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飛び込んだ靴の世界

接客術を書くと予告したのだが、私の歴史を語ったあとのほうがわかりやすいので、もう少しあとに登場させます。

ABC-MARTで働く。と、腹をくくってからの切り替えは早かった。個人売上の意識、わからないことを徹底的に聞き、早く仕事に慣れることに重きを置いた。


正社員になるまでの2か月はほとんど記憶がない。
本当にがむしゃらだったからだ。


昼休みは上司と話したいのに、当時彼氏からメールの返信が遅いだの少ないだの言われ不機嫌になられ、煩わしくて別れた。他にも理由はあるけど、それは伝えずに仕事が楽しい・忙しいからと別れを切り出した。そしたら車の中でサスケのベンチを流されて、そこからあの曲がトラウマに・・・。

無事正社員の合格を頂いたその時、店長が異動すると聞いた。私が正社員になることで、誰かが押し出されて異動になるもんだと勘違いした私は、帰りに店長を呼び止め息ができないくらい泣いた。


『私・・・辞めます、だから店長は残って下さい。』


私の勘違いに気付いた店長は、大笑いして慰めてくださった。


『そんな制度はないよ。これは俺のステップアップ。俺が銀座で最後に社員にした女だ、次会う時にはもっと成長した姿を見せてくれ』


いまでもこの言葉を鮮明に覚えている。笑顔なんだけど笑っていない目。


・・・御意。


次に、店長として着任したのがのちに私をナンバーワンに育て上げた恩師である。いまはとてもきさくだけど当時はあまり笑ってくれなくて、なおかつ私と同じ路線の電車で毎日一緒に帰っていた。
最初はめちゃくちゃ緊張していた。でも私にとって恩師との電車の時間は、いろんなことを教えてもらえる絶好のチャンスだったわけだ。上司は世間話をしたかっただろうに、帰りの電車でも仕事の話をし、質問攻めしてくる体育会系の明るい女の子をどう思っていたのだろうか。今度聞いてみよう。

しばらくして私の教育係だった女性上司が異動すると聞いた。
銀座店には無くてはならない存在で、みんなが頼りにしていた姉御肌の上司。恩師の右腕ともなる存在の異動に店は一気に不安な空気が流れた。


誰がレディースとPUMA担当するんだ?


女性上司が担当していたブランドは主力ブランド。
店の構成比も高いブランドなだけに、どの社員が担当するか話題に上がっていた。正社員になりたての私に発注は関係のない話で、上司への寄せ書きを作るのに必死だった。

が、恩師が出した答えは社員になって間もないヒヨッ子の私だったのである。


『無理です。発注わからないし、怖いです、絶対無理です』

ひたすら拒否。

周りの社員もアイツにはまだ早いし、荷が重いだろうと思っていたに違いない。しかし、恩師は私に担当ブランドを任せ、俺が育てるとおっしゃって下さった。一緒にやってくださるなら・・・と条件を出して引き受けた。

不安の中にも任された嬉しさがあり、私のやる気がスピード違反し始める。


続く
【次回、鬼売れたGT8809Wという魔法の靴】

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