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[推し本屋]荻窪Titleのフレンチトースト

東京のJR中央線荻窪駅から歩いて12-3分ほどの青梅街道沿いに、つまり行こうと思わないと行かない程度にはまあまあ距離があるところに、Titleという本屋さんがある。
店主の辻山さんはNHKラジオ深夜便で月に一度、本の紹介で出演されていて、紹介される本のセレクトもいつも楽しみだ。

先日、柴崎友香さんの新刊「あらゆることは今起こる」を買いにTitleへ。
他の書店では取り寄せないといけなかったが、Titleなら絶対置いているはず、と行くと、はたしてあった。
逆に、今どの書店でも旋風を巻き起こしている成瀬のなの字もない、なんなら本屋大賞ノミネート作品平積み風景もない、でもみすず書房や医学書院やミシマ社が充実のTitleは静かでとても心地がいい。
(なお、私は「成瀬は天下を取りに行く」「成瀬は信じた道をいく」を激推しで、あちこちで薦めまくったので周囲の友人・知人の10人以上は購入してファンを増やした。3月の琵琶湖の湖開きの日には、ミシガンに乗りに行って聖地巡礼したほどだ。そんな成瀬好きの私でも、Titleにもし成瀬がどーんと腕組みしていたら「ちょっとちゃう」となったと思う。)

さて、Titleの奥にあるカフェでは、かねがね絶品と噂に聞くフレンチトーストには毎回!いつも!とりつくしまなく“終わってまーす“とありつけない。
いや、もう結構、私Titleに通ってるのですが。
いつも人生の何かを試されるような伝説のフレンチトースト、これは何かのプレイなんだろうと今日もダメかと思ったら、ついに、初めて、オーダーが通ってしまった。拍子抜けするほどあっさりと。
通れない人には通れない、しかし通れる人には通れる9と3/4番線に入ってしまったようだ。そしてすぐ後に来た隣のお客さんには”終わってまーす“だった。ああ、そこは9番線でしたか。
50センチも離れていない隣の9番線の方には悪いが、初めていただくフレンチトーストは、ぎりぎり固形にとどまるプルプルのプリンのような食感で、メープルシロップが上品な甘さで、アイスを乗せて正解だった。

斜め向かいのお客さんが読んでいる本は、挿絵からして、森田真生さんの「センス・オブ・ワンダー」のようだ。
本屋さんだからこそ、知らなかった本との出会いがある。自分の好みを深めるものもあれば、フィルターバブルを破ってくれるものもある。小学生や中学生の頃はやることがないと近所に本屋さんが何軒かあったのでよくハシゴしてぶらぶらしていた。小さな書店だと、ドラえもんに出てくる本屋のオヤジみたいに、立ち読みしたらはたきで追い出されることが本当にあるのかドキドキしたものだ。
必ずしもどの本屋さんにもカフェや雑貨コーナーが併設していなくてもいいが、ぶらりと寄るだけで世界が広がるまちの本屋さんは大切な場所だと思う。

翌日、同じようなフレンチトーストを家でもできるかと試したが、一晩卵液にパンを浸しても、焼いたらボソッとして、パンの耳は耳とわかる硬さが残り、改めてあの耳までプルプルはすごいと思った。
次はいつ食べられるだろう。でも食べられなくてもいいのかもしれない。なかなか叶わないことがある方が人生楽しく続きそうではないか。


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