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ジュエリー産業が生き残るために〜環境への対応と経済的なメリットの両立を目指す

■はじめに


Covid-19の大流行により長く混乱が続く中、人々の日常生活の変化、つまり新常識のライフスタイルやデジタル時代の到来が加速しています。

また、気候変動、新エネルギーの利用、農産物の不足、パンデミック、廃棄物・公害問題など、地球規模で起きているあらゆる事態が地球社会・経済システムに連動し、地球資源の枯渇と生態環境のアンバランスを引き起こすなど、様々な影響を及ぼしています。

そのため、世界はサステナビリティのためのバランスづくりに注力しており、循環型経済がその解決策であるとされています。

消費者にとってはもちろん、生産者にとっても極めて重要なことです。

結果として経済価値も創造されるものという観点で、企業やブランドは環境問題・社会課題の解決に関して、循環型経済の概念を企業経営に導入し、社会ニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、そして環境や社会の変化に合わせて経営を適切に調整して事業そのもので課題解決に取り組む必要があるのです。

今やどの業界も、間違いなくサステナビリティと結びついている、あるいはそうあるべきと言えるのではないでしょうか。

サステナビリティといえば、グリーン・フットプリントや二酸化炭素の発生を抑えることと誰もが結びつけて考えるでしょう。しかし、そこには3つの要素があります:人、地球、そして利益です。もし物事が利益を生み出さなければ、つまり財政的に持続可能でなければ、変化は起こりません。持続的な変化を起こすには、財務的な観点から持続可能でなければならないのです。

単なる環境保護活動ではなく、環境への対応と経済的なメリットを両立すると言われるこの循環型経済の概念。

ジュエリー産業においても、製品のライフサイクルの循環化を図ることは産業の命をつなぐことにもなり、これからは「ゆりかごから墓場まで」ではなく、「ゆりかごからゆりかごまで」を考える必要があります。


この記事では大まかに3つの段階に分け、

  1. 循環型経済と従来の直線型経済との比較と、ジュエリー産業における循環型経済

  2. ジュエリー産業におけるサステナブルデザインについて、それによってどのような価値を生み出すことができるのか

  3. 新しいビジネスモデルやサービスを含め、製品のライフサイクルや事業のシステムやプロセスにどのように循環性を組み込んでいくか

を解説していきます。



1-1. ■循環型経済(サーキュラーエコノミー)と直線型経済(リニアエコノミー)


産業革命は人類にとって、経済成長における繁栄と発展を促し、生活水準を向上させるという大きな飛躍を達成しました。

かつてこの産業革命の経済モデルにおいて、消費に対応して経済を動かすには、多くの資源を消費して、多くの製品やサービスを製造するという一方通行型の経済構造(リニア型経済)が使われていました。

簡単に言えば、「作って、使って、捨てる」ということです。

しかし、この大量生産・大量消費・大量廃棄の経済モデルは環境資源にも負の影響をもたらし、人間生活の質の低下を引き起こすようになったのです。
このような状況から、バランスを生み出すコンセプトが見直されるようになりました。

ショベルカーがゴミの山で作業している様子を空撮したトップドローン映像


モノを長く使い、廃棄を削減していく。
資源を大切に使い、廃棄物の発生を抑え、原材料の再利用を促進し、クリーンで再生可能なエネルギーの使用を増やす。そして社会、経済、自然への影響を少なくするということに焦点を当てた循環型経済(サーキュラーエコノミー)が推進されるようになったのです。

従来の大量生産・大量消費・大量廃棄という一方通行型(リニア)の社会構造から、資源を循環させるサーキュラー型の経済構造へ転換させようという動きが注目されています
(出典:Re-Tem Eco Times
⚫︎直線型経済(リニアエコノミー)
製品を生産し、消費し、廃棄する経済の仕組み。
モノを消費した後は再利用することなく廃棄される。

⚫︎循環型経済(サーキュラーエコノミー)
廃棄物を捨てるのではなく、資源として循環させる経済の仕組み。

循環型経済(サーキュラーエコノミー)は、2015年にEUが提唱して世界基準で推し進められました。経済発展において廃棄物の削減、資源の回収、無害化処理などを通じて、経済システムと自然生態系との物質循環を調和させ、その過程で、物質循環、再生、利用を基本に廃棄をゼロに近づけ、常に循環可能な状態を保つことができる。

それによって持続可能な経済成長と環境発展を追求できるのです。

現在多くの業界では、資源効率の向上、二酸化炭素や水の排出量の削減、グリーン経済への移行の一環として、製品設計や企業運営に循環型社会を組み込んでいます。

生産者側が消費者側へ循環型経済の概念を推進してその実現可能性を証明し、社会的責任を果たすという価値観を反映して、環境・国・国民と共存する政策が必要であり、それによる経済発展が、よりサステナブルな社会への発展へとつながるのです。

サーキュラーエコノミーの3原則


世界的なサーキュラーエコノミー推進組織であるエレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーの3原則として下記を挙げています。

自然のシステムを再生(Regenerate natural systems)
有限な資源ストックを制御し、再生可能な資源フローの中で収支を合わせることにより、自然資本を保存・増加させる。

製品と原料材を捨てずに使い続ける(Keep products and materials in use)
技術面、生物面の両方において製品や部品、素材を常に最大限に利用可能な範囲で循環させることで資源からの生産を最適化する。

ゴミ・汚染を出さない設計(Design out waste and pollution)
負の外部性を明らかにし、排除する設計にすることによってシステムの効率性を高める。
『サーキュラーエコノミーとは』ビューローベリタス

エレン・マッカーサー財団は、上記3原則に基づいてサーキュラーエコノミーの全体像を示す概念図、通称「バタフライ・ダイアグラム」を公表しています。

出典:Circular Economy Hub:エレン・マッカーサー財団
「システムダイアグラム(通称 バタフライダイアグラム )」


3R(リユース・リデュース・リサイクル)との違い


従来からある、再利用がメインのReuse Economy(リユース経済)と混同しがちですが、これらは別物です。

下の図を見るとわかりやすいのですが、従来の3R:Reduce(減らす)、Reuse(再利用)、Recycle(リサイクル)では、不要になったものを必要に応じてセカンドユースに回し、その後寿命がきたら廃棄するが基本です。

2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現するという目標を掲げているオランダ政府は、リニアエコノミー・リサイクリングエコノミー・サーキュラーエコノミーを明確に区別している

イメージ出典:A Circular Economy in the Netherlands by 2050を元に
電通 SDGsビジネスソリューション サーキュラー・エコノミーが加工


一方サーキュラーエコノミーでは、そもそもの原材料調達・製品デザインの段階から廃棄ゼロを目指し、回収・資源の再利用を前提としており、回収したあとに廃棄ではなく循環させられるよう、解体しやすいデザインを取り入れているのもサーキュラーエコノミーの特徴です。

廃棄物が出ることを前提として考える3Rとは、その点が大きな違いです。



1-2. ■循環型経済(サーキュラーエコノミー)の役割


まず、このコンセプトは、2015年8月25日の国連総会で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に結晶化されました。193カ国の代表が、経済、社会、環境における持続可能な発展のために各国が実行に移すべき計画を確認しました。この計画では、17の持続可能な開発目標(SDGs)が設定され、世界中のほぼすべての国の国家戦略の共通のガイドラインとなっています。

3つの要素からなる経済発展モデルがあります。

3つの要素からなる経済発展モデル

B: Bio Economy(生物資源を効率的に利用する経済システム)
C: Circular Economy(材料をできるだけ再利用する経済システム)
G: Green Economy(公害問題を解決し、世界への影響を減らす経済システム)

このうちの一つ、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の一番の役割は、環境への負荷を減らしながらも経済活動を促進できることです。

2030年までに4.5兆ドルの経済価値を生み出す


「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」は、新たな付加価値の創造とビジネスモデルへの転換を促す革新的な成長戦略です。

総合コンサルティング企業アクセンチュアの調査(2015年)によると、
サーキュラーエコノミーは2030年までに約4.5兆ドルもの市場規模に成長する見込みと予測されています。

”サーキュラー・エコノミーのモデルは、利用価値に基づく対価を利用ベースで徴収する"利用者視点"の短期・高速回転のバリューチェーンです。これにより、既存の資産の潜在価値の最大化を図り、マネタイズの最大化と持続的な利益創造を実現します。たとえば役割を終えた製品を回収、再生させて再利用したり、使われていない資産を活用して新たな収益源としたりといった循環モデルへ転換することにより、2030年までに全世界で4兆5000億ドルもの経済価値を生み出すと期待されています。”
引用:サーキュラー・エコノミー:再生の循環による新成長戦略(アクセンチュア)


現状のリニア型の経済システムは持続可能ではありません。これを続けていくと、近い将来資源も途絶えしまうのは明らかですから、環境負荷を減らし「持続可能性」を維持しつつ経済活動を促進できるサーキュラーエコノミーがこれからの社会には必要不可欠なのです。

環境へ配慮した取り組みを推進することで、コストの改善やモノやサービスにおけるイノベーションが加速し、企業として新たなエコシステムの構築につなげられる可能性もあります。環境と経済の両立は、これからのビジネスにおける必須の考え方と言えるでしょう。


循環型社会の実現によって得られるサステナビリティの利益


循環型社会の実現によって得られるサステナビリティの利益には、以下のようなものがあります。

⚫︎大気、水、土壌の汚染を低減し、炭素排出量を削減することにより、気候変動への寄与を低減し、クリーンな環境に対する人間の権利を保護する。
⚫︎水使用量の削減
⚫︎規制当局が無駄な行為にペナルティを課すようになったため、廃棄物の生産が減り、課税が減る。
⚫︎採掘原料の需要削減による森林と生物多様性の保護
⚫︎ビジネスモデルやプロセスの革新、さらなる経済価値の創出
⚫︎化学物質の使用量の最小化と安全な廃棄の確保
⚫︎素材の再利用の透明性を高めることで説明責任を果たす

コスト削減、企業の社会的責任の遂行、ブランドの付加価値、そして将来的に予想される利益を他社に追随させる。革新的なビジネスモデルは、原材料の投入コストを削減し、工程コストを節約し、新製品開発期間を短縮するだけでなく、より良い企業の社会的責任を果たし、企業のブランドイメージを向上させ、他社に追随を促すことができるという利点があります。


1-3. ■ジュエリー産業にとっての循環型社会とは


ではジュエリー産業の場合、循環型経済の考え方はどうなのでしょうか?

⚫︎資源を可能な限り長く使用する
⚫︎廃棄物を最小化する
⚫︎製品から最大限の価値を引き出す
⚫︎使用後に製品や材料を再生・再製造する、など

世界のジュエリー業界では、SDGs達成を中核に置き、気候変動への適応・緩和を実行する業界へと変革する動きが加速しています。

そもそもファインジュエリーは、次の世代に受け継ぐことができるため、他の産業よりも本質的に持続可能と言えます。それに加え、特に高級ジュエリーについては、その製造に使われるほとんどの素材が完全にリサイクル可能であるということが、良い点です。

金、銀、プラチナなどの貴金属は、品質を損なうことなく何度でもリサイクルすることができます。また、リサイクルされた貴金属は、新しく採掘されたものに比べて99%汚染度が低いです。もちろん、ダイヤモンドや宝石も消耗することはありませんし、「消えてしまう」こともありません。経年変化によるダメージは多少あるかもしれませんが、再研磨や再カットをすることで新品同様になることが多いのです。

ゴールドジュエリー
※ しかし、コスチュームジュエリーなどの素材的に安価なジュエリーの製造に使用される成分の多くは、リサイクルを経済的に成り立たせるほどの本質的な価値を持ちません。


ジュエリー産業へのSDGsと循環型経済の適用


産業界では、グリーン経済形成の一環として循環型経済とSDGsを活用し、二酸化炭素排出量やウォーターフットプリントの削減など、幅広い生産・サービスを行っています。

このモデルは、ジュエリー製品のライフサイクルにおける損失を減らし、修理、修復、リニューアル、再利用、あるいは再考を促し、製品のライフサイクルを通じて原材料や廃棄物の製造工程による管理とともに、環境への影響を低減します。

これにより、さまざまなプロセスの効率を高めることができます。責任ある生産と消費という国連の目標(SDG12)の達成はもちろん、
循環型経済は生産に伴う廃棄物やコストを削減し、同時に長期的な成長を促します。

イメージ出典:A cycle of gem and jewelry industry 


ジュエリーの素材やプロセスの循環・効率化により、企業やブランドはコスト削減や廃棄物管理を行い、利益の向上、環境への負荷低減、人権の尊重を実現することができるのです。

よって、循環型社会に着目することは、ビジネスをより持続可能なものにするための入口となります。


ジュエリー業界全体が循環型になるには?


循環型のビジネスケースは、多くの場合、効率性の向上とそれに伴うコスト削減により、個々の企業やブランドにとってかなり明確なものとなっています。

しかしジュエリー業界を真に循環させるには、個々の企業やブランド内だけでなく、セクター全体のシステムを再構築する必要があります。

持続可能なデザイン・調達・生産・製品の廃棄を制限するものに対しては、一定の規模の経済やイノベーションを必要とし、解決策と、支持されることが必要です。

そして何よりもまず、サプライチェーンの関係者、精錬所、鋳造工場、企業やブランド、消費者が、それぞれにとって循環型とは何か、それを実現するために互いに何を求めているのか、コミュニケーションをとることが必要です。

このコミュニケーションによって、異なるサプライチェーンのステージ間や他の産業へのマテリアルフローを可能にするシステムや解決策の開発につながることが期待されます。


2-1. ■サステナブルデザインは循環型ジュエリーの鍵


素材・材料の循環は人間の介入によってのみ実現します。

素材の効率を最大化するために意図的にシステムをデザインすること
サステナブルデザインをすることが、再生不可能な資源の消費を抑え、廃棄物を最小限に抑え、健康的で生産性の高い環境を作り、サステナビリティへの基本的な道筋となります。

サステナブルデザイン
とは、環境や生き物の健康・快適性に与える悪影響を低減する方法で製品を開発・製造することを前提にしたデザインです。

出典:サステナブルデザインって何?|仕事百科


サステナブルデザインの理念は、設計プロセスの各段階において、
利益を損なうことなく、環境への悪影響を軽減するような決断を促すものです。

これは、サステナビリティとビジネス効率はトレードオフの関係にあるという従来の常識を変える、統合的なアプローチです。多くの企業は、目的に向けて一方を立てれば他方がまずくなる、「トレードオフ思考」にとらわれていますが、

*トレードオフ:ビジネスの観点から、持続可能性がビジネスの効率にやや反するという考え方

このような統合的なアプローチは、設計、製造、使用、廃棄を含む製品のライフサイクルのすべての段階においてプラスの影響を与え、環境・社会の課題解決も企業の成長・利益伸張もともに達成する「トレードオン」も可能です。

”経済と環境の利益の一致は、非常に困難で不可能に近いと思われていました。しかし、2010年代以降研究が進み、サーキュラーエコノミーを導入することで、「持続可能性」を維持しつつ大きな経済効果を得られることを民間の研究機関が指摘し、話題となりました。”
引用:『サーキュラーエコノミーとは?代表的なサービスから市場規模までまとめて解説』
オリックス

情報元:『サーキュラー・エコノミー デジタル時代の成長戦略』
ピーター・レイシー, ヤコブ・ルトクヴィスト (2016)
アクセンチュア・ストラテジー訳, 牧岡宏・石川雅崇監訳, 日本経済出版社


では、ジュエリー産業におけるサステナブルデザインにおいて、製品にどのような価値を生み出すことができるのでしょうか。

サステナブルデザインのキーポイント


ジュエリービジネスでは、製品開発・生産のスタート地点であるデザイン段階から循環型経済が活用されています。

従来のデザインは、製品の魅せ方や消費者の需要に重点を置くのが普通でした。しかし、サステナブルデザインの鍵は、製品による環境負荷を減らすことにあるのです。

サステナブルデザインの鍵
⚫︎ 従来のエネルギー使用を最小限に抑える
⚫︎ 非再生可能な資源の使用を制限する
⚫︎ 環境に配慮した製品、プロセス、材料の使用
⚫︎ 従来のエネルギー使用を最小限に抑えるという仮説に基づいたデザイン
⚫︎ エネルギー損失と廃棄物の最小化に焦点を当てた生産プロセスの運用
⚫︎ 環境に優しい包装の使用など、
生分解性パッケージ


なぜ製品開発プロセスに注目するのか?

循環型とは、材料やプロセスの効率性、すなわち製品や企業の材料の流れやプロセスがどの程度修復的であるかを測定するものです。

ジュエリー製品の環境負荷の80%近くはデザイン段階で決定されるため、製品やサービスをより持続可能なものに変えていくためにプロセスに注目する理由は明白です。

しかし、修理や分解が容易で耐久性のある製品というエコロジー的な目標は、製造コストを下げ、顧客の需要を高めるという経済的な必要性と相反するものです。コストや性能だけでなく、環境への影響も考慮して材料を最適に選択することが、今日のジュエリー製造業にとって非常に重要です。

循環型経済は、より良いデザインを前提にしています。循環型デザインは、回収インフラの改善、新しいリサイクル技術、材料の再利用のデザインだけでなく、

製品がどうあるべきか、
どのように機能するか、
より効率的かつ効果的な方法で顧客のニーズを満たすか、

という問題に集中する必要があります。


持続可能なデザインをするには?


ジュエリースタジオ

ジュエラーは通常、美観と機能性に基づいてデザインします。デザインプロセスに循環性を取り入れるには、ジュエラーは「ゆりかごから墓場まで」ではなく、「ゆりかごからゆりかごまで」考える必要があります。もはや、ジュエリー製品は相続や質屋行きだけではなく、新たな可能性が生まれてくるのです。


↓参考文献↓


サステナブルデザインが社会と環境に与える影響について、いくつかの重要なパラメーターを以下の質問で把握することができます。

⚫︎ 使っている材料はどこから来ているのか
⚫︎ 使用している素材はどこから来ているのか
⚫︎ サプライチェーンではどのような規格が実施されているのか、これらは信頼に足るもので、リスク管理や持続可能性の向上を確実に保証するものかどうか
⚫︎ 自分のスタジオ/工場/生産施設で、何らかの資源循環システムを利用することは可能か
⚫︎ 製品の寿命を延ばす手助けができるのか
⚫︎ 消費者に提供できる継続的なデザインサービスについて、情報を提供し、教育しているか
例えば、お客様がサファイアのリングを希望されたとします。通常、オーダーメイドのデザイナーは、お客様と共同で製品をデザインし、その後、石を探しに行くことになります。エシカルな宝石の供給が不足しているため、よりサステナブルな選択肢を使うことができない場合もあるのです。

しかし、デザイナーがエシカルな石から始めて、それを中心にデザインすれば、結局はよりサステナブルな製品を作ることができるのです。なぜでしょうか?それは、柔軟な購買者がエシカルストーンの持続可能な市場を構築しているからです。
levin sources


サステナブルデザインによる付加価値


私たちは今、資源が過剰な時代から不足する時代へと移行しています。
数十年にわたる余剰な富と過剰な消費は、無駄遣いの文化を生み出し、私たちは使い捨ての製品に依存するようになりました。

それでも、サステナブルデザインを追求することで、消費者だけでなく、作り手から見た最終製品の価値も高めることができます。エモーショナル・アタッチメント(思い入れ)、コ・クリエーション(共創)、カスタマイズなどのデザインは、身につける人にとってより多くの意味と楽しみを持つようになり、製品の寿命を延ばします。

▶︎ エモーショナル・アタッチメント(思い入れ)

ジュエリーには、それを手にした時の充足感だけでなく、身に付けるだけで心が華やぐ、あるいはそれが大切な人から受け継がれたものであれば「つながり」や守られている「安心感」など、目にはみえないさまざまな効果を感じたことはありませんか?ジュエリーがもたらす精神的価値です。

ユーザーの感情や個人的な物語を示すことができるような、商品との個人的・感情的な結びつきがある製品のデザイン要素は、その商品を長く使う動機付けとなります。家族から受け継いだもの、特別な出来事や人物を象徴するものなど、いずれの場合も捨てがたいものです。

▶︎ カスタマイズ

消費者のサイズ、スタイル、個性、希望に合わせて製品を正確に調整する機会があれば、必然的に消費者にとってより良い解決策につながります。この戦略によって、消費者は自分の願いや夢によく応え、よりライフスタイルやニーズに合った製品を手にすることができ、使用期間を延長することができるのです。

▶︎ コ・クリエーション(共創)

近年、デザインプロセスに消費者を巻き込んだ製品やブランドの事例が増えています。コ・クリエーションは、オーダーメイドの製品に対して消費者により高い個人的関心を持たせることができます。消費者が色やサイズを選択し、デザイン要素で遊ぶことで、製品やブランドとの結びつきがより強くなるのです。



3-1. ■ジュエリービジネスに循環型社会を導入するためのアイデア


新しいビジネスモデルやサービスを含め、製品のライフサイクルや事業のシステムやプロセスにどのように循環性を組み込んでいくかを解説していきます。

ここでは、ジュエリービジネスに循環型社会を導入するためのいくつかのアイデアをご紹介します。

素材を循環させるには、

①デザイン
②調達
③生産
④マーケティング
⑤ポストコンシューマー

の各フェーズにおいて、サプライチェーンのあらゆる段階で新たな連携が必要です。先に①のデザイン段階:サステナブルデザインについて取り上げましたので、ここでは他の②〜⑤のフェーズを探ってみましょう。


調達


金属を調達する場合、「リサイクル」は循環型の選択です。

貴金属スクラップは、精錬所や金銀細工でのリサイクル以外にも、歯科や一部の歯科用品、医療用品、写真機材、電子チップ、液晶テレビ、メッキ処理などで見かけることができます。

貴金属(金、銀、プラチナ、パラジウム、ロジウム、および真鍮や銅などの宝飾関連の卑金属合金)は、溶解した金属の品質を損なうことなく繰り返し溶解することが可能です。Benn Harvey-Walker氏の研究によると、リサイクルされた金属の生産は、新しく採掘された銀、金、プラチナに比べて炭素排出量が最大で99%少ないとのことです。また、リサイクル金属を使用することで、水資源の効率化や公害の減少も期待できます。

しかし実際には、責任あるリサイクル金属の調達を支援する規格がないため、宝石商は100%再生金属の部品や鋳物を提供するサプライヤーを見つけることが困難なこともあります。

認証の欠如に並んで、これらの材料が倫理的で責任ある方法で調達されたことを保証できる、業界で使用される標準的な追跡システムもありません。この点で、高い透明性と安全性を確保しながら物の起源を追跡する方法としてブロックチェーンが存在します。

↓参考記事↓


生産


人類の発展に欠かせない鋳造の歴史を見ると、紀元前4000年頃には、世界のさまざまな地域で金属を溶かして型に流し入れて固める加工方法が既に存在し、サーキュラリティーは当時からは金細工の一面を担ってきたと言えます。

貴金属は産出量が限られた貴重な資源であり世界中で再生利用されています。金細工と鋳造の初期段階から、余ったものや不要なものを溶かして新しいジュエリーに作り直すということは以前から一般的に行われており、貴金属を大切に扱い、金属の極微量も丁寧に扱うことは、何世紀にもわたってコストの節約と環境へのより良い影響の両方を実現するための標準的な方法でした。

原材料としての貴金属を再生資源でまかない、有効利用を通して循環型社会の実現に貢献できると言えます。



マーケティングと消費者教育


ジュエラーが最初から循環を意識してジュエリーをデザインし、サプライチェーンの関係者間で材料と情報の透明な流れを確保することで、ジュエラーに最大の利益がもたらされます。ジュエリーがどのように循環し、より「地球に優しい」のか、そのストーリーを共有することは、誠実で責任感のあるビジネスを求めるミレニアル世代の消費者とジュエラーの関係を深める上で大きな役割を果たします。

また、ジュエリーのメンテナンスやお手入れ方法について消費者を教育することで、製品の寿命を延ばし、不必要な材料の使用を避けることができます。

ポストコンシューマー:ジュエリーの修理・改造


宝飾品はデリケートな製品であり、特に長年使用すると破損する可能性があるため、金細工師は長年にわたり消費者に修理サービスを提供してきました。修理は、金細工の繊細な技術を必要とする大変な仕事です。

循環型経済では、消費者は自分の製品だけでなく、他の人の製品も修理してくれる宝飾店に簡単にアクセスできるようになります。これは、製品の寿命を延ばすというサステナブルな付加価値に加え、経済的な利益をもたらす可能性があります。

消費者が元の形に修理することを望まない古いジュエリーは、アップサイクルされ、古いアイテムのいくつかの要素を使用して、異なる組み合わせや構造を持つ新しい製品に変換することができます。例えば、ジュエリーのモチーフはコレクションとしてデザインされることが多いので、イヤリングを元にリングやペンダントにするなど、少し手を加えることで別のジュエリーにすることができます。

ブロックチェーンは、ダイヤモンドのような循環型素材において、信頼性とストーリーテリングという点で真価を発揮します。商品のブロックチェーン情報を質屋や他の宝石商と共有すれば、商品の使用終了時に、その商品が盗まれていないという確信が持てるので、質屋は商品を引き取りやすくなるのです。

また、その商品とそれを構成する金属や宝石のストーリーをブロックチェーンに取り込むことで、ブランドは受け継いだ商品の世代間のストーリーを構築し、その感情的価値と継続使用の可能性を高める可能性があるのです



■まとめ


従来の「作って、使って、捨てる」というモデルから脱却するには、単にリサイクルすることを意味するのではありません。真の循環型経済(サーキュラーエコノミー)へ移行するためには、資源や製品の製造、使用、寿命をどうすべきか見直す必要があります。

企業やブランドが、ジュエリーをより循環させるためにビジネスモデルに組み込むべきことは、主に以下の5つ。

① サステナブルデザイン:循環性を取り入れる
② 調達:責任あるリサイクル金属を使用する
③ 生産:
余ったジュエリーや不要なジュエリーを保存し、分別して、再び鋳造する
④ マーケティングと消費者教育:日常的にジュエリーをより良くケアする方法について、消費者を教育する
⑤ ポストコンシューマー・宝飾品の修理・改造:消費者に修理サービスを提供し、古いジュエリーを新しい製品に再生する選択肢を提供する

また、製品寿命を延ばすうえでは製品そのものだけではなく、製品とユーザーの関係性にも焦点を当てることが重要となります。

物理的耐久性(使える)よりも情緒的耐久性(使いたい)が短くなってしまっていることが廃棄の根本的な原因となっています。そのため、問題にアプローチするためには物理的耐久性よりも情緒的耐久性を高める必要があると言えるでしょう。

「大きな変化は、小さな行動から。」

利益を損なうことなく、環境への悪影響を軽減しながら1つでも多くのアイテムを循環させることで、このジュエリー業界をより持続可能なものにしていくことができるでしょう。



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