【感想】Mr.Childrenは「Soundtracks」で完成した
みなさんこんにちは。
結構前に地元の蔦谷書店行った時の話です。
僕はその時急激に本を読みたい意欲に駆られて、面白そうな本を探してたんです。ふと新書コーナーに立ち寄ると、僕は急に誰かに見られている気がしたんです。その気配は老練な感じがしながらも、強烈なエネルギーを感じがしました。
KOWAINAaa...KOWAINAaaa...
僕は恐る恐る後ろを見ることにしました。
するとなんてことでしょう
キングカズ×3がめっちゃ満面の笑みで生涯現役感を出してたんですね。とてもこわいですねぇ。ベテランながらも日本サッカー界を常に牽引し続ける姿勢には、もうほんと凄まじいとしか言えません。ベテランで思い出したんですけど、先日Mr.Childrenが2年ぶりとなるニューアルバム「Soundtracks」をリリースしました。
新作を聴いて涙が止まらねぇよおいら
実はかれこれ最近の活動スタイルや、先行リリースされている曲なんかを聴いてたりする中で、なんだかんだ今までで一番期待値が高くなりつつあったんですよね。(おまえリアルタイムで追い始めたの「Reflection」からだから全然あまちゃんじゃねーかって声は無し)
でもいざ期待値が高くなりつつなると、逆に怖くなってくるもんで。だって日本を代表する天下のミスチルですよ?まず最低限の品質は保証されているわけで、漠然とした感じになってしまうんですけど、ようはその一定のラインから突き抜けることができるかがミスチルの新作の楽しみ方みたいなところはあるんですよ。
うわぁ、これで意外と普通くらいのアルバムだったらなんだかなぁ、みたいな感じで12月2日の0時になった瞬間、おもむろにSpotifyを開いたわけだ。
やりやがったな、ミスチル
今どきサブスクが主流なのに、サブスクに無いってどういうことだこの野郎。しかもこれでiTunesにあるなら、まぁ仕方ないなだ話は終わるんですよ。それすら無いねん。マジかよJENてめぇって思っちゃったよね。(嘘です。そんなこと思ってません。JENさんのあの何とも言えないギャグ大好きです。)
中の人ただの貧乏大学生だからさ、通常版3300円を払うのですら十二指腸をえぐられるような気持ちなわけでね。まぁ渋々CD屋まで行って、野口英世の顔がえぐれるくらいの気持ちでCDを購入したわけさ。店員のお姉さんも何かを察したのか、NiziUのクレアファイルもくれたんだけど全く嬉しくないよね。
まぁその日あった用事とかも終わらせて帰宅後、即ステレオの電源を入れてCDを投入。ミスチルのアルバムを聴くときは真実・誠実・謙虚であることというJYパークからの教えを守りつつ、正座をしながらいざ対戦!
結果から申し上げます。
このアルバム、やべぇ。
おじさんびっくりですよ。個人的ミスチル最高傑作「It's A Wonderful World」と肩を張り合えることのできるアルバムが、まさかデビューしてから28年のよりによってこのどうしようもない2020年にリリースされるなんて。
いやぁあまりにもびっくりしすぎてて、これは文字にでも起こして他の人に感想をシェアしたいっていう自己顕示欲と、他の人にも聴いてもらいたいなっていうありがた迷惑な親切心が働きまして、クッソ遅い深夜からこうやってnoteをまた書いているわけなんですけど。とりあえず何が言いたいかっていうと、俺はもうこのアルバムが凄すぎて涙が止まらん。ぴえん超えてぱおんってやつだよ。
ここが凄いよ「Soundtracks」
ここからは個人的に感じたこのアルバムをざっくりと箇条書きしていこうかなと思います。読みづらい文章だったらごむんぬ。
凄さその1 アレンジが素晴らしい
まずこのアルバムを聴いて一番にわかりやすいでしょう。ミスチルのテンプレとも言うべき仰々しいアレンジ(特にコバタケ末期のブラオレ)がこのアルバムでは少ないです
というか「Reflection」以降の彼らは脱小林武史的なアプローチを念頭に置いていたわけだが、今回は渡英してスティーブフィッツモリス、サイモンヘイルという俺は初めて聞いたが、向こうではどうやら一流らしいスタッフと共に制作。
これが功を奏したようで、アレンジが気取っておらず、その曲にあった程よくシンプルイズベストなアレンジが施されているわけです。それでいながら「君と重ねたモノローグ」のアウトロみたいな遊び心もありつつという余裕っぷり。
凄さその2 バンドとして最高のコンディションであること
前作「重力と呼吸」、それに伴う後輩バンドとの対バンツアーなどを経て失いつつあったロックバンドとしてのMr.Childrenのアンサンブルは、先述の巧みなプロデュースワークによって稀代のポップクリエイターとしてのバンドの要素と上手く掛け合わさることとなります。
前作ほどロックロックしているわけでもないのに、各メンバーのそれぞれのプレイがしっかりと光っているんですよ。特筆すべきはギターの田原さんですよ。今作の影のMVPといっても過言ではないですよ。「君と重ねたモノローグ」「Others」での細やかなプレイを聴いて田原やるやんとは思いましたよ。
でもそれ以上に彼のギターの音色の豊かさですよ。昔はミスチルの弱点の一つとも言われていたぺっらぺらなギターの音が、今作は誰かが入れ知恵でもしたのかもだけど、「Brand new planet」の少し湿った感じのブルージィなギターソロ、「turn over」でのサーフロックライクなギターサウンド。もうほんと田原さんのギターの音に魔改造を施した人を凄く褒めたい。この細かな気配りだけでどれだけ楽曲に彩りが増したことか。
(余談だが田原やるやんって思ったギターソロ、実は桜井さんが弾いてるあるあるがよくあるのだが、今作はそれが無いことを信じたいばかりである。)
凄さその3 捨て曲の無さは全アルバムでもナンバー1説
ここが一番重要なんです。今までのミスチルのアルバムはあえて捨て曲となるようなインスト曲を挟んだり、純粋に強度の強い楽曲(ここでいう強度とはシングルとかに採用されやすいようなキャッチーさ)を並べることで高クオリティな作品作りをしていました。前者は「Atomic Heart」、後者は「BORELO」を思い浮かべてもらうとわかりやすいでしょう。
しかし今作は10曲ともやや強めの強度ながら、引き算の美学ともいえる巧みなプロデュースワークなど様々な要因によって、アルバム全体に抜群の聴きやすさと一貫性をもたらしているんですよね。それでいて楽曲構成の配置バランスも見事。
いやこれほんと聴きやすいなと思って、「ミスチル 新作」でエゴサしてたら、なんだこのプロデューサーたち、U2の「All That~」とか宇多田ヒカルの復帰後の音源とかに携わってんのかよ!?そりゃいいに決まってるよな笑。
凄さその4 ダークな桜井和寿が垣間見れるよ
やはり僕が一番惹かれるのはここなんですよね。ファンの方なら知っていると思うし、今じゃ知らない子達もいっぱいいると思うが、90年代後半のミスチルは暗黒期とも称されるくらい、ギラついたロックバンドだった時期がある。(こんなこと書いてる自分も「終わりなき旅」と同い年なので、ニコニコおじさん桜井さんしか見たことないんですけどね笑)
その頃の桜井さんの描く歌詞世界というのは、絶望というかもうどうしよもなく深い落とし穴の底のようなところから、希望を見出そうとするような歌詞が多く、それに加えて障害者がテーマのドラマの主題歌にがっつり放送禁止用語を入れたり、コンドームをくれって歌ってミリオン記録が途切れたりと中々に破滅的な一面を垣間見せていた。
今作はそこまで破滅っぽい要素を大っぴらに出しているわけでは無いんだけど、それ以上にアーテイストととして円熟期に入ったことが原因なのか、このご時世に感化されたのか、漠然と「死」や「終わり」といったイメージに向き合っている。この空気感どこか暗黒期に通じる何かがある気がするのだが、まだ未来が保障された若さゆえの反動から来るネガを形にしようとした暗黒期に対し、いつか来る終わりが現実味を増してきた今をどう向き合うかというポジティブなところから来る今作。似ているところもありつつも少し違う、そんなもどかしさがとても新鮮に感じるのだ。
彼らはやっと一つのバンドになれたのかもしれない
凄さその4と少し被る話であるのだが、僕はこのアルバムを聴いてミスチルはバンドとして完成したと感じることができた。記事のタイトルをオウム返しする形となってしまったが、ほんとにそう思ったのだ。
(こっからはかなり暴論まじりの持論が展開されるので悪しからず)
だって考えてみてくださいよ?
歴代の作品の中で桜井和寿以外のメンバーにもしっかりとクローズアップされてるんですよ!
てめぇなんてこと言うんだって思うミスチルファンもいると思うけど、実際今までのMr.Childrenというバンドは桜井和寿という屈指のメロディメイカーとその他三人って構図のバンドっていう認識が一般的じゃないですか。僕だって長い間ミスチルの作品聴いてますけど、未だに他の三人の下の名前はわかりませんよ。
というか酷い時なんて桜井和寿と小林武史と空気だったあのワンマンバンドの象徴みたいな天下のミスチルが、このアルバムでは本来持ちうるポップセンスをフルで発揮しながら強靭なバンドアンサンブルを鳴らしてるって物凄いことですよ。ブラッドオレンジ以降、死にかけていたバンドとしての血肉を「Reflection」、「重力と呼吸」、対バンツアーとかを経て見事にバンドとしてのパワーを取り戻したんですよ。
そして肉体が完璧となった今、バンドの魂とも言える桜井和寿のソングライティングの世界に「命の終わり」という新たなテーマが生まれたわけですよ。
無意識が悟った通り 僕は僕でしかない
いくつになっても 変われなくて
「Birthday」の歌詞の一節。何気ないフレーズだけど、僕はこの詞に強烈な既視感を覚えたんですよ。
本当の自分なんて 何処にもいないような気がしてる
だからこそ僕らは その身代わりを探すんだね
前略宮沢賢治様 僕はいつでも
「アメニモマケズ 風ニモマケズ」
優しく強く 無欲な男
「ソウイウモノ」を目指してたのに
自分に嘘をつくのが だんだん上手くなってゆく
流れゆく時代をしがみつく僕を笑って
仮面を着けた姿が だんだん様になってゆく
僕はつい見えもしないものに頼って逃げる
あー、あの頃とほぼ同じやん笑。
いやまぁ元々自己啓発みたいな歌詞が多い所ではあるけど、バンドサウンドとか時代の終末感(バブル崩壊&世紀末とコロナ禍)もあいまって空気感が完全にそれなんですよ。特に「losstime」と「Documentary film」の流れの終末感やばない???
初期からのミスチルを聴いている音楽ファンなら少し共感してもらえるかもしれないが、特に初期のミスチルって同世代のバンド群と比べるとルーツとなった音楽が見えづらい所があるんですよね。それゆえ渋谷系にカテゴライズされたりするけど、別にファッションを除けばそこまで渋谷系な感じもないし。まぁこの際正直言っちゃうと「普通」なんですよね。
そして大ブレイクは一気に現行ポップシーンに抗うかの如く、急にギラついたロックスターみたくなったり、同世代のオルタナ的な作風とかを取り入れたり、桑田佳祐っぽいくどい回しを多用したボーカルになったり、長渕もどきなフォークにチャレンジしたりといろいろ模索し始めるんですよね。
そしてそういった模索を明確に意思表示したのが「DISCOVERY」というまんまなタイトルなわけで、まんまU2の「The Joshua Tree」のジャケットのパクリ、まんまU2の代表曲のタイトルを拝借した「終わりなき旅」で復帰するというこの一連の流れ。なんでこんな人様の真似事をするの?って思うかもしれないが
そりゃほぼ同期でぱっと思いついただけでもこんだけ曲者揃いのスーパースターがいるのに加えて、海の向こうにはトムヨークがいるって考えたら、自分は〇〇になりたくてぇ~って歌いたくなりますよ。
でもその「普通」さがミスチルの弱みでもあり、最大の強みでもあるんですよ。だってミスチル登場以前であんな着飾ってない普通なバンドいなかったわけだし。「自分は一体何者なのか?」という等身大の僕らに一番感覚的に近いバンド、それがMr.Childrenというバンドであって、そして彼らがその感覚に意識的になった「It's A Wonderful World」がミスチル史上最強のアルバムになったのはそう考えると必然になるんですよね。
桜井和寿がBUMP OF CHICKENを褒めるのもなんかわかる気がするんですよね。同じくワンマン体制ながら確固たる世界観を確立できている向こうに憧れるのも。そんでもってミスチル国民的バンドとして役割を全うさせる代わりに、誰かになりたい欲をBank Bandで他人の歌をカバーすることで解消しようとしていたわけですし。(とはいえミスチルの方でも「擬態」とかでそういう所がチラホラ出ているが)
結果として小林武史に完全に飲まれてしまい、「[(an imitation) blood orange] 」というアルバムでバンドとしてのミスチルは死にかけた。小林武史は普遍的なものを作ることにおいては天才で、そこがミスチル(桜井和寿)が持つ普遍性と合致こそはしていたが、結果として小林武史の成分の方が上回ってしまった。
小林武史と袂を分かってから5年近くだが、終わることのない新型コロナウイルスの猛威に閉塞感が漂う中、彼らは「Soundtracks」という傑作をリリースした。
誰もひとりじゃない
きっとどっかで繋がって
この世界を動かす小さな歯車
長いDESCOVERYを経て、一時はNOT FOUNDと言ってた彼らは答えを見つけたように思える。今は桜井和寿一人のバンドじゃない。桜井、田原、中川、鈴木の四人でMr.Childrenなわけで(ほんとに下の名前が思いだせねぇんだ...)、赤信号みんなで渡れば怖くない、高い壁四人いれば楽に登れるといった具合に、今のミスチルに怖いもんなんて何もないんですよ。
最強のMr.Childrenは今作で完成したと思う。
みなさんも是非この日常を彩るサウンドトラックを手に取ってみては?
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