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『ノマドランド』の自由と誇り 〜孤独な旅が教えてくれること〜

映画『ノマドランド』が公開されたとき、ニュースでアメリカには車中泊をしながら季節労働をしている高齢者たちがいて、そんな社会問題を描いた作品だと紹介されていました。なので「とても過酷でつらい生活を描いた映画なのだろう」と思っていました。しかし実際に映画を見てみると、意外にもさわやかな部分があり、その印象は大きく変わりました。


『ノマドランド』は、リーマンショックの後に家を失った主人公ファーンが、バンに住みながらアメリカ西部を旅する物語です。彼女の生活はお金の問題から始まりましたが、旅をする中で他の「ノマド」と呼ばれる人たちと出会い、助け合う姿がとても印象に残りました。ファーンの生活は決して楽ではありませんが、その中でも彼女が見つけた自由や新しいコミュニティが描かれていて、単なる「貧しい生活」以上のものがありました。

ファーンが安定した生活に戻ることもできたのに、自らまた旅を選ぶシーンは特に心に残りました。この選択は、彼女にとって本当の自由と誇り、そして自分らしい生き方を表しています。彼女は最初からこの生活を望んでいたわけではありませんが、その生活を自分のものとして受け入れ、人生を味わっていこうとするタフさには驚きました。

また、映画の映像もとても美しく、アメリカの広大な自然の風景が静かに物語を彩っていました。広がる砂漠や夕陽に照らされた大地、その中を一人で旅するファーンの姿は孤独ですが、その中に静かな強さと美しさがありました。映画には都会のビルなどはほとんど出てこず、広がる自然の中で生きるノマドたちの姿が「本当の豊かさとは何か」を問いかけているように感じました。特に、ファーンが広大な砂漠に立ち、夕陽を眺めながら静かに過ごすシーンや、他のノマドたちと焚き火を囲んで語り合う場面では、物質的な豊かさではなく、自然の中で感じる心の豊かさを強く感じさせられました。


実際に、この映画の主人公ファーンのような生活を選ぶ人々はアメリカにいます。彼らは「ホームレス」ではなく「ハウスレス」として誇りを持って生きています。「ホームレス」は家がないという意味で、どこにも属していないような印象を持たれがちですが、「ハウスレス」は物理的な家はないものの、居場所やコミュニティを持ち、自分らしく生きていることを強調しています。この姿勢は、決まった場所に縛られない新しい生き方の選択とも言えます。映画を見る前には想像もしなかった「自由と誇りを持つ生活」が『ノマドランド』には描かれていました。

この映画は確かに経済的な困難や社会問題を背景にしていますが、それ以上に「どう生きるか」を問いかけてくる作品です。ファーンの選択には、自由や孤独、誇り、人とのつながりといったたくさんのテーマが込められていて、その複雑さこそが『ノマドランド』の魅力であり、深い感動を与えてくれる理由だと思います。

私にとって『ノマドランド』は、社会問題を扱いつつも、そこに生きる人々の誇りや自由を描き、新しい生き方を教えてくれる作品でした。この映画を見た後、自分の人生の中で何を大切にし、どう生きるかを考えるきっかけをもらったように感じます。「老い」についても、まったく違う視点から捉えることができるようになりました。



『ノマドランド』は、第93回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞の3部門を受賞しました。 クロエ・ジャオ監督はアジア系女性として初めてアカデミー監督賞を受賞し、主演のフランシス・マクドーマンドもその素晴らしい演技で主演女優賞を受賞しています。また、ゴールデングローブ賞でも作品賞や監督賞などを受賞し、世界中で高く評価された作品です。この映画はAmazonプライムでも鑑賞可能で、多くの方にぜひ見ていただきたい作品です。

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