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『プロに聞く! 警視庁科学捜査最前線』読了

 いらしてくださって、ありがとうございます。

 今月も発売日に買ってまいりましたオール讀物2月号(文藝春秋)
 さっそく気になる連載『PRIZE─プライズ─』(村山由佳)から読み始めたのですが、前段は、文字を追いながらしみじみとうなずきをくり返し、後段は、さすがと唸らされての読了となりました。
 
 本作は、直木賞を渇望する女性作家が主人公ですが、出版社や雑誌名がバンバン実名で登場。登場人物にも「モデルはあの作家さんだな」とわかるエピソードが盛り込まれており、毎回、ストーリーとともに「業界内幕モノ」としても楽しませていただいています。
 
 今回の連載前段に登場した編集者の男性は、おそらくは昨年急逝された作家さまを実際に担当しておられた方で、ご自宅への弔問からの帰途、同氏との思い出の数々をふり返る描写がありました。
 
 作家と編集者との関係といえば、たとえば司馬遼太郎さんの『街道をゆく』に登場するお二方のやりとりからは、互いに深い信頼をおかれていたことがうかがえます。
 一方で、かつてSNS上でお見かけした某作家さまの激怒案件では、編集者サイドへの不信感を滔々と述べておられまして。

 仕事をするに、相性が合う合わないなどと言ってはおられぬものですけれど、それでもやはり、二人が組むことで「よりよい作品」が生まれる関係が理想だと思うのです。
 互いの不足を補い合ったり、一方が高みにあるならば、それにふさわしくあるよう努力をしたり、互いに高め合うような。
 作家と編集者だけでなく、校正さんや装丁のご担当なども、作品にかかわるすべての人がうまく噛み合っていけたら、すばらしいものが生まれるはずで。

 ただ、やはり、その出発点というのは作家その人にあるのかな、とも思うのです。光るものを持つ書き手、指摘を素直に受け入れ、作品をブラッシュアップできる人、人としての器が大きく、男も女も惚れ込むような……。

 今月の連載を読みながら、昨年急逝された作家さまのお人柄がしみじみと思い出され、そんな作家さまから深い信頼を寄せられていたであろう編集者さまの慟哭が察せられ、本当に、しみじみと、あらためてその早すぎる最期が惜しまれたのでありました。

 作品の後段では、昨今、世を騒がせている時事が取り込まれており、その扱い方はどちらかに偏るでなく、読み手にきちんと考えさせるようまとめられていて、過去号で読んだ中島京子さんや桜木紫乃さん、島本理生さんなどのお作品と共通する「時事の扱いかたの巧みさ」に唸らされたのでありました。
 
 また、本号は総力特集「大人の警察&捜査小説」として、赤川次郎氏、誉田哲也氏、真山仁氏、今野敏氏などの作品が掲載され、デビュー四十五周年を迎えた今野敏氏の「四十五年書き続ける技術」というインタビュー記事では、過酷な執筆スケジュールを乗り越える秘訣などが語られていました。

 とくに興味深かったのは、黒川博行氏と元警視庁科学捜査官・服藤恵三氏との対談記事です。
 黒川博行氏はリアルな犯罪小説に定評のある方ですが、その描写は本職の服藤氏も「内部資料を入手しているのでは」と疑うレベルだそう。

 科学捜査の現状について、追跡システム、防犯カメラ、顔認証システムなどの最前線について尋ねる黒川氏に、話せるギリギリのところまでを語ってくださる服藤氏。プロとプロとの会話は、読み応え十分です。

 捜査の手法は日進月歩。犯罪者側もあの手この手でその先を行っているそうで、警察小説を書くならば、犯罪の手口と捜査手法の「進化」についていかないと「時代のリアルは描けない」。

 私が警察小説を書くことはこの先もないでしょうけれど、黒川氏が「警察小説を書く作家は、バイブルにして読まなあかん」と絶賛しておられる
『警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル』(服藤恵三・文藝春秋)
 
という書籍は、今度書店さんに取り寄せをお願いするつもりです。
 
 警察小説を書こうとする方には、とても役立つ捜査の最先端が語られている本特集。この特集とともに、大御所作家様方による短編の競演も楽しめますので、ご興味を持たれた方はオール讀物2月号、オススメです。

 そして、先日『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)第170回直木賞を受賞された万城目学さんのエッセイ『万城目学、クイズ番組に挑戦する』では、抱腹絶倒というサブタイトルに違わぬ爆笑がさく裂したのでした。

 扉ページの南伸坊さんのイラストには今回も「ふふっ^^」と声が出てしまい、巻末のコラム「おしまいのページで」の阿刀田高さんのエッセイも、短いながら味わい深く。本号もたいへん楽しませていただきました。

 毎号毎号、盛りだくさんの作品と特集が掲載されていて、それら原稿を取りまとめ、発行するまでは大変な作業だと思うのですけれど、なればこそ、雑誌のすみからすみまで熟読したく。それを毎号飽きさせないところがまた素晴らしくて。
 発売日に書店にいそいそと出かける楽しみを、これからも堪能しつづけたいと思います。
 
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 最後までお読みくださり、ありがとうございます。

 NHKの『新 街道をゆく』シリーズ、先日放映された「肥薩の道」では吉川晃司さんが案内役でした。朗読も素晴らしかったのですが、ご自身の感慨を述べる言葉選びも素敵で、さすがたくさん本を読んでおられる方だなと感じました。
 ある大役をつとめられた俳優さんの密着ドキュメントでは、年齢に比して幼く感じられる言葉遣いや語彙の少なさに、「この方は本をあまり読まないのでは」と感じ、演技や今後についてさまざま悩みを抱えておられる、その解決の糸口に読書が役立つのでは、などと考えたことを思い出したりもしました。
 難しい言葉を知っているかどうかではなく。
 人間の厚みのようなものも、多くの読書体験から得られるのかもしれない、と思うのでした。

 今日もみなさまに佳き日となりますように(´ー`)ノ

 

 

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