「キッチンへ向かう足取りを軽くするために、料理道具は簡単に使えて、便利なほうが良い」
「レミパンプラス」 プロデューサー・インタビュー 和田率
世の中には、さまざまな形状とサイズの専用ナベ、そして大きさと深さのフライパンが存在しています。けれど、それらの多種多様な形状と使い勝手を集約して、良いところだけ、機能性と清潔で使い易いことだけを追い求めたら、どんなカタチになるだろう。
そうやって出来たのが、この深型のフライパン、「レミパン」のカタチ。これひとつで、炒める、焼く、煮る、蒸す、揚げる、炊く。これまでいくつものお鍋やフライパンを使い分けてきたお料理も、このカタチひとつでこなせてしまう、オールインワンの性能。それがレミパン。
現在では多くの類似品を生み出したこのカタチ、レミパンが最初に登場したのが2001年のこと。長年にわたって愛されてきたこのカタチを、多くのユーザーから集まった声をもとに、耐久性能を大きくプラス。便利で安全、清潔に使える機能性をプラス。こうして生まれ変わったのが、この「レミパンプラス」。料理の美味しさと楽しさを追求し、生まれた新しい調理道具、それがレミパンプラスです。
「レミパンプラス」については、こちらの記事でもご紹介しています。
今回は、remyクリエイティブ・ディレクター和田率さんに、レミパンのリニューアル構想から「レミパンプラス」が出来上がるまでのお話をうかがいました。
和田率
「おいしい料理を届けるホームページをつくってよ」という平野レミの命をうけ、広告代理店を卒業、remyのクリエイティブ・ディレクターに就任。商品企画開発、デザイン、編集、アプリ開発などに従事。主な受賞歴に、HCDベストプラクティス賞 最優秀賞、人間工学GP賞 優秀賞、グッドデザイン賞、ギャラクシー賞ほか。
初代のレミパンが登場したのは2001年のことでした。シャンソン歌手で、料理愛好家の平野レミが考案したこの調理鍋は、大きな反響を呼びました。黄色とオレンジの派手なカラー、そして、炒める、煮る、揚げる、蒸す、といった調理をこれひとつで行うことができる調理方法は、今では一般的になってきましたが、当時はとても目新しいもので、現在でも多くの方にご愛用いただいています。
レミパンは発売以来、小さな部分の変更は行ってきましたが、全面的なリニューアルをしたこともなく、10年以上が経過していました。ありがたいことに長い間、リピートしてお使いになられている方も多く、しかし細かなご要望が寄せられていたのも事実です。そして2014年、平野レミのキッチンブランド「remy」の立ち上げを機に、そうしたお客様のリクエストにできるだけ応えよう、とスタートしたのがこのレミパンプラスのプロジェクトでした。新型のレミパンとして、もう一度、レミパンを再発明したい、という思いがありました。
開発に先立って行ったのは、レミパンのユーザーを対象にした調査でした。そしてこの調査を基にして、現行モデルの良い部分と問題点を徹底的に洗い出すことにしました。その結果、新型レミパンで実現すべきことは3つのポイントであることが見えてきました。それは、1.調理性能の向上、2.内面コーティングの耐久性の向上、3.卓越した新機能、です。
調理性能とコーティングの耐久性については製造メーカーである新潟県・燕市にある和平フレイズと協議を重ね、素材の下地処理の方法の改善で解決できる算段は見えてきました。しかし「卓越した新機能」のリクエストにはどのように答えていったら良いか?このアイデアを探るためには、人間中心設計プロセスを導入し、このタスクと向き合うべきである、ということに思い至りました。そこで実施したのは、現状の調理器具の利用状況を把握することでした。
一般的に料理は、下ごしらえ、調理、配膳、片付けといった作業プロセスを、様々な調理ツールを用いて同時並行で行います。そして、それらを効率的に行いたいと考えるのが私たち生活者です。そこでレミパンのメインターゲットである一般家庭の主婦と、小規模な飲食店の調理師を対象とした調査を始めることにしたのです。この調査では下ごしらえから配膳後の洗浄、後片付けまでの一連の行動観察と、その記録を振り返りながらインタビューを行いました。さらに行動関節ではウェアラブルカメラを導入し、これを最大限に生かすことによって、文字通りの「生活者目線」での観察を行ったのです。
この結果、仮説として立てていた「調理にまつわる隠れた不満」が見えてきました。それはヘラやお玉といった、調理ツールにまつわる不満です。調理中に調理ツールをカウンターやまな板の上に置くと汚れが付着して、拭き取り掃除の手間が増えてしまいます。置き場として小皿を用意すれば、これも洗い物を増やしてしまうことに。さらに鍋やフライパンの中にツールを一時置きすると、調理ツールが熱くなり、焦げたり、火傷の原因にもなります。この不満を解決するため、何度も検討を重ね、最終的にたどり着いたのは、実はシンプルながら今までには無かった機能、「調理ツールをハンドル部分に固定する」というアイデアでした。
そこでこのデザイン要件を満たす設計解をできるだけ用意し、たくさんのプロトタイプを作成しました。このプロトタイプを基に何度も検証と考察を行なったわけですが、初期のデザインでは穴を設けて取り付ける方法と、マグネットで固定するという2種類の案がありました。そこで製造元に相談したところ、マグネット式というのはこれまでに全く存在しない方法で、製造が困難であり、コストも大きくなることから取り付け穴を設けることを強く勧められました。
コストや製造工程を複雑にしてしまわないという大きな問題を含んでいましたから、製造メーカーの勧める通り、取り付け穴を使う方法に進路をとりながら、実際に何度も試作を重ねることにしました。しかしテストを繰り返すうちに、最終的に「自分が欲しいカタチとはなんなのか」ということを深く考えるようになりました。それはユーザーが自然に気持ちよく使えて、美しいカタチである。このことに気づいたのです。
マグネット式にすることで、製造はかなり難しいものになる。コストにもそれは跳ね返ってくる。しかし、そういったより良い製品に仕上げるためのこの挑戦がプロジェクトでは最も重要なことだ、と考え直して、マグネット方式を選択する決断をしました。
この段階から製作チームに参加してくださったプロダクトデザイナー、柴田文江さんの尽力も大きなものでした。製作にあたって、これまで出てきた課題点をどのようにデザインに落とし込んでゆく作業が始まったわけですが、柴田さんの参加でこの作業は大きく進展してゆきます。デザインとはたんなる外見の問題ではなく、ユーザーにとっていかに使いやすいものであるかどうかである。このことを軸にモノづくりに取り組んでおられる柴田さんの参加は力強いものでした。
マグネットをハンドルに組み込む仕組みと製造方法の開発は試作を繰り返し、アイデアを出し合いながら、最終的には理想的な形となりました。同時に、これに対応したキッチンツールも4種類を用意しました。例えばターナーは「しなる」ことを優先に考えたデザインで、薄い料理の下に差し込む時でも、隙間にしなってきちんと入り込むことができるように素材と形状を工夫して実現しました。
ハンドルの形状と角度もこのリニューアルで大きなポイントにした部分で、多くの形状の試作品を作り、最適な角度を導き出すための専用のツールを作って開発を進めした。また本体の形状と色合いもこれまでのユーザーの方からリクエストの大きかったものでしたので、これも重要ポイントとして取り組んでいます。このレミパンが置かれたキッチンにお客様がいらっしゃった時にも、思わず見せたくなってしまうような、ちょっと自慢したくなるツールになるようなカタチと色を目指しました。塗装はセラミック系の耐熱塗料を使用し、上下の色の違いを出すための特別な工程を施し、これを実現しています。
レミパンプラスの完成後、果たして狙い通りの効果を発揮できるものなっているのだろうか?要求に対する設計の評価として、主婦8名を対象にした、従来のレミパンとの比較検証調査も行いました。調査内容としては、カレーの作りやすさを比較するというもので、下準備、炒める、煮る、盛り付ける、後片付けをする、という一連の行動を観察しました。
その結果、新型のレミパンプラスでは従来型と比べて、キッチンツールの一時置き場の掃除や小皿が不要になったことから、洗い物や拭き取り掃除の回数も減り、調理時間の短縮になったことが明らかになりました。また「調理ツールの置き場所が決まっているので、どこにおいたのか毎回迷わずに済む」「ツールが熱くならないので、火傷のリスクも減る」といった利点も確認されました。このような検証結果、つまり「ユーザーに精神的な安心感を与えられた」ことが、この新型レミパンを開発したことの一番大きな成果であり価値なのではないかと、思っています。
平野レミが良く言っている言葉があります。「料理は、上手に出来上がらなくても、外見が綺麗でなくても、たとえ美味しくなくてもいい。けれど、家庭でご飯を作ることが大切なのだ」と。みんなで一緒に食べることで、そこに会話が生まれます。そして会話が幸せに繋がり、家庭の幸せが、世界の平和へと繋がってゆく。
ヒトをキッチンへと向かわせる足取りを少しでも軽くするために、料理道具はできるだけ簡単に使えて、便利なほうが良い、と考えています。そんな「キッチンから広がる幸せ」を私たち、remy はこれからも追い求めてゆきたいのです。
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