【サマソニ対策】THE 1975が帰ってくるから全アルバムレビューしてみた
君の寝てる姿が好きなんだ、なぜなら君は美しいということに気づいていない三代目齋藤飛鳥涼です。
いよいよSUMMER SONIC(通称サマソニ)が帰ってきます!元々オリンピックで解除となる幕張メッセが使えないということもあり、縮小版のSUPERSONICの方を2020年にやる予定でしたがコロナ禍で中止、翌年2021年も当初発表されていたメンツから大幅に刷新したダンスミュージック系のアクト中心のフェスと行われました。そんなこともありちゃんとサマソニの屋号を用いて行われるのは3年ぶりとのことで、会場の方も従来のマリンスタジアムと幕張メッセの両会場を使う従来のものに戻りました!
そして今回のサマソニのヘッドライナーに抜擢されたのが、2020年のSUPERSONICで当初ヘッドライナーをやる予定だったPOST MALONEと、今回の記事で紹介することになるThe 1975なわけなんですよね。
The 1975とはなんぞや
This is The 1975 for Manchester from Englandと自らが名乗るように、彼らはイギリスの工業都市マンチェスターを拠点に活動するバンドだ。2012年にEP「Facedown」でデビュー、現在までに4枚のフルアルバムを出している。
彼らのことを一言で表すとするなら、"10年代ロックシーンで唯一勝ち抜いてきたロックスター"だ。というのも2010年代の音楽シーンというのは非常にロックが苦しい時代であって、90年代以降からなんとなく漂っていた売れるロックバンド=ダサいという風潮がピークにまで達した時代でもあるんですよね。
そんなこともこの年代で評価の高いバンドって結構ナードな見た目だったり音楽オタクを煮詰めたような仙人のような人だったり、あえてポップで派手な音像を避け小難しいテクに走る傾向があって。特にThe 1975がデビューした時代はロンドン五輪開催によるイギリス文化の見直しの影響もあって、非常にクラシカルで悪く言えばおじさん受けのよさそうな古き良きガレージロックが流行っていた時期でもあったんですよ。
このような風潮もあってかロックがシーンの中心に踊り経つ機会は少なくなり、それと同時にトラップの流行でヒップホップがシーンの主役に台当。Kendrick LamarとかFrank Ocean、Taylor Swift、The Weekndだったりが支持を獲得しロックはどこへ?って状態になり、結果として2010年代はロック冬の時代と言われるまでになったわけです。
そんな中イケイケでモード系っぽい見た目と、それまで商業色の強さから再評価されてこなかった80sポップスを大胆に取り入れたロックでこの時代を勝ち抜いてきたのがThe 1975でした。彼らは音楽に関して非常に柔軟な姿勢を持ち合わせており、それと同時にSNSを駆使したプロモーションでその一挙一足に注目を集めてきたわけです。
ここらへんの詳しい背景なんかは2年前に書いているのでぜひ参考に。まぁ簡単にその周辺のシーンの状況を説明したわけだが、The 1975の魅力はここから4枚のアルバムをレビューしながら紐解いていこうと思う。
1st. 「The 1975」
青臭く完璧なデビューアルバム
2012年のシングル「Sex」、その翌年に発表されたシングル「Chocolate」の時点で若手バンドの中ではかなり洗練されたポップな音像を提示していた彼らが、2013年9月に満を持してリリースしたデビューアルバムはどの曲も目を見張るような完成度を持ったものだった。
アンビエントなオープニングトラック「The 1975」からなだれ込むように、力強いドラムとぶりぶりとしたベースに牽引される「The City」で始める今作は、黒を基調としたジャケット写真に象徴されるようにどの曲も非常にシックな装いのお洒落なサウンドメイキングが施されている。
今作のサウンドを象徴するような曲こそ、彼らの初期の代表曲でもある「Chocolate」だ。二本のギターが緻密に織りなすリフが非常に心地い音で、大きな盛り上がりこそは無いけどただただずっと心地良いポップなメロディが最高にシャレオツ。その綺麗さに相反して詞の方はマリファナ中毒者が警察から逃げる様子が描かれており、スリリングな言葉で紡がれることで楽曲に鋭利な魅力を加えていく。
その後もぶっといシンセのリフが印象的な「Heart Out」や、抒情的なメロディが胸に響く「Settle Down」、モノクロームな作品を一瞬で華やかなものにする清涼剤のような「Girls」といった、並みのバンドだったら一曲でも書けれたら良く出来ました賞をあげたくなるような一級品のポップソングが多く収録されている。
ここまで非常に器用かつスマートな一面ばかり目立つが、このアルバムのもう一つの魅力はロックバンドとしての青臭さという点だ。デビュー前はエモバンドとしてスタートしたという経緯もあり、デビューアルバムの今作ではそんな彼らの激情的な魅力が見ることが出来る。先行シングルの「Sex」なんかの激しいギターサウンドは特に顕著な例だ。
その中でも一曲上げたいのが破滅的なバラード「Robbers」だ。エモバンド時代から歌われてきたこの楽曲は、ギターによるストロークスを極力そぎ落とし、マシューヒーリーによる情感たっぷりなボーカルを前面に押し出すしたことのより楽曲をよりエモーショナルなものに仕立て上げることに成功している。このような一度聴いたら病みつきになるようなポップスも提示しつつ、ロックバンドとしてのソリッドさをも最初のアルバムで提示してしまった彼らのポテンシャルの高さに驚かされてしまう。
2nd.「I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it」
シンセポップの新たな機軸を作ったヴィヴィッドな実験作
彼らはインディーロックなのか?それともアイドルバンドなのか?という懐疑的な視線がデビュー時から向けられていた彼らだが、そんな疑念への回答としてニューアルバムからのリードシングルとして最初に発表したのが、めちゃくちゃポップに振り切ったファンクなナンバー「Love Me」だったことでさらなる混乱の渦を巻き起こすことになる。
それまでのシックでモノクロームなイメージを刷新した白とピンクを基調としたジャケット、メンバーの見た目もかなりポップスター感が増していった。だが3年前彼らが取り組んだ80sポップスの再解釈は音楽シーン全体のトレンドと化しており、Bruno MarsやTaylor Swiftらが80年代の要素を取り入れた楽曲でヒットを飛ばしており彼らの先見の明が正しかったことが証明されたわけだ。
ということもあり今作に収録されている楽曲は非常に80年代の匂いが色濃いものになっている。爽やかかつどこか憂いを帯びたメロディが泣かせる「She's American」、これぞまさに80年代のシンセポップだよねって感じの「This Must Be My Dream」、プリンスを彷彿とさせるミニマルなファンクと荒々しいボーカルが最高な「UGH!」などどれも素晴らしい楽曲たちだ。
だがこのアルバムの面白い所はポップな楽曲と同じくらい実験的な楽曲も結構入っている点だ。ミニマルなチルウェイブのタイトル曲を始め、アンビエントなインストナンバー「Please Be Naked」、シューゲイザーの如く轟音なギターサウンドが印象的な「Lost My Head」、しっとりと大人びたR&B「If i Belive You」、アーバンかつトロピカルハウスの要素すら感じる名曲「Somebody Else」など一概に80sポップスと片付けるには風呂敷が広がりすぎている感がある。このやれることはなんでもやろうの、ジャンルレスな作風が開花しかけているのが今作の大きな特徴とも言えるだろう。
そんな感じでアルバムの統一感で言うと他の作品より劣ってしまう今作だが、ポップな楽曲の訴求力が強かったのか全英、全米の両方で一位を獲得する偉業を成し遂げる。このような商業面での成功がLANYやLauv、The Japanese House、Pale Wavesといった後続のシンセポップ系のバンドの躍進や、日本でも米津玄師「春雷」やネオシティポップ系バンドの楽曲に見られるようなShe's American歌謡と呼ばれる楽曲群などに与えた影響を考えると、このアルバムで提示した80sポップスをアンビエントやシンセウェイブで再解釈したサウンドが一時代を作り上げたことが窺える。ポップさと実験性の絶妙なバランスがイノベーションをもたらした一枚。
3rd.「A Brief Inquiry Into Online Relationships」
インターネット時代と向き合った大傑作
前作のツアー終了後、マシューヒーリーのドラッグ中毒克服のリハビリなどもあり音沙汰が無くなりかけてたThe 1975。The SmithsもRadioheadも3枚目でキャリアを代表する傑作を作ったから俺らもということで製作段階の時点でかなり野心的な目標を持って作られた本作はその言葉通りThe Smithsの「The Queen Is Dead」、Radioheadの「OK Computer」と並んでも遜色が無いほど高いクオリティの名盤を作り上げることとなる。
今までのシンセウェイブなオープニングトラックから一転してシンプルなものになった「The 1975」の時点でただならぬ空気を醸し出し、そこからJoy Divisionを彷彿とさせる無機質なギターリフでミレニアム世代に挑戦を促す「Give Yourself Try」、小気味良いトロピカルハウスの「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」、そして圧巻のエレクトロニカ「How To Draw/petrichor」と息もつかせない展開で聴く者をアルバムの世界観に引き込んでいく。
これまでもその軽やかなポップセンスとは裏腹に、内省的で不安定な言葉で詞を紡いできた彼らが、インターネットの発達によって変わりつつあるコミュニケーションと対峙するような詞を今作では残している。トラップに乗せアメリカの銃社会への非難を痛切に叫ぶ「I Like America& America Likes Me」、ドラッグのリハビリ施設で実体験を軽快なトラックで歌う「It's Not Living(If It's Not Living)」、ロボットとの結婚をテーマに歌ったレディオヘッドのオマージュ「The Man Who Married A Robot / Love Theme」。
そしてこのアルバムを象徴する対照的な二つの楽曲にも触れておきたい。「Love It If We Made It」はThe Blue Nileが89年に発表した名曲「The Downtown Lights」を大胆にエモラップ風にサンプリングした楽曲であり、人種差別、終わらない紛争、メンタルヘルス、薬物と現代社会におけるショッキングな時事問題に臆することなく触れている問題作だ。もう一つの楽曲がゴスペルやジャズの要素を大胆に取り入れた屈指のポップナンバー「Sincerity Is Scary」だ。一見すると些細な男女の別れ話を描いたような楽曲にも見えるが、正直であることが怖いというタイトルにもある通り、SNS時代における本当の自分をさらけ出すことの恐怖を痛切に歌っているようにも捉えられることが出来るかもしれない。またいずれの楽曲も近年のヒップホップシーンの主流のサウンドを抑えている点も、このバンドの抜け目のなさを垣間見れる。
ロック、R&B、ソウル、ジャズ、フォーク、アンビエント、シューゲイザー、エレクトロニカ、ヒップホップ。前作以上に扱うジャンルの幅は広がったものの、不思議とどの楽曲も内省的なムードで統一されており散漫な印象は無い。むしろ一つのストーリーのように繋がっているかのような錯覚に陥るほど、このアルバムの構成力は群をぬいているというか、つるっと一聴出来てしまう聴きやすさがある。
今作は先述のRadioheadの「OK Computer」と比較されることが多く、「OK Computer」はテクノロジーの進化によって無機質化されていく現代社会への怒りや絶望をぶちまけた傑作だ。20年後に発表された今作は「OK Computer」が予見していた未来を生き抜く若者に、挑戦することを訴えかけている泥臭さい作品であるのだ。彼らは現代に絶望しつつも諦めているわけでは無い、死にたいと思っても心のどこかでは生きることを諦めてないのだ。今を生きる僕らのためのアルバムであり、The 1975がこの時代を大法するロックバンドたる所以が詰まった一枚だ。
4th. 「Notes On A Conditional Form」
混迷の時代のサウンドトラック
早い段階で10年代のロックシーンにおける金字塔としてのポジションを確立しつつあった前作と同時並行で作られていた本作は、前作と合わせてMusic For Carsというバンドがホンモノのロックバンドになるためのコンセプトであり、The 1975が多くのリスナーにとって重要な存在になったことで更なる進化を求めた時代という風に彼ら自身が定義したものだ。
というわけで本格的に情報が公開される前は前作の姉妹作的立ち位置と予測されていた今作だが、その予想はバンド史上最も荒々しいインダストリアルなパンクナンバー「People」が先行シングルとなったことで大きく裏切られることとなる。その後も鮮やかなUKガラージの「Frail State of Mind」、ジャングリーで甘酸っぱいギターポップの「Me & You, Together Song」、牧歌的なフォーク「The Birthday Party」と毎回異なるジャンルのシングルがリリースされることで作品の方向性を予測することがどんどん困難になっていった。
最終的に25曲、1時間20分というとんでもないフルレングスとなった今作はパンデミックの真っ只中にリリースされた。先述の楽曲の他にも、泣きのドリームポップの「Then Because She Goes」、ルーズなアメリカンロック調の「Roadkill」、ゴスペルラップの「Nothing Revealed / Everything Denied」、佐藤博をサンプリングしたチルな「Tonight」、インストの「Having No Head」をはじめとしたガラージやハウスの要素を取り入れたダンサブルなトラックなど、まさに彼らが幼少期に車で聴いていたであろうありとあらゆるジャンルの音楽がここには収められている。多様なジャンルという点では今までの作品と同様ではあるが、それまでの作品がある程度それぞれのアルバムの空気感をまとわせていたのに対し、今作はどの楽曲も強い個性として発揮しておりバラバラであることが逆に謎の統一性を生み出しているみたいなとこまである。
また今作はそれまでの作品では行われなかった試みとして、外部からのゲストを多く器用している点が挙げられる。「Jesus Christ 2005 God Bless America」ではこの年傑作「Punisher」をリリースするPhoebe Bridgers、彼らの十八番でも80sポップス「If You're Too Shy」ではFKA Twigs、「Don't Worry」ではマシューヒーリーの実の父、はたまたオープニングトラックの「The 1975」に至っては環境活動家のグレタトゥーンベリがスピーチまでしている。
外への発信というテーマ性のあった前作とは打って変わり、複雑な自己の内面世界へと潜り込んでいく今作だが、そこで歌われているの他者と繋がることの重要性である。SNSの到来により変わりゆくコミュニケーションの難しさを前作では歌いつつも、今作ではコラボや詞などを通じて繋がりを保とうとしており、最後はありったけのバンドへの愛を綴る「Guys」で締める流れはとても温かい。奇しくも未曽有の感染症の到来で対面で人と会うこと、そして繋がりを保つことが難しくなったそのタイミングで、生活のどこか一部分を彩るようなサウンドトラックになりえたのがこの作品の最大の魅力だ。
The 1975が帰ってくる
2020年にアルバム「Notes On A Conditional Form」をリリースして以降、全てのツアーをキャンセルして休止期間に入っていた彼ら。レーベルの後輩たちの楽曲への客演やプロデュース以外ではほぼほぼ音沙汰が無かったわけだが、2022年10月に待望の5作目「Being Funny In A Foreign Language」をリリースすることを発表!
アルバムからの先行曲としてオルタナティブフォークの「Part Of The Band」、今までの彼らにありそうでなかったポップナンバー「Hapinnes」ともうすでにわくわくするような楽曲がリリースされていて、アルバムの方にも期待が溢れる。
そしてバンドの復活後最初のライブがまさかのSUMMER SONICということで、彼らがどんな素晴らしいライブを魅せてくれるかとても興奮している。
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