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[推し本]しぶとい十人の本屋(辻山良雄著)

昨今、書店が減っている一方で、個人開業のいわゆる独立系書店、というものが少しずつ増えています。その端緒を作ったともいえる、東京・荻窪のTitleという本屋さんの店主、辻山さんが、全国の独立系書店を巡る旅に出て、それぞれの書店主と響き合い、本屋のあり方を見つめ直す著作です。

泣くとは、思っていませんでした。

書店のビジネスモデルは厳しくて、本を読まない人が増え、街からどんどん本屋が消えていく中を抗うように、はたから見ると非効率でも、しぶとく矜持をもって本を商う人たちがいる。決してボランティア精神ではないし、持続可能な商売として成り立たせるために「しぶとく」知恵を出し続ける。来るお客さんを思い浮かべて一冊一冊置くなんて、たゆまぬトライ&エラー以外の何物でもない。
そんな事実に、仕事を作る、という尊さのようなものが滲みます。

ミヒャエル・エンデ「モモ」に出てくるベッポ爺さんを連想しました。

本屋は、「店にある本を眺め、手に取るうちに、次第にその人自身へと帰っていく」場であると辻山さんは書いていますが、本当にそうだと思います。そんな店づくりがされていることが素直に嬉しい。

どの仕事にも通じる職業哲学としても本書をおすすめします。

一方で、「本」というモノは、言葉が詰まっているだけに、やはり特殊な商品なのだろうとも思います。ヒトは言葉で思考しないではいられませんから。その思考に、もっと言うとヒトの形成に、いくばくか、さざなみのようであっても影響をもたらす「取り扱い注意」なモノでもある、というと大げさでしょうか。
どの本を仕入れて売るか、はどの言葉を選んで、あるいは選ばず、誰かに届けようとするのかしないのかということにつながります。そこの意思というか、お店の編集センスが、尖りすぎても商売として成り立たないでしょうし、押しつけが滲み出てもダメでしょうし、逆に何もなければ没個性でこれまた難しいのでしょう。
だからこそ商売の妙味もあって独立系で挑戦する人が出てきているのかもしれませんね。

辻山さんがTitleを開業するまで、と開業後一年の経過を書かれたこちらもどうぞ。フレンチトーストは食べられないことを面白がってくださいね。


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