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AUF DEM SOFA/ ドイツの雑誌に描かれた安倍首相の姿

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先日、営業再開して間もない書店に立ち寄ったところ、コロナウイルスをテーマにした雑誌が並んでいたので、パラパラと眺めていた。すると驚いたことに、最近話題になった安倍首相の姿が描かれたページを発見した。

タイトルは「AUF DEM SOFA/ ソファの上で。」これはベルリンを拠点に毎月刊行されている「Cicero」という雑誌だ。どうしても内容が知りたくなったので、ドイツ語の勉強も兼ねて翻訳してみることにした。以下に日本語訳を掲載する。

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彼の国でオリンピックを開催することは安倍晋三のキャリアのピークになる予定だった。-しかしそうはならなかった。
「自分を何様だと思ってる?」4月中旬、とあるユーザーが国内最高権力者に苦言を呈した。安倍晋三がTwitterに投稿したビデオには、彼が愛犬を腕に抱いてソファに座りカジュアルにお茶を飲んでいる姿が映されていた。首相はこう書き添えた。「友達と会えない。飲み会もできない。ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。」 そして要請を守る人への感謝を伝えた。
 おそらく安倍がツイートで見せたかったのは、外出自粛の模範例としての姿だろう。彼が数日前に大都市圏に対する非常事態宣言を出して以来、地方自治体が外出自粛と店舗休業を要請できるようになった。けれどもツイッターでは、安倍晋三のアットホームな姿を称賛するどころか、憤りの声がトレンドとなった。家で余裕でいられる彼と、彼の座るラグジュアリーなソファに対して辛辣なコメントが頻発された。多くの日本人にはこれができなかったのだ。
 安倍晋三にとってこの数週間はうまく行っていない。日本もコロナ危機の最中で患者数は毎週倍増しているが、それは問題の一部に過ぎない。安倍自身も危機的状況にいるようだ。彼の評判は悪い。4月中旬の調査では、8割の人が首相の危機対応に反対していることが分かった。安倍の非常事態宣言が遅すぎたこと、危機を甘く見ていたことからだ。かつてほぼ無敵だった安倍の支持率は40%を下回る。これは日本史上最長の在任期間を持つ首相の最低の数字だ。それは安倍が彼のピークを祝おうとした矢先の出来事だった。
 今年の夏に日本でオリンピックが開催されるはずだった。すべてが計画通りに進んでいれば、このメガイベントは安倍の有名な経済政策「アベノミクス」に王冠を授けていただろう。安倍晋三は、景気対策、緩い金融政策、構造改革を組み合わせた新成長時代の到来を望んでいた。2020年のオリンピックでは、日本は近代的で国際的なホストとして4000万人もの外国人旅行者を迎え、これがさらなる刺激となっていたはずだ。
 しかしその後、オリンピックは当分開催されそうになく、アベノミクスは新たなブームを約束できなくなった。3月末に夏季大会を1年延期することが決定したことに日本人はあまり動揺していないが、これによって何十億もの税金が無駄になる。首相はこの決断を下すのが遅れたことで、自らをとても無防備な状態にしてしまった。日本でも世界でもスポーツイベントの延期や中止が相次いでいる中、安倍と東京組織委員会は何週間もの間、オリンピックを2020年7月に開催すると主張していたのだ。
 そのため今の首相は、国民の健康よりも、世界最大のスポーツイベントでスポットライトを浴びることを重視する人物のように見える。特筆すべきは、ウイルスの急速な蔓延の中でこの延期の引き金となったのが彼自身ではなかったことだ。主催者側が計画を変更したのは、カナダとオーストラリアの国際オリンピック委員会が今年は競技に選手を派遣しないと発表した後だった。
 にもかかわらず常にインパクトを意識していた安倍は、「五輪延期を後押ししたのは自分だ」とカメラの前で主張していた。しかしこれは、日本ではほとんど取り上げられていない。むしろ安倍はどうにかしてオリンピックの年内開催の可能性を考えた限りで、国内の健康状態を放置してきたように見える。そして医療専門家も非常事態宣言が遅すぎたと批判している。
 今はこれまで以上にダメージを封じ込めることが重要になってきた。想像するのは簡単だ、それによって安倍も外出自粛要請とソーシャルディスタンシングを意識しているのだろう。政府は現在、存続が危ぶまれるほどの所得損失を訴えている世帯に対し、約2500ユーロ相当の特別給付を行うとしている。安倍晋三はこの財政出動を「過去最大の支援策」と称賛するが、日本が調査したところこの対策を妥当だと考えるのは5人に1人だけだ。あとの人はこの動画やツイッターを見ずとも考えるだろう。「自分を何様だと思ってる?」
ーCicero 2020年5月号より

この記事内容はすでに少し古くなっており、特別給付金については一律10万円へと方向転換していて、記事が書かれた当初から世論は変化している。しかしこの危機の中で安倍首相が見せた、決断の遅れ、的のズレ、そして民意と遠く離れたその姿が世界にも記憶されるところとなったのは事実だろう。

この記事の話題からわずか1ヶ月ほどだが、日本は次なる論争へ移行した。コロナ渦の混乱した状況下で種子法・種苗法、検察庁法改正案の審議を進める政府に対し、国民が更なる不信感を募らせ、Twitterデモと呼ばれる大きなうねりが生まれている。

はたして私たちは、これほどの困難な状況の中で、これ以上政府が生み出す混乱に時間とコストを割き続けて良いのだろうか。この時間の中に、失われつつある希望や命が、あるのではないだろうか。


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