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インボイスの本質は2%の信頼関係

2023年10月の導入を目前に控えてようやく話題になり始めたインボイス制度。

このインボイス制度において、ビジネスにおけるお互いの信頼関係が試されることになることを多くの方は理解していません。

今経営者の皆様がやるべきことは、インボイス反対のプラカードを掲げて時間を費やすことでも、不必要な不安に駆られて事業をたたもうかなどと悩むことでもありません。

インボイス制度の趣旨をきちんと理解し、不安をあおるメディアに乗せられるのではなく、自分が今やるべきことを見定めていきましょう。

インボイスの本質を教えます

消費税というのは変わった税金です。税というのだから本来は国に直接収めるものであるべきところ、皆さんは消費者の立場で国や地方自治体に消費税を納めた記憶はないと思います。

※本来は飲食料品の消費税率は軽減税率8%ですが説明の便宜上10%としています(以下同様)

この事例で言うところの主婦は500円の野菜を購入するのに50円の消費税を上乗せして、国ではなく八百屋に50円の消費税を払っていますね。

この消費税50円がどのようになっていくのかと言うと、八百屋もその野菜を農家から300円で仕入れる際に、農家に30円の消費税を上乗せして支払っています。

ここで八百屋は事業者として自身の確定申告において消費税を国に納税しています。計算としては、主婦から預かった50円の消費税と農家へ預けた消費税30円の差額、つまり手元に残った20円を、確定申告のタイミングで国に納めています。

これで、まず主婦が負担した50円の消費税のうち、20円は無事に国に納税されました。残りの30円はどうでしょう?

残りの消費税30円は農家です。農家も事業者として確定申告をしていて、そのタイミングで、八百屋から預かった消費税30円を国に納税することになります。

そうすると、主婦が負担した50円が、八百屋から20円、農家から30円、国に納税されることで、きちんと全額納税されることになりました。


ここで、農家が30円を納税しなかったどうなりますか?

主婦、つまりは国民が負担した消費税が国ではなく農家の手元に残ってしまいます。

「だめだよ農家さん、ちゃんと納税しなくちゃ!」
と言うと農家は答えます。

「だって私は消費税の納税が免除されているんですよ。年間の売上が1000万円以下なので免税事業者として、消費税は納税しなくていいことに合法的になっているはずですよ。」


広く国民から徴収する税である消費税の性質からしても、国民が負担している税金が国でなく誰かの懐に入ってしまっている事実をこのままにするわけにもいかず、将来的にさらなる増税を目論む国としては今のうちからこの免税事業者の納税しない特典(益税と言います)を排除する必要があります。

そして、この免税事業者に消費税を納税するための手法としてインボイス制度というものが生まれました。


ときは少し遡り、インボイス作戦ができる前には別の消費税を納めさせる方法が挙がりました。

作戦①免税制度の撤廃

目的が免税事業者の益税なのであれば、シンプルにこの免税制度を撤廃することがいいですね。

年間1000万円以下の売上規模の事業者であろうが、たとえばメルカリなどで洋服を売った場合でも消費税の申告が必要なようにして、課税取引を行えば誰でも消費税を納める仕組みにすれば、シンプルに公平です。

しかしながら、この方法には大きく2つの欠点があります。

欠点Ⅰ:全員に申告されると税務署の事務負担は半端ない
課税取引を行った人全員が確定申告を行うようなことになれば、それこそ税務署に大行列ができてしまいます。普段確定申告などしたことがない人たちばかりですから、混乱は間違いなし。

欠点Ⅱ:全員が申告するとは限らない
全員がまじめに申告するとは限らないという話。むしろ絶対に全員が申告する制度などは作れない。

そのためこの作戦はポシャることになります。


作戦②インボイス制度

そこで登場したのがインボイス制度です。

国は消費税を納税している事業者だけを番号管理することにしました。

そしてその消費税を納めていない事業者が発行した番号が付いていない請求書や領収書をもらっても、相手方は消費税の控除をすることができないというルールを作ります。

つまり、その番号をもっていない事業者は取引先から嫌がられ、結果として市場の蚊帳の外に締め出される仕組みを作ったのです。

この事例では、農家は消費税を納税していないから番号をもらえません。その農家が発行した請求書には農家の番号がついていないため、八百屋は本来は農家が納付すべき消費税30円を実質的に負担することになります。

すると八百屋は農家に言います。
「おいおい、君が納税しない消費税をなぜ私が負担しなくてはならないんだよ。君も正しく消費税を納税して番号をとってくれてこちらに迷惑が掛からないようにしてくれよ。それができないなら他の農家にお願いするようにさせてもらうよ。もしくは消費税の負担分を値引きしてくれなきゃ理屈がつかないだろ。」

こうやってこの農家は八百屋との取引を続けてもらうために消費税を納税して国から番号をもらうことにしました。

この番号こそが、インボイスナンバーと言われるものなのです。

インボイスナンバーを手に入れるためには、消費税を納めることが条件です。

農家としては今まで免除されていた消費税の納税をするかわりに、インボイスナンバーを国からもらい、市場取引に残してもらうという選択をしました。

この農家にとっては税務署よりも八百屋の方が怖いのです。

一般的に事業者は税務署よりも得意先の方が怖いですよね?そのパワーバランスを絶妙に利用して納税を進める方法としてインボイス制度が完成しました。

そしてさらにインボイスの怖いところは、作戦①の免税制度を撤廃して全員に納税させようという作戦だと、全員が申告するとは限らないというデメリットがありましたが、このインボイス制度だと免税事業者が申告をしないとその分、取引先が消費税を納税する仕組みとなるので、税収の確保手段としてはとても効率的なのです。誰かが得をすれば、他の誰かが損をして、国は決して損をしない方法なのです。


信頼関係の2%

このような制度の中で、誰かが得をすれば誰かが損をする仕組みだとお話ししましたが、この損得の具合によって状況は変わってきます。

そのためここからはどれくらいの影響が出てくるかということを書いていきます。

まずインボイス制度の最終着地は下記のとおりです。

農家が消費税30円を納税しない場合、取引先である八百屋が30円を納付することになります。そのため八百屋としては実質的に消費税相当10%の値上げを農家にされた気分です。

この農家を、免税事業者のフリーランスと置き換えてみてください。そして八百屋が取引先の大手企業とすると。

「10%も値上げ?とんでもない。今まで通りおつきあいしたいなら10%は値引きしてもらわないと。それが嫌なら他の業者に当たるよ」なんて乱暴な声も聞こえてきそうです。


なのでこれだけ中小零細企業の免税事業者が仕事がなくなってしまう懸念のある制度であるため、国としては一定の配慮を設けています。

2023/10~2026/9までの3年間においては、免税事業者への支払いであっても、消費税額の80%は今まで通り控除してOK。

という経過措置を設けました。

つまり、農家が消費税30円を納税しない場合、取引先である八百屋が納付するのは30円ではなくその20%相当の6円だけ。そのため実質的な値上げ感は2%(=消費税率10%の20%)程度です。

この2%相当の値上げに耐えられる信頼関係を勝ち得ているかどうかがポイントということですね。

「いやこれくらいの負担であれば、あなたとの関係であれば全く問題ないよ。これからも今まで通り最高のパフォーマンス見せてくれよ」と笑って言ってくれる取引先の顔が浮かぶ方は勝ち組です。

そう、インボイスという制度は、ある意味、あなたの事業の価値を2%という枠組みの中で試すとき、試されるときだと思います。

消費税うんぬんのレベルの話ではなく、これはもうビジネスの本質の話。

あなたが取引先からどれくらい求められているかどうかという話。

論点をすり替えて、国のせいにしている場合ではないのです。

そしてこの経過措置は3年間限定で、その後の2026年10月からは消費税額の50%しか控除できなくなり、2029年10月からは本当に1円も控除できなくなってきます。

つまり、与えられた期間は3年間。

この3年間に、あなたが取引先が他社に流れられないような圧倒的な信頼関係を勝ち得れるかどうかに全てかかっています。


最後にインボイス関連のYouTubeをご案内しておきますので、それぞれの立場の動画をぜひご確認ください!



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