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洋楽ポップスの地理学的考察②~歌に登場する地名を追ってみよう~

「歌詞に地名が出てくると嬉しい」ということから始まった「洋楽ポップスの地理学的考察」。1回目は完全に脱線したまま終わってしまいましたが、2回目となる今回からは、ちゃんと丁寧に個別の曲を掘り下げていきたいと思います。

①をまだお読みでない方はこちらから。


〈津々浦々?〉

さて、まず、1969年に発売された我らが森進一氏の珠玉の名曲「港町ブルース」の歌詞を見てみましょう。

背のびして見る海峡を 今日も汽笛が遠ざかる
あなたにあげた 夜をかえして
港、港 函館 通り雨

流す涙で割る酒は だました男の味がする
あなたの影を ひきずりながら
港、宮古 釜石 気仙沼

出船 入船 別れ船 あなた乗せない帰り船
うしろ姿も 他人のそら似
港、三崎 焼津に 御前崎

別れりゃ 三月 待ちわびる 女心のやるせなさ
明日はいらない 今夜が欲しい
港、高知 高松 八幡浜

呼んでとどかぬ人の名を こぼれた酒と指で書く
海に涙の ああ愚痴ばかり
港、別府 長崎 枕崎

女心の残り火は 燃えて身をやく桜島
ここは鹿児島 旅路の果てか
港、港町ブルースよ

こんなふうに「北海道→岩手・宮城→神奈川・静岡→四国三県→大分・長崎・鹿児島→最後にもう一度鹿児島」といった感じで、一応全国「津々浦々」をカバーしていることがわかります(枕崎のほうが桜島よりも「南」なのはご愛敬)。なお、最初に発表されたバージョンでは「横浜」「柏崎(新潟)」「下関(山口)」も入っていたんだそうです。

あと、ちょっとマイナーな曲だけど、シューベルツの『日本の旅』も、「津々浦々」をカバーしています。「札幌→函館→青森→十和田湖→東京→横浜→富士→名古屋→京都→大阪→神戸→広島→四国→別府→博多→長崎→桜島」という、驚異のカバー率を誇ります(ちょっとやりすぎよね)。そこまでやるなら、小生の出生地である川崎市も入れてほしいです。

アメリカの曲の場合、こんなふうに「津々浦々」をカバーしているものはほとんどないと思います。もちろん「広すぎるから」というのが一番の理由でしょうけど、日本みたいに「北から南」というパターンだけでは対応できないということも大きいでしょう。

ちなみに、小生は一時、ライブのMCで
「今日はようこそおいでくださいました。私たちは日本全国で幅広く演奏させていただいております。北は北千住から、南は南千住まで、西は西船橋から、東は東船橋まで…」
というネタをたまに使っていましたが、ええ、もちろん…
一 度 も ウ ケ ま せ ん で し た

〈アメリカ全土をカバーしている曲ってあるのん?〉

とはいえ、一応「アメリカ全土」をカバーしている曲もあることはあります。例えば、これ。

This Land Is Your Land

This land is your land,
This land is my land,
From California
To the New York Island,
From the redwood forest,
To the Gulf stream waters,
This land was made for you and me.

「この土地はワイらのものやで」ということで、「カリフォルニアからニューヨークまで」と東西(西東)方向をカバー。それで、「レッドウッドの森からメキシコ湾まで」で、今度は南北(北南)方向もカバーできているわけですね。「港町ブルース」などのように、都市名を1つずつ上げていくスタイルでは、とても拾いきれませんから、こんなふうに言うしかないわけです。なお、「東海岸から西海岸まで」、つまり「全米の」にあたる表現として、coast-to-coastがあります。が、南北方向に対して「全米の」を指す一般的な表現はちょっと思いつきません。

別の曲の話に移りましょう。The Beach Boysの代表曲である“Surfin’ U.S.A.”は、やたらと地名が出てくるので、「津々浦々もの」かと思いきや、そうではないのです。「アメリカのあらゆる場所でみんなサーフィンしてるぜ」という歌だと思われがちですが、そうじゃないんです。

曲の冒頭部分をしっかり聞いてみてください。

If everybody had an ocean
Across the U.S.A
Then everybody’d be surfin’
Like Californi-a
You’d see them wearing their baggies
Huarache sandals too
A bushy bushy blond hairdo
Surfin’ U.S.A

仮定法過去が使われていますが(みたいな話はあんまりしないことにして)、要するに「アメリカ中のみんなの近所に海があったら、みんなカリフォルニアみたいにサーフィンをやるだろうね。バギーパンツを着て、ワラチサンダルを履いて、もじゃもじゃ頭でさ…」みたいな感じ。

そんで、この後に出てくる地名は、基本的にはすべて「カリフォルニア州のサーフィンスポット」なのです。♪Inside outside U.S.A.「アメリカの中でも外でも」と歌っているので、オーストラリアのNarrabeenと、ハワイのWaimea Bayという、超メジャーなサーフスポットも出てきます。

注意しなければならないのは♪All over Manhattanという歌詞です。高校生のころ、ここを聞いて、小生は思わず「なるほどなるほど。ニューヨークでもサーフィンやっちゃうぐらい、アメリカ中でサーフィンが盛り上がってるんだな」と解釈してしまいました。「ということは、他に出てくる地名も、西海岸だけでなく、東海岸なんかも混ざっているんだろうなあ…」と。ところが、そうではなかったんです。このManhattanは、カリフォルニアの「マンハッタンビーチ」のことだったのです。

〈「道路もの」の曲〉

よい子のみんなは、もちろん、フランク永井の「夜霧の第二国道」をご存じだと思います。名曲中の名曲です。これ、トリビアなんですけど、「第二国道」は「第二京浜国道」の略なのですが、実はこれ、「国道1号線」のことなんです。お江戸日本橋と、大阪は梅田を結んでいる、あの道路のことです。その国道1号線の「東京から横浜」の部分だけを、「東京と横浜を結ぶ、ぶっとい道路のナンバーツー」ということで「第二京浜国道」と呼び、「第二国道」、さらに太田区民や川崎市民などは、さらに「二国にこく」という略称を常用しております。「にこく」なのに「国道1号線」であるという、ほんとにふざけたことになっています。

なお、小生はあんまり使わないですが、「一国いっこく」もあります。こは「第一京浜国道」の略称です。日本橋から横浜に至る「国道15号」のことなのです。「いっこく」なのに「15号」なわけで、マジでわかりにくいですよね…。

何を言おうとしていたのか、よくわからなくなりかけていますが、そうそう、ええと、「道路」を中心にした歌にも地名がめちゃんこ出てきますよね。日本の歌の場合、「道路もの」はそれほど多くない印象があるなあ。

「海岸通」(風)

もちろん、こんなの↑とかもあるけど、これって東京都港区の、鮫洲の運転免許試験場のところを走っている、あの通りのことじゃないっぽいですよね。単に「海岸のほうの通り」というイメージで、特定の場所は想定していない感じがします(なお、この曲は超々々々名曲ですので、もし聞いたことがない人がいたら、人生を損しています。ぜひ聞いてみてください)。

ええと、なんでしたっけ? そうそう、「道路もの」の話でしたよね。それだったら、ジャズスタンダードとしても有名な、この曲を外すことはできますまい。そう、Nat King Coleのバージョンでよく知られていると思われる、“Route 66”であります。

「ルート66」は、イリノイ州シカゴとカリフォルニア州サンタモニカを結ぶ旧国道です。ジョン・スタインベックのThe Grapes of Wrathでは、The Mother Roadとも呼ばれていました。今では、Interstate州間高速道路にその役目を取って代わられて、廃線となっています。

この曲のブリッジ部分では、地名がこれでもかと連呼されています。

Now you go through St. Louis
Joplin, Missouri
And Oklahoma City
Looks mighty pretty
You'll see Amarillo
Gallup, New Mexico
Flagstaff, Arizona
Don't forget Winona
Kingman, Barstow,
San Bernardino

city / prettyのように、すべてのlineが見事に韻を踏んでいることにも注目いたしましょう。それで、これらの都市を、Google Mapでつなぐと、なんということでしょう。

見事に順番通りに繋がっています。いやあ、ほんとにお見事です。ちなみに、徒歩だと631時間かかるそうですよ。

しかし、東西方向ではかなり充実しておりますが、北部や南部は出てこないのですから、やっぱり「津々浦々」感はないというのが正直なところですね。

〈In the Wake of 「津々浦々」な曲〉

ここまで、基本的には「アメリカの曲は、そんなに『津々浦々してる』曲はないわよね」というスタンスで書き殴ってまいりました。ところがどっこい、こんな曲があったことをふと思い出しました(行き当たりばったりで書いておりますので…)。が、長くなってしまったので、とりあえず今回はここで筆を置きたいと思います。

* * * * *

「ニーズはあるの?」「読んでくれている人は本当にいるの?」「そもそも、社内的に求められているの?」などなど、数々の疑問を禁じえません。が、

The Show Must Go On

の精神で、もうちょっとだけ続けてみようかなと思います。どうぞよろしくお願いいたします。


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