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私のトリセツあんど備忘録 ⑪ 「大人な振る舞い」 がもたらしたこと


30代半ばで大学院に入り直す際に、例によって私には決めたことがあった。

それは、

・ 人を悪く言わない、その場にいない人の噂話をしない
・ たとえ年下であっても先輩にあたる人たちには敬語を使い礼儀正しく
  接する

ということ (図らずも 婚活に際しての決意 とそっくりでわれながらウケる)。

それまでの生活を一変させ (仕事も辞め転居もして)、未知の世界 (教員以外
は一周りも年下の人たちばかりだし) に飛びこむというのは、なかなかの
大英断だし、緊張も不安もそれなりにあったので、大人として分別のある
振る舞いをしておくのが無難だろうと考えたからだ。
最初から自分を全開にしないで様子見をする (礼儀正しい言動は防御でも
ある)、という意味もあった。
幸い、周りは賢い人ばかりだったので、人間関係はおおむね平和だったと
思う。



ただ、私のそんな 「大人な振る舞い」 が裏目に出たこともあった。
大学院に入って丸2年が過ぎた頃、上級生にあたる男性 (実年齢は数歳下) が突然、私がやってもいないことで言い掛かりをつけてきたのを契機に、陰湿な嫌がらせをくり返すようになったのだ。

彼は面倒見のいいリーダータイプで、私が研究室に入った当初はとても親切にしてくれたので、当然戸惑った。
けれども、私はここでも 「大人な振る舞い」 を選択した。
彼の行ないを気にしていないふりをしたのだ。

ダメージを受けていると思われたくなかったし、嫌がらせされていることを
周りに知られたくなかったからだ (知っていて見過ごしていた人もいたが)。

堪えた様子を見せなければ、そのうち彼もこんな大人げないことはやめる
だろう。
・・・ そう思ったけれど、嫌がらせはやむどころかエスカレートした。

私の主観では、
「彼に対する反骨心で研究が捗るわ~!」 とか、
「彼のおかげでメンタル面が鍛えられるわ~」 とか、
毎度プラス思考に転換しているつもりだった。
私は余裕のある、物事に動じない、強メンタルな大人なんだから、と。

実情は、自分がそうでありたい、そう見られたい姿を装っているだけ
だった。
私がどんなにひとりでメントレを積んでいるつもりでいたところで、
エスパーならぬ他人には通じるわけがないのだから。

当時の私には、誰かに相談するという発想はなかった。
彼のやり方は巧妙で、また彼は周囲からの評価が高かったので、
仮に相談したとしても私の思い過ごしだとして片づけられるか、
下手をすると私の方に問題があるとみなされるかもしれない、
そんな不安もあったし。

つまりは、私は自分をも周囲をも信じてはいなかった、ともいえる。
研究に関すること以外での問題を抱えこみたくなかった、というのも
本当だけど。

彼の水面下の嫌がらせは、彼が遠方の大学に就職するまで3年ほど続いた。
(よくもあんな馬鹿げたことを数年単位で続けられたもんだなあと、いっそ
 感心するけど)



私は何年もの間、彼の振る舞いを非常に不可解だと感じていたけれど、
今ならわかる。
単純に、サンドバッグにしてもかまわない相手認定されていたのだろう。
私が内心でどう自分をコントロールしていようと、彼の目には何をしても
抵抗しない、怒ったり泣いたりもしない、あるいは何も感じない愚鈍な、
そういう仕打ちをしてもかまわない、都合のいい存在 としてしか写って
いなかったのだ。

おそらく彼は、周囲から高く評価される人間としてふるまうことにストレスを抱えていたんだと思う (つまり、彼もまた本来の自分ならぬものを装って
いたわけだ)。
彼を見ていて、お笑い芸人が常時ネタ探しモードにあるみたいな強い自己
プレッシャー状態に自分を置いているのはなんとなく感じていたから。

私をターゲットにしたきっかけなんて、きっと些細なことで、口実ですら
なかったんだろう。
そして、彼はたぶん私がそのうち研究の世界からいなくなると踏んでいた
んだと思う。
どうせそのうちいなくなるんだから、心置きなく八つ当たりしてやろうと
でも思っていたのかも。
とんだ見こみ違いだったわけだが。
どんなに取り繕ったところで、彼が 「みくびった相手に陰険な嫌がらせを
する人間」 である事実は消えないのだから。



あの時、私はどうすべきだったのかといえば、
「○○ さんにこういうことをされているんです、私何かしましたかね?」 と
誰かに相談してよかったんだと思う。
あるいは、その場でキレるとか、泣き喚いたってよかった。

とはいえ、小学生じゃあるまいし、そんな告げ口みたいなことをしたく
ないし、泣いたりしたら相手の思うつぼ、あるいは 「女は感情的になる」
云々と言われてしまうだけ、そもそもその程度のことを自力で解決できない
なんて情けない・・・ そんなふうに思って実行できなかっただろうけれども。
(いじめられてることを親に言えない子供の心理ってまさにこんな感じ?)

今なら、まず信頼できる人を見つけて相談することもできるし、一緒に対策
を練ってもらうこともできる。
「まともなやつ」 と思われるよりも 「ヤベーやつ」 と思わせてしまった方が
勝ち、ということで、リタ様みたいに 「う゛ぁ゛ーーーーー!」 と絶叫して
みるのもいいかもしれない。


教訓は、行儀のよさや正しさ、清廉潔白さが、必ずしも有効な武器になる
とは限らない局面もある
ということ。
卑劣さや姑息さに対して、正攻法が通じない場合もある ということ。
そして、理不尽に対しては、それを上回る理不尽さしか勝たない時もある
ということだ。

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