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【推し本】ミッテランの帽子・赤いモレスキンの女/大人のおとぎ話にときめいてもいいじゃない

アントワーヌ・ローランというフランスの作家を初めて知りました。
主にパリの街並みを舞台に、カフェや書店や鉄道が出てきてまずおしゃれ、そしてその中ですれ違う人々、見知らぬ同士が実は知らないところでつながっていて、小さな奇跡が起こる大人のおとぎ話です。
いやー、こういうおとぎ話はいいです。思わず信じたくなるし、多幸感があり、ときめく、ときめきます!争いや諍いばかり目にする昨今、うんとときめいたっていいじゃない。


ミッテランの帽子

時代は1980年代、時のミッテラン大統領がレストランに置き忘れた帽子をめぐって、帽子の持ち主が代わるたびに持ち主の人生を変えていきます。

上司にいびられている会社員、不倫から抜け出せない作家の卵、インスピレーションからかけ離れてしまったかつての天才調香師(こういう職業が出てくるところがさすがフランス、という気がする)、代々の資産を受け継いでいる資産家(これもまたフランス的)、それぞれが今の状況を何か変えたいと思っています。
人は誰も、人生で何か停滞しているときに、ちょっと後押しするきっかけがあると変わっていく、その小道具としてミッテランの帽子がマジックを仕掛けていくのです。
レストランに帽子を置き忘れて以来、ミッテランその人自体は話の中に出てこないのに、最後の最後で、なーんと!という展開を見せてくれます。

1980年代を舞台にしているとはいえ、この本自体は2013年ごろに書かれています。2013年と2023年現在を比べてもSNSやAIなど飛躍的に変わっていますが、1980年代はSNSはもちろん、メールすらなかった時代、誰かと出逢うのは物理的な距離の中での偶然によることが多く、通りを歩いていてもきちんと風景や人を観察して把握できる速度で歩き、その場所に存在しているというような時間の流れ方を感じます。

人生を変えてくれる帽子が自分にも回ってくるのかしら、思わずそんな風に思いますが、目を凝らしていればほらそこに、あなたの人生の扉をあけるものがあるじゃない、、、そう言われている気もします。

赤いモレスキンの女

強盗に襲われてハンドバッグをとられた女、その時の怪我で昏睡状態になっている間に、財布と携帯は抜き取られたハンドバッグをたまたま拾った男が、残された手帳などをヒントに探偵ばりに女を探し出す。ひょんなことから女が入院中に猫の世話まですることに。意識を取り戻して退院した女は、今度は逆に連絡先を残さず去った男を探して、、。
ちょっと〜ちゃんと出逢えるの⁉︎ハッピーエンドなの⁉︎かはぜひお読みください。
サンドラ・ブロックの映画「あなたが寝てる間に」をちょっと思い出させますが、これはこれで映画化してほしいです。というよりも、すでに映画化を想定した展開や舞台回しになっていると思います。

パリを舞台にとにかくおしゃれ。
男は脱サラして書店主というのがいい。女の職場は金箔張り工房というのもいい。どちらも人生いろいろの40代というのもいい。男は離婚しているが娘とはよく会い、この娘の小生意気さもピリッといいアクセント(娘が飼う猫の名はプーチン)。
ノーベル文学賞受賞者のパトリック・モディアノへのオマージュになっている仕掛けも、アントニオ・タブッキがフェルディナンド・ペソアを論じた一節が効果的に引用されているのも、高度な知的遊戯になっており、話を陳腐な恋愛ものにさせない筆力です。

そういえば、アントニオ・タブッキは須賀敦子が翻訳したインド夜想曲、逆さまゲーム、遠い水平線を読んだはずですが、もう手放してしまいました。

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