石鹸の味がするという理由には賛同しかねた。
ここでわざわざ『食べたことないくせに、石鹸の味がわかるものか』とかいう不毛な話をしたいわけではない。
こういうものはたいてい嗅覚を頼りに言っている。
「このゼリー、カブトムシの味がする」もそうだ。
どこかで嗅いだことのあるような香りのものを口にすると、
そういう感想になるのだろう。
あるいはわたしが気づいてないだけであの人達の正体が妖怪石鹸喰いや妖怪カブトムシ喰いの可能性も捨てきれない。
かくいうわたしも、煮込んだキャベツを食べたときに牡蠣の味がすると思ったりする。
むしろ食べ物を口にして別の食べ物で例えるわたしの方がおかしいかもしれない。


さて、かつて苦手だったチーズを克服したのは二十歳を過ぎてからだった。
わたしの人生を変えた一品は雪印メグミルクから発売されているさけるチーズだ。

特にお気に入りはプレーンとローストガーリック味。
少し歯ごたえのある食感もたまらない。
そしてやはりチーズが石鹸の味がするとはわたしは思えない。
むしろこんなにおいしい石鹸があるなら紹介してほしい。
浴室に置いてシャワー中のおやつにしたい。
書きながら、浴室ではチーズが別の方向に発酵しそうだなと思った。
発酵に方向性があるかは知らないけれども。
発酵食品達も方向性の違いで解散したりするのかしら。
もしかしてこれがチーズとヨーグルトの違いだろうか。
時間があると、ついくだらないことを考えたくなる。


さけるチーズからわたしのチーズ人生ははじまった。
ワインとか出てきちゃうちょっとお洒落なレストランでも、
チーズの盛り合わせがあれば率先して注文する。
それらチーズの盛り合わせの中にも、
石鹸の味がするようなものが混ざっていたことは一度もない。



ところで昔、バーで飲んでいたときにチーズの盛り合わせを頼み、
皿を置いたまま少し離席をしたところ戻ってきたときには大半がなくなっていたことがあった。
他人の食べ物に勝手に手をつけるなんてどういう了見かと思ったが、
相手はおそらく酔っ払いなので騒ぎ立てることは得策ではない。
わたしは黙って皿の上で寂しくなったチーズ達を大事にちまちまと食べた。
こんなことならそれこそ皿に石鹸でも盛り付けておくべきだった。
今さらなにを言っても仕方ないので、
あのげんなりした気分ごと水に流そう。
上手に泡立てばいいな。


それではまた。



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