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[推し本]別れを告げない(ハン・ガン)/たゆたう読書体験に身を任せてみる

なんだかオルハン・パムク「雪」みがあると読み進め、沼のように引き込まれました。

韓国南端の済州島で起きたタブー的な史実をベースに、夢か現か、暗闇の中でろうそくを灯すようにゆらぎながら、掴めそうで掴めないものを見え隠れさせます。
雪や鳥が独特の世界観で効果的に使われます。
語っている主人公たちは生の世界にいるのか、すでに死の世界にいるのか判然とせず、深海にたゆたうような読書体験となるでしょう。

時代に翻弄された人々がいて、その生き残りの残滓を背負って今があります。長らくなかったことにされ掘り返すこともされなかった土中の犠牲者への慈悲と愛が、ある一家に貫かれているのです。
凄惨極まる史実を糾弾するわけではなく、なぜそれが起きたか原因を探るわけでもなく、政治的な立場で判断するわけでもない。こんな描き方が成り立つのか、と改めて文学の力に瞠目します。

事件を直接知る年代が消えつつあっても忘れてはいけない、終わらせない、ずっと手放さずに共にある、というのがタイトルの意味だと思われます。

ミン・ジン・リーの「パチンコ」や、宮本輝の「流転の海」シリーズに出てくる尼崎の在日コミュニティの背景にもつながってきそうです。


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