アジアと芸術 digital

鳳書院の新レーベル「アジアと芸術」のnoteです。日本を含むアジアと広義の芸術として人…

アジアと芸術 digital

鳳書院の新レーベル「アジアと芸術」のnoteです。日本を含むアジアと広義の芸術として人文一般もカバーしつつ、まだ日本では広く知られていない各国の作家やアーティストなどにもスポットを当てていきます。

マガジン

  • 「見えない日常」木戸孝子

    家族の親密な関係性を収めたシリーズ「Skinship」が、このところ欧米の数々の写真コンテストで高い評価を受けている写真家の木戸孝子氏。同作のテーマに至るきっかけとなったのは、彼女がニューヨークでの生活で思いがけず遭遇した〝逮捕〟だったーー。

  • 「湖畔篆刻閑話」和田廣幸

    日本人として中国に長く暮らし、書や篆刻の文化、中国古美術品の世界にも造詣が深い和田廣幸氏。書と篆刻の魅力、日中の文化比較、書画作品の批評などを独自の視点で綴る。

  • 「法華経の風景」宍戸清孝・菅井理恵

    写真家・宍戸清孝とライター・菅井理恵による写真エッセー「法華経の風景」です。日本各地の法華経にまつわる土地を撮影し、エッセーを添えます。

  • 「地に墜ちた衛星」劉子超

    中国のノンフィクション作家・劉子超による中央アジア旅行記『失落的卫星』(2020年)の翻訳です。同作は中国で豆瓣2020年ノンフィクション部門第1位に輝き、第6回単向街書店文学賞(年間青年作家部門)も受賞しました。

最近の記事

書評『沖縄戦記 鉄の暴風』沖縄タイムス社編/文・大森貴久

沖縄戦の歴史的名著を再刊  ものを書く仕事を始めて、沖縄には何十回と取材で足を運んできた。その度に、周囲からは羨むような言葉をかけられた。私が暮らす東京では、多くの人にとって「沖縄=リゾート」なのだろう。  ただし、私のなかにはリゾート地に出かけるときのような高揚感はまるでなく、むしろ、いつも襟を正すような気持ちで那覇空港に降り立つ。取材旅行の目的の多くは、沖縄戦に関するものだからだ。  2024年6月10日、東京・台東区に本社を置く筑摩書房から、1冊の文庫本が発刊され

    • 湖畔篆刻閑話 #5「物は常に好む所に聚まる」和田廣幸

      ヘッダー画像:漢代の文字塼(拓)部分 運甓斎所蔵  あれは確か昨年の11月のことでした。何の前触れもなく、何と小学校時代の友人から突然手紙が届いたのです。私が日々の出来事をSNS上にアップしているのを偶然見たということで、わざわざ連絡先まで調べて書き送ってくれたのです。小学校の卒業が昭和52年(1977年)の3月ですから、実に47年ぶりのやりとりということになります。  3枚の便箋には、懐かしい少年の頃の思い出がびっしりと書き綴られていました。そこには「そんなこと、あった

      • 見えない日常 #12 木戸孝子(写真家)

        前回〈Chapter 11〉はこちら Chapter 12  移民局の法廷から帰って来た日の夜、南米出身の囚人が私のもとに来た。彼女は、「アイネスがTakakoの悪口言ってるよ」と教えてくれた。  アイネスはエクアドル出身のおばちゃんで、盗みで軽犯罪になったことがあり、その後、飲酒運転で2度目の軽犯罪となり、移民局に逮捕された。もう7ヵ月もここにいる。アメリカ国内に留まりたくて闘っていたが、もういやになって、最近、強制送還に同意してサインし、エクアドルに帰れるのを待って

        • 書評『BLと中国―耽美をめぐる社会情勢と魅力』周密著/文・菅井理恵

          ※  片田舎で暮らしていた小学生の頃、帰りの会で歌舞伎公演のチラシを渡された。著名な女形が出演する公演で、妖艶な「女性」の写真が大きくデザインされている。クラスの誰も、歌舞伎を見たことなどなかった。  ランドセルを放り投げるように肩に掛けた男子が、「こいづ、男なんだってよ」「うそこぐな(嘘つくな)」と言い合いながら教室を出て行く。(え、そうなの?)と驚いてチラシを見返すと、「女性」は周りの女性の誰よりもきれいで色っぽかった。後日、観劇してきた近所のおばちゃんが「きれいだっ

        書評『沖縄戦記 鉄の暴風』沖縄タイムス社編/文・大森貴久

        マガジン

        • 「見えない日常」木戸孝子
          12本
        • 「湖畔篆刻閑話」和田廣幸
          4本
        • 「法華経の風景」宍戸清孝・菅井理恵
          12本
        • 「地に墜ちた衛星」劉子超
          20本

        記事

          インタビュー「シリーズ『アジアと芸術』が目指すもの」鳳書院 松本義治代表取締役社長

          地に足のついた仕事をしなければならない ―― 代表取締役就任から3ヵ月余りが経ち、新しい立場になったことで気づいたもの、見えてきたものなどはありますか。 松本 鳳書院は現在、首都圏に4つの書店を経営する傍ら出版事業もおこなっています。私自身、これまで個人的には本を〝買う側〟であり、編集畑でしたので〝(書店に)売っていただく側〟という立場でしかものを見ていなかったわけですが、今度はブックスオオトリという〝売っていく側〟の立場にもなりました。  鳳書院では社内のどの人間も、

          インタビュー「シリーズ『アジアと芸術』が目指すもの」鳳書院 松本義治代表取締役社長

          湖畔篆刻閑話 #4「琵琶湖賛歌」和田廣幸

          ヘッダー画像:白砂青松の美しい湖畔の佇まいが続く涼風・雄松崎の白汀 「帰去来兮(帰りなんいざ)。」  これは4世紀から5世紀にかけての東晋の詩人、陶淵明の「帰去来辞」の冒頭の句です。彼が官を辞して故郷の田園に生きる決意を詠んだ詩で、田園詩人と称される陶淵明の代表的な一首です。  中国の首都である北京より、滋賀のこの琵琶湖畔の地に移り住み、早いもので、すでに6年目を迎えました。まさに冒頭の「帰去来辞」さながらの思いを抱いての帰国だったことを思い返します。  私の住む琵琶

          湖畔篆刻閑話 #4「琵琶湖賛歌」和田廣幸

          見えない日常 #11 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 10〉はこちら Chapter 11  ハドソン・カウンティーで、私に最初に話しかけてくれたのは、中国人と韓国人だった。同じ国の人かもしれないと思ったのだろう。やっぱり同じアジア人。こんな場所で会うと、とても仲間意識を感じた。アメリカ人の中には、日本人、中国人、韓国人は、それぞれの国の言葉で話してもコミュニケーションができると勘違いしている人も少なくない。  韓国系中国人のチンは、ほとんど英語が話せなかったから、漢字を書きながらなんとか会話をした。

          見えない日常 #11 木戸孝子(写真家)

          「琳派×アニメ」展 北海道立近代美術館/ 美術館ルポ・高橋伸城

          ヘッダー画像)鉄腕アトム×富士 2021年 ©手塚プロダクション 琳派とアニメの共演  アトムは空をどんなふうに飛んでいるだろうか――。  北海道札幌市を真っ直ぐに横切る大通から何本か南側の道を、西へ向かって歩く。遥か向こうにのぞく山は白い。 「もっと厚手の上着を持ってくれば……」  そんなことを思いながらある交差点を曲がると、決して広くはない街路に沿って桜が咲いていた。例年より少し早い開花だった。  4月の終わり、北海道立近代美術館で開催されている「琳派×アニメ」展

          「琳派×アニメ」展 北海道立近代美術館/ 美術館ルポ・高橋伸城

          インタビュー「ファインダー越しに見つめた中国との60年」齋藤康一(写真家)

          戦時下での祖父の一言 ―― 齋藤さんがお生まれになったのは昭和10年(1935年)の東京都品川区大井町。日中全面戦争が始まる2年前にあたりますね。 齋藤 今振り返ると、戦時中だった子どもの頃は、変わった生活を過ごしていましたね。  当時、母方の祖父が、たびたび帝国ホテルに連れていってくれたのです。フランク・ロイド・ライトの設計で、建物が珍しかったのはもちろん、食事や調度品、トイレまで洗練されていて驚きましたよ。特に、洋式便座のトイレを初めて見て、子ども心に衝撃でした。外

          インタビュー「ファインダー越しに見つめた中国との60年」齋藤康一(写真家)

          湖畔篆刻閑話 #3「顔真卿は王羲之を超えた?」和田廣幸

          ヘッダー画像:顔真卿筆「祭姪文稿」(※1)  2019年1月16日から2月24日の間、東京国立博物館において特別展「顔真卿―王羲之を超えた名筆―」と題した展覧会が開催されました。このnote をご覧になっている方の中にも、同展を参観したという方がいらっしゃることでしょう。  これまでの書の世界では、あの幻の名品「蘭亭序」の作者、書聖・王羲之があまりにも神格化された存在であったため、付けられたその副題がセンセーショナルであったことから国の内外で一躍注目を集め、とりわけ書の

          湖畔篆刻閑話 #3「顔真卿は王羲之を超えた?」和田廣幸

          見えない日常 #10 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 9〉はこちら Chapter 10  私たちを乗せた車は、マンハッタンの移民局のオフィスに着いた。指紋の採取や、様々な手続きの後、そこからそれぞれ別の移民局拘置所に連れて行かれた。別れる前に見たボーイフレンドは、重罪犯になってしまったせいで、危険な囚人が着せられる赤色の囚人服に着替えさせられていた。明るい色が妙に似合っていて、思わず笑顔になって手を振った。  私が連れて行かれたのは、ニューヨーク州のとなりのニュージャージー州にあるハドソン・カウンテ

          見えない日常 #10 木戸孝子(写真家)

          『水墨の詩』の著者・傅益瑶氏が講演(神戸・4月21日)

          文・アジアと芸術digital編集部 「アジアと芸術」のシリーズ1作目として刊行した『水墨の詩』の著者・傅益瑶さんの講演会が4月21日、神戸市内において第三文明社の主催で開催されました。  講演タイトルは「水墨画と法華文化を語る」ーー。『水墨の詩』の編集に携わった南部健人さんが進行役を、文筆家の東晋平さんが解説を務め、40年以上に及ぶ傅さんの日本での画業を法華文化の視点で辿りました。講演の抄録は、6月1日発売の月刊『第三文明』7月号に掲載予定です。  会場で『水墨の詩』

          『水墨の詩』の著者・傅益瑶氏が講演(神戸・4月21日)

          書評『お調子者のスパイス生活』1〜4 矢萩多聞著/文・菅井理恵

          ※  フライパンに油とクミン、カルダモン、シナモンを入れて火にかけると、ふつふつと油が泡立ち、勢いよく香りが立ち上がる。自宅で「インドカレーもどき(と呼んでいる)」を作るようになって、俄然、スパイスに興味を抱くようになった。  画家であり、装丁家でもある矢萩多聞さんの『お調子者のスパイス生活』シリーズは、2022年10月に1冊目、翌年7月に2冊目、10月に3冊目、そして、2024年1月に4冊目が刊行されていて、それぞれにテーマとなるスパイスが決められている。  私の自宅

          書評『お調子者のスパイス生活』1〜4 矢萩多聞著/文・菅井理恵

          インタビュー「〝自閉症のアーティスト〟として」星先こずえ(切り絵作家)

           ヘッダー写真)こずえさん(右)と母・薫さん(左) これまでとは異なる制作のプロセス ――「Social Art Japanプロジェクト」は「アートの力で社会課題を発信する」とのコンセプトのもと、19名の障害者の方が在宅勤務で作品を制作されています。こずえさんは2020年に1人目の社員アーティストとして入社されました。在宅とはいえ、勤務として制作するようになって何が変わりましたか。 こずえ 月に2点の作品を会社に提出するんですが、そのうちの1点はSDGsに関わるものを描

          インタビュー「〝自閉症のアーティスト〟として」星先こずえ(切り絵作家)

          湖畔篆刻閑話 #2「書は人なり(書如其人)」和田廣幸

          ヘッダー画像:節録 荃廬先生「西泠印社記」部分 2021年  私が初めて中国の地を訪れたのは、大学3年の1985年、年の瀬の時期のことでした。大学書道部の訪中団に参加して、8日間の日程で北京・桂林・上海の地を訪れたのです。  寒々とした北京の空港に降り立った瞬間、まず目に飛び込んできたのは、「北京」と大きく書かれた毛沢東の手になる真紅の文字でした。この瞬間、なぜかまざまざと現実の中国の姿を垣間見た思いがしました。専用のバスから眺める中国の街は、色とりどりの筆文字の看板で溢

          湖畔篆刻閑話 #2「書は人なり(書如其人)」和田廣幸

          見えない日常 #9 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 8〉はこちら Chapter 9  ボーイフレンドがベイルアウトして職場に戻ると、彼の給料は2倍に増えていた。ボスは、彼の大切さを身にしみて感じたらしい。「君にはずっとここで働いてほしい」と言ってきた。いられるものならいたいのだけど……。  アメリカの裁判のシステムは日本とはだいぶ違う。まず弁護士が、刑を軽くするために、検事と何度も交渉をする。交渉が終わると、弁護士が電話をくれて交渉の結果を伝えてくれるので、被告人は法廷で何を言われるかを知ったうえ

          見えない日常 #9 木戸孝子(写真家)