アジアと芸術 digital

鳳書院の新レーベル「アジアと芸術」のnoteです。日本を含むアジアと広義の芸術として人…

アジアと芸術 digital

鳳書院の新レーベル「アジアと芸術」のnoteです。日本を含むアジアと広義の芸術として人文一般もカバーしつつ、まだ日本では広く知られていない各国の作家やアーティストなどにもスポットを当てていきます。

マガジン

  • 「湖畔篆刻閑話」和田廣幸

    日本人として中国に長く暮らし、書や篆刻の文化、中国古美術品の世界にも造詣が深い和田廣幸氏。書と篆刻の魅力、日中の文化比較、書画作品の批評などを独自の視点で綴る。

  • 「見えない日常」木戸孝子

    家族の親密な関係性を収めたシリーズ「Skinship」が、このところ欧米の数々の写真コンテストで高い評価を受けている写真家の木戸孝子氏。同作のテーマに至るきっかけとなったのは、彼女がニューヨークでの生活で思いがけず遭遇した〝逮捕〟だったーー。

  • 「法華経の風景」宍戸清孝・菅井理恵

    写真家・宍戸清孝とライター・菅井理恵による写真エッセー「法華経の風景」です。日本各地の法華経にまつわる土地を撮影し、エッセーを添えます。

  • 「地に墜ちた衛星」劉子超

    中国のノンフィクション作家・劉子超による中央アジア旅行記『失落的卫星』(2020年)の翻訳です。同作は中国で豆瓣2020年ノンフィクション部門第1位に輝き、第6回単向街書店文学賞(年間青年作家部門)も受賞しました。

最近の記事

書評『北朝鮮に出勤します』(キム・ミンジュ著/岡裕美訳)文・菅井理恵

※  朝鮮半島の軍事境界線付近の〝北側〟に、南北経済協力事業の目玉として開城工業団地が建設されたことは知っていた。けれど、そこで働く人たちについて考えたことはなかった。  筆者のキム・ミンジュさんは、団地内の食堂を運営する韓国企業に就職し、2015年の春から約1年間、栄養士として働いていた。平日は軍事境界線を越えて北朝鮮で働き、週末は韓国で過ごす生活。『北朝鮮に出勤します』は、その日々のなかで出会った、北の普通の人々との、特別な日常を綴ったエッセーだ。  ミンジュさんの

    • 湖畔篆刻閑話 #7「源遠流長―甲骨文字から思うこと」和田廣幸

      「低头族」(dītóu zú:低頭族)という言葉がしきりに中国のメディアに取り上げられるようになったのは、かれこれ10年以上前のことでしょうか。  まさに読んで字の如く、「頭を垂れてスマホの画面に見入る人々」のことを指す中国語の新語でした。スマホの急速な普及とともに、今では中国の若者だけでなく、世界中どこの国でも老若男女を問わずこの「低头族」で溢れていると言えそうです。  スマホをのぞき込むこうした光景は、今や日常の一部となりつつあります。以前の日本では朝の通勤時間

      • 見えない日常 #14=完 木戸孝子(写真家)

        前回〈Chapter 13〉はこちら Chapter 14  家に帰った日から、毎日12時間以上眠った。ひどく疲れていて、お昼くらいまで起きられなかった。ひとりで寝るのが怖くて、お母さんの布団の横に自分の布団を並べて寝た。  ライカーズアイランドから出た後、定期検査に行った婦人科の先生から「日本に帰ったら必ずもう一度検査に行って」と念を押されていた。病院に行ったら、子宮頸がんになりかけていた。「数値が次に進んだら手術」と言われた。この時、「罪を認めて条件付き釈放で日本に

        • 書評『インドの台所』小林真樹著/文・菅井理恵

          ※  台所には独特の魅力がある。「男子厨房に入らず」という言葉が表すように、ひと昔前の日本では、厨房=台所は〝男子たるもの〟が立ち入るべきではない女性の城で、台所にはどことなく私的な雰囲気が漂っていた。  祖母の台所には焼酎漬けの瓶がたくさん置いてあった。アルコールでゆがむ液のなかで、梅や山ブドウ、オトギリソウやマムシなどが何年もの間、漂っている。清潔だけれど年季の入った床に座り込み、瓶が並ぶ棚にもたれて曇りガラスを通る光をぼんやり見ていると、なぜか心地よく、ほっとしたも

        書評『北朝鮮に出勤します』(キム・ミンジュ著/岡裕美訳)文・菅井理恵

        マガジン

        • 「湖畔篆刻閑話」和田廣幸
          7本
        • 「見えない日常」木戸孝子
          14本
        • 「法華経の風景」宍戸清孝・菅井理恵
          12本
        • 「地に墜ちた衛星」劉子超
          20本

        記事

          「“おいしい”本を心ゆくまで――台湾珍味文學展」台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター/文・南部健人

          食に宿る土地や個人の記憶  筆者が北京に留学していた頃、中国各地の学生はもちろん、いわゆる港澳台(香港、マカオ、台湾の総称)からの学生や、マレーシアやシンガポールなど東南アジアで生まれ育った中華系の学生など、さまざまな地域の華人と話をすることがあった。  彼らとは〝中国語〟を使ってコミュニケーションを取るのだが、地域によって発音の癖があったり、同じ意味の言葉でも異なる単語が用いられたりしていて、言葉は環境の影響を受けて多様に変化していくのだと興味深く思ったものだった。

          「“おいしい”本を心ゆくまで――台湾珍味文學展」台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター/文・南部健人

          湖畔篆刻閑話 #6「伝統こそ最先端」和田廣幸

          ヘッダー画像:蝴蝶夢 2022年 (左から印稿、印面、印影)  私の住む琵琶湖の西岸には、南北に走る比良山系の山並みが続いています。標高1214mの最高峰である武奈ヶ岳をはじめ、1000mを超える峰々が連なり、この季節は琵琶湖でのウォータースポーツや湖水浴を楽しむ人々の姿とともに、夏山を楽しむ多くの登山者の姿も目にします。  8月に入ると、1週間ほどで暦の上では「立秋」を迎えます。地球温暖化の影響で、まだまだ厳しい35度超えの猛暑日が続くと思いますが、なぜだか立秋と聞いた

          湖畔篆刻閑話 #6「伝統こそ最先端」和田廣幸

          見えない日常 #13 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 12〉はこちら Chapter 13 「国境がなかったら、移民局のジェイルなんて存在しないのにね」――私がそう言うと、マーバは「そんなこと考えたこともなかったけど、その通りだよ。そんな世界だったら素晴らしいね」と答えた。マーバは、トリニダード・トバゴ出身。優しい目をした、長髪のドレッドヘアーがかっこいい黒人のおばちゃんだ。ブルックリンに35年も住んでいた。  彼女いわく、無実の罪でドラッグ所持の罪状を認める羽目になったそうだ。ライカーズアイランドに

          見えない日常 #13 木戸孝子(写真家)

          インタビュー「日本人の死生観と、その変遷」佐藤弘夫(東北大学名誉教授)

          聞き手:菅井理恵 インタビュー写真:宍戸清孝 日本人特有の死者とのかかわり方 ―― 死生観に関心を抱くきっかけはあったのでしょうか。 佐藤弘夫 小さい頃は身体が弱くて、「長くは生きられない」と言われるほどでした。小学校の低学年の頃は学校にもろくに行かず、家で横になっているだけ……。そうすると、小さいながらに、不安ではないけれど、自分が違う世界との接点にいるという感覚が非常に強くなりました。  今、自分が生きている世界=現実世界があるけれど、それではない、もうひとつの世

          インタビュー「日本人の死生観と、その変遷」佐藤弘夫(東北大学名誉教授)

          インタビュー「タイの若者のカルチャーと政治意識」福冨渉

          聞き手:東晋平 『ドクター・クライマックス』が描く時代 ―― 6月からNetflixで配信が始まった『ドクター・クライマックス』(2024年)は、保守的な空気の強かった1970年代~80年代のタイが舞台です。生真面目な皮膚科医の主人公が、ひょんなことから素性を隠したまま性に関する読者の相談に答えるコラムを担当し、これがさまざまな波紋を広げていきます。このところ、BLやGLも含めてタイ発の作品が世界的にも注目されていますね。 福冨 日本でも同じだと思いますが、タイもコロナ

          インタビュー「タイの若者のカルチャーと政治意識」福冨渉

          書評『沖縄戦記 鉄の暴風』沖縄タイムス社編/文・大森貴久

          沖縄戦の歴史的名著を再刊  ものを書く仕事を始めて、沖縄には何十回と取材で足を運んできた。その度に、周囲からは羨むような言葉をかけられた。私が暮らす東京では、多くの人にとって「沖縄=リゾート」なのだろう。  ただし、私のなかにはリゾート地に出かけるときのような高揚感はまるでなく、むしろ、いつも襟を正すような気持ちで那覇空港に降り立つ。取材旅行の目的の多くは、沖縄戦に関するものだからだ。  2024年6月10日、東京・台東区に本社を置く筑摩書房から、1冊の文庫本が発刊され

          書評『沖縄戦記 鉄の暴風』沖縄タイムス社編/文・大森貴久

          湖畔篆刻閑話 #5「物は常に好む所に聚まる」和田廣幸

          ヘッダー画像:漢代の文字塼(拓)部分 運甓斎所蔵  あれは確か昨年の11月のことでした。何の前触れもなく、何と小学校時代の友人から突然手紙が届いたのです。私が日々の出来事をSNS上にアップしているのを偶然見たということで、わざわざ連絡先まで調べて書き送ってくれたのです。小学校の卒業が昭和52年(1977年)の3月ですから、実に47年ぶりのやりとりということになります。  3枚の便箋には、懐かしい少年の頃の思い出がびっしりと書き綴られていました。そこには「そんなこと、あった

          湖畔篆刻閑話 #5「物は常に好む所に聚まる」和田廣幸

          見えない日常 #12 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 11〉はこちら Chapter 12  移民局の法廷から帰って来た日の夜、南米出身の囚人が私のもとに来た。彼女は、「アイネスがTakakoの悪口言ってるよ」と教えてくれた。  アイネスはエクアドル出身のおばちゃんで、盗みで軽犯罪になったことがあり、その後、飲酒運転で2度目の軽犯罪となり、移民局に逮捕された。もう7ヵ月もここにいる。アメリカ国内に留まりたくて闘っていたが、もういやになって、最近、強制送還に同意してサインし、エクアドルに帰れるのを待って

          見えない日常 #12 木戸孝子(写真家)

          書評『BLと中国―耽美をめぐる社会情勢と魅力』周密著/文・菅井理恵

          ※  片田舎で暮らしていた小学生の頃、帰りの会で歌舞伎公演のチラシを渡された。著名な女形が出演する公演で、妖艶な「女性」の写真が大きくデザインされている。クラスの誰も、歌舞伎を見たことなどなかった。  ランドセルを放り投げるように肩に掛けた男子が、「こいづ、男なんだってよ」「うそこぐな(嘘つくな)」と言い合いながら教室を出て行く。(え、そうなの?)と驚いてチラシを見返すと、「女性」は周りの女性の誰よりもきれいで色っぽかった。後日、観劇してきた近所のおばちゃんが「きれいだっ

          書評『BLと中国―耽美をめぐる社会情勢と魅力』周密著/文・菅井理恵

          インタビュー「シリーズ『アジアと芸術』が目指すもの」鳳書院 松本義治代表取締役社長

          地に足のついた仕事をしなければならない ―― 代表取締役就任から3ヵ月余りが経ち、新しい立場になったことで気づいたもの、見えてきたものなどはありますか。 松本 鳳書院は現在、首都圏に4つの書店を経営する傍ら出版事業もおこなっています。私自身、これまで個人的には本を〝買う側〟であり、編集畑でしたので〝(書店に)売っていただく側〟という立場でしかものを見ていなかったわけですが、今度はブックスオオトリという〝売っていく側〟の立場にもなりました。  鳳書院では社内のどの人間も、

          インタビュー「シリーズ『アジアと芸術』が目指すもの」鳳書院 松本義治代表取締役社長

          湖畔篆刻閑話 #4「琵琶湖賛歌」和田廣幸

          ヘッダー画像:白砂青松の美しい湖畔の佇まいが続く涼風・雄松崎の白汀 「帰去来兮(帰りなんいざ)。」  これは4世紀から5世紀にかけての東晋の詩人、陶淵明の「帰去来辞」の冒頭の句です。彼が官を辞して故郷の田園に生きる決意を詠んだ詩で、田園詩人と称される陶淵明の代表的な一首です。  中国の首都である北京より、滋賀のこの琵琶湖畔の地に移り住み、早いもので、すでに6年目を迎えました。まさに冒頭の「帰去来辞」さながらの思いを抱いての帰国だったことを思い返します。  私の住む琵琶

          湖畔篆刻閑話 #4「琵琶湖賛歌」和田廣幸

          見えない日常 #11 木戸孝子(写真家)

          前回〈Chapter 10〉はこちら Chapter 11  ハドソン・カウンティーで、私に最初に話しかけてくれたのは、中国人と韓国人だった。同じ国の人かもしれないと思ったのだろう。やっぱり同じアジア人。こんな場所で会うと、とても仲間意識を感じた。アメリカ人の中には、日本人、中国人、韓国人は、それぞれの国の言葉で話してもコミュニケーションができると勘違いしている人も少なくない。  韓国系中国人のチンは、ほとんど英語が話せなかったから、漢字を書きながらなんとか会話をした。

          見えない日常 #11 木戸孝子(写真家)