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『絶対、「小説家」になる!』読了

 いらしてくださって、ありがとうございます。

 『オール讀物』という雑誌、ご存知の方もおいででしょう。
 文藝春秋さんから毎月22日に刊行される小説誌ですが、同誌が公募する「オール讀物新人賞」の受賞作を読みたくて、これまで何度か購読してきました。

 先日、病院内の売店で見かけた折、背表紙に大書された『絶対、「小説家」になる!』というタイトルに魅かれて購入。本特集だけでなく、小説家をめざす方々にオススメしたくなる、なんともすさまじい業界小説にも出逢えましたのでご紹介いたします。

 購入したのは『オール讀物』11月号(文藝春秋:10月20日発売)。
 
 本誌は第103回オール讀物新人賞発表号でもあり、まずは新人賞の最終選考委員・安部龍太郎氏、門井慶喜氏、畠中恵氏の選評から読み進めました。
 三氏とも最終選考に残った作品それぞれのよい点、改善点をあげつつ、それぞれの好みというものも垣間見え、「文学賞は水物」と仰せになった某作家さまのことを思い出したりもいたしました。

 オール讀物新人賞は、原稿用紙100枚上限という短編賞のため、本誌には受賞作『かはゆき、道賢』(小林こばやし じん氏)が全文掲載されています。選考委員の方々が指摘しておられたところを気にかけながら、作品自体はとても面白く読了しました。

 『絶対、「小説家」になる!』特集は、人気作家の特別講義として、石田衣良氏、凪良ゆう氏、米澤穂信氏、今村翔吾氏らの執筆にまつわるあれこれを語る対談を掲載。
 人気シリーズを書き続ける秘訣や、一日の執筆時間や過ごし方、作品にかける思いなど、大きな賞を獲られた旬な作家の方々が語られるだけに、作家デビューを目指す人には響くであろう言葉も数多くありました。

 とくに印象に残っているのは、凪良ゆう氏のコンプレックスと仕事観について。

 私の文章は「読みやすい」と評されることが多く、書き手としては「文学的でない」と言われているようで、正直コンプレックスに思うこともある。

『オール読物』11月号・「凪良ゆう『汝、星のとごく』私はこう書いた」より一部引用


 仕事は男女問わず、絶対に死ぬまで自分の手の中に持っていた方がいいと考えています。自分一人を養えるだけの力を持っておくことは何よりも大事です。どんなライフステージにいようが、どんな家族構成だろうが、自分一人で立てるようになって初めて、他の人を助けられますから。職種、立場はもちろん関係ありません。

引用同上

 これらはいずれも、第10回高校生直木賞・受賞記念トークイベントにて、担当編集者さまとの対談で語られたことですが、ちょうど少し前に、おなじようなコンプレックスを吐露する書き手をネット上で見かけたばかりだったので、いまをときめく作家さまでもそうした悩みがおありなのかと驚きました。
 また、仕事観は高校生からの質問への答えとして語られたものですが、いい大人の私にも響く言葉でした。自分一人で立てるようになって初めて……たしかに。人の役に立ちたいなどとぼんやりつぶやいているだけでなく、まずは動けよ働いて稼げよ、ということで、とても身につまされております。

 また、今村翔吾氏は、近年のオール讀物新人賞受賞者四名からの「新人作家のリアルな悩みに答える!」というQ&A形式で、「締め切りがないと原稿が仕上げられない」「うっかり自作の評価やレビューを見てしま」ったときの対処などについて、関西弁で明快にアドバイスしておられました。

 米澤穂信氏は、『可燃物』刊行記念イベントでのトークが『「警察×本格ミステリ」書き方講座』として掲載されていましたが、対談相手である本誌編集長と米澤氏いずれもが、海外作品までを含めたあらゆるミステリ作品に精通されておられることが印象的で。
 かつて大沢在昌氏が、『小説講座 売れる作家の全技術』(角川書店)にて、「ミステリーを書こうとする人には、基礎知識が絶対に必要」、「本格推理小説でもハードボイルドでも、古今東西の名作、古典は一通り読んでいなければいけない」と仰せでしたが、いやまさに、本当に読んでる作家さまと編集長さまゆえの名作誕生なのだとひれ伏す思いでした。

 この『オール讀物』には、特集記事のほか連載・読み切り小説が多数掲載されており、その顔ぶれは赤川次郎氏、夢枕獏氏、恩田陸氏、宮城谷昌光氏、大沢在昌氏、堂場瞬一氏、真山仁氏など豪華な大御所揃い。

 なかでもひときわ目を引いたのが、村山由佳氏による連載小説『PRIZE─プライズ─』です。
 本作の紹介文によれば、主人公は作品の映像化多数、本屋大賞を受賞したこともある人気作家。彼女はしかし、プロの作家が選考する文学賞にはなぜか縁遠く、であるがゆえに直木賞受賞を渇望している──。
 
 連載自体は前回号(9・10月合併号)の特集「第169回直木賞」に合わせてスタートしたようですが、連載初回を未読にもかかわらず、物語にすっと入っていけました。
 まず驚いたのは、出版社や文学賞などの名称が実名であること。文藝春秋、オール讀物、直木賞といったワードがガンガン登場するだけでなく、出版業界のアレコレが、たとえば印税や原稿料の金額、文学賞の選考方法、編集者と新人作家とのやりとり、校閲との相性といったものが赤裸々に描かれております。
 主人公がこれまでの文学賞選考で喰らった選考評を思い出す場面では、某賞の某選考委員の作家の顔が浮かんでしまい……ここまで書いちゃって大丈夫なん? と少々心配になるほどでした。

 ちなみに実名(作家の氏名は微妙にアレンジされております)を本文に使うことについては、こちらの同誌編集長さまのnoteに記されておりました。

 
 本作『PRIZE─プライズ─』は、プロ作家の思いや出版業界の内幕を垣間見つつ、主人公が直木賞を獲れるかどうかを見届けずにはいられなくなる、とても興味深い小説でした。続きが気になって仕方ないので、おそらく『オール讀物』次回以降号も買ってしまうことでしょう。
 直木賞選考の仕組みや初版発行部数の増減など、おそらくは最新の業界事情が(フィクションも交えつつ)描かれる物語。プロ作家を目指す方にも参考になるのではないでしょうか。

 ちなみに編集長氏の過去記事では、直木賞と芥川賞の違いについても触れられています。
 書店にて、常連のお客さまが直木賞を獲った作家について「次は芥川賞だね」と仰せになったというエピソードが紹介されており、勘違いあるあるつながりで、かつての小説仲間の方を思い出しました。

 彼女は「今回、地方の文学賞をもらったと話した親戚たちから、それが載った本はどこで買える? 直木賞の候補になるかもしれないよねと言われて困っている」と苦笑交じりに仰せでした。
 現在の直木賞は選考基準に「中堅作家」という縛りがあり、商業デビュー前のアマチュア作家は、直木賞の選考対象にはなり得ないのですが、プロ作家を目指す方以外には興味もわかない話でもありましょうか。

 小説誌は久しぶりに手にとりましたが、今回の『オール讀物』11月号は盛りだくさんで、とても楽しめました。連載のつづきも気になるので、これからも追っていきたいと思います。
 みなさまも機会がございましたら、ぜひ(´ー`)ノ

・・・・・

 最後までお読みくださり、ありがとうございます。

 最近読んだ小説指南本のもう一冊のほうをご紹介するつもりが、『オール讀物』のインパクトが強すぎてこちらが先になってしまいました。

 10月は大きな公募文学賞の締切があり、挑戦された書き手の方々はお忙しい日々だったこととお察しします。ひと休みして英気を養い、また新作へ。
 小説指南本や作家の方々のアドバイスを拝見すると、最後というか究極はとにかく書くこと、書きつづけることに尽きるようです。
 よき物語が新たに生まれる、その時に立ち会えることを祈りつつ。

 明日もみなさまに佳き日となりますように(´ー`)ノ

 

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