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『シナリオ・センター式 物語のつくり方』読了

 いらしてくださって、ありがとうございます。

 これまで読んできた「小説の書き方指南本」は、著者が「作家」さまであるためか、滔々と流れるような長文で説明されているものが大半です。

 もちろん練られた文章ですから読み物的にも面白いのですが、反面、あまりの情報量に、読後「で、何だったっけ?」と焦点がぼやけてしまうこともありがちです(私の処理能力の問題ですが^^;)。

 今回ご紹介する本の著者・新井一樹あらいかずき氏は作家ではなく、映画やテレビドラマ、ゲームなどの制作会社にて、プロデューサーやディレクター向けの研修開発と講師を担当。小学校や企業など200を超える団体、のべ1万名以上に講座や研修を実施してきた方です。
 それゆえ今回ご紹介する本書は、全体を通してポイントとなるところは太字かつ箇条書き、図も多用するなど視覚的にわかりやすく、説明も端的でした。

 書籍のタイトルは『シナリオ・センター式 物語のつくり方』(新井一樹:日本実業出版社:2023年8月初版)、副題には「プロ作家・脚本家たちが使っている」とあります。

 恥ずかしながらシナリオ・センターなる場を存じ上げなかったのですが、こちらは著者の祖父にあたる新井一あらいはじめ氏によって創設された、歴史ある「脚本家のための養成学校」とのこと。
 同センターは脚本家だけでなく、直木賞作家をはじめとする有名小説家も多数輩出しており、帯には錚々たる顔ぶれが出身者として列記されています。

 本書の構成は序章と全6章からなり、「物語の設定のつくり方」「登場人物のつくり方」「物語の構成の立て方」「シーンの描き方」などの項目があり、たとえば序章では「作品が面白くない原因」が以下のように列挙されております。

 1・アイデア倒れ
 2・登場人物のキャラクターがぶれている
 3・主人公のアクション・リアクションがありきたり
 4・主人公が目的に向かっていない
 5・主人公が困っていない
 6・起きる問題が単調もしくは極端
 7・クライマックスで盛り上がらない

 自分で書いていて途中で筆が止まるのは、たしかにこれらのどれかに引っ掛かっているなぁと思いつつ。
 これらの原因を解消するための「技術」が、各章でこまかく説明されているのですが、この「技術」という言葉が本書のさらなるポイントでもあります。

 著者が掲げる公式として、
「何を書くか」×「どう書くか」=面白い物語 
 という一節があります。

 物語のつくり方は、「何を書くか」と「どう書くか」という2つの要素でできており、「何を書くか」(何を書きたいか)は、作者自身が見つけるもの(人に教えられるものではない)。
 一方の「どう書くか」とは、物語をつくるための表現技術のこと。
 つまり、表現の技術力がアップすればするほど、自分の書きたいものは「かけ算」で面白くなっていく、ということで。

 すこし脱線しますが、この技術という言葉、創作という、「才能(センス)がものを言いそうな分野」に必要だろうかと(浅はかにも)考えていた時期がありました。
 創作技術とやらをみんなが身につけてしまったら、「みんなが人と同じものを書いてしまうんじゃないか」と。さらにはそんなものは「小説をある程度読んでいれば、すでに誰もが体得できているのではないか」とも。

 けれど「しっかりした」技術は、「知らないままでいるより、知っているほうが必ず役に立つ」。本書を読み終えたいま、そう確信しています。

 さらなる脱線で恐縮ですが、私は数独(ナンバープレイス)という数字パズルが好きで、毎日解いています。
 解き方の説明は一度も読んだことなく、それでも(時間はかかるものの)解けていたのですが、つい先日、なんとなくネットで読んだ解説がとてもわかりやすくて。
 自身で体得してきた解き方のコツが、その解説のおかげで「どういう場合にどこにどの数字を入れるか」という理論がはっきりし、以降の問題を解くスピードが3倍かつ正確になったのです。

 本書でも、著者が『表現技術を身につければ、感覚に頼って書き続けるよりも明確、かつコンスタントに書けるようになる』という意味合いのことを仰っておられて(これはプロ作家のように作品を量産せねばならない者には必須の技術でもありましょう)、まさに「感覚に頼っているより、技術をきちんと理解したほうが結果的に早い」ということに気づいた昨今なのでした。

 では、表現技術とは具体的にどういうものか。
 1章では「ドラマとストーリーを分けて考える」ことが説明されていますが、この両者の違い、恥ずかしながら私は区別できていませんでした^^;

 ストーリーとは、出来事の羅列のことであり、一定の「パターン」があるといいます。
 著者は例として、「七人の侍」「ミッション:インポッシブル」「オーシャンズ」「ワイルド・スピード」などの映画をあげ、これらすべてが、
「仲間と力を合わせて問題を解決しようとする」という「同じパターンのストーリー」である、といいます。

(ゆえに、自分が書く物語が「どこかで読んだような話」だと感じるのは当然でもあり。かつて小説講座の講師も「世に物語のパターンは出尽くしているけれど、一人として同じ人間がいないように、「あなたにしか書けない登場人物の物語」にすることで既存作との差異はつけられる」と仰せでした)

 そしてストーリー(物語)には、
・最小単位としての「シーン」(場面)があり、
・いくつかの場面の繋がりが「シークエンス」となり、
・いくつかのシークエンスによって「ストーリーライン」(物語の流れ)が示される
 という構造になっており、最小単位である「シーン」において「ドラマを描く」ことの重要性が説かれていました。

 食事でいうならストーリーは器、ドラマが料理。料理が盛られていなければ、どれほど磨かれた器であっても客は楽しめない。
 つまり、物語の「流れ」だけをドラマチックにしようと考えているだけではダメで、『その流れを構成する場面の一つ一つ(各シーン)にドラマを、「人間を描く」ようにしなければならない』、ということのようです。

 そして、ドラマティックな(面白い)シーンを描くためには「登場人物のアクションやリアクションを魅力的にすること」が重要で、5章ではその具体的な方策(キャラクターに障害をぶつける、貫通行動、会話などのテクニック)が示されています。

 本書はシナリオ・センター式というだけあって、脚本づくりのノウハウとして知られる「箱書き」などの構成術も紹介されており、小説のプロット作りにとても役立つと感じました(つい最近の某賞受賞者の方も「まず箱書きを作ってから書き始める」と仰せでした)し、起承転結の説明では「天地人」という言葉を教えられました。

 ちなみに、天地人とは。

  天:時代・情勢
  地:物語の舞台となる場所・土地
  人:登場人物

 そして、起承転結の「起」の機能は、
・「天地人を紹介する」
・「物語のジャンル・テイストを伝える」
・「アンチテーゼから始める」
 の三つがあるといいます。

 
 これまで読んできた小説指南本では、たとえばプロットなどは「初心者は作るべし、プロのなかには作らない者もいる」というふわっとした説明がされていたものもありましたが、本書で「作品の構成の仕組み」を学んだことで、「何のためにそれが必要か」が理解でき、これまで学んできた知識の断片が「あれはこういうことだったのか」と繋がっていった感じがします。

 構成が理解できると、それぞれのシーンに書くべきことがわかってくる。
 そして「シーンを描くときに、どれだけオリジナリティを出せるか」が勝負だということも──。

 本書『シナリオ・センター式 物語のつくり方』は、著者が小説家という「日ごろから文章を紡ぐ方」でないからこそ、これから書こうとする方々へ「より、わかりやすく伝えたい」という心配りが感じられる一冊です。

 かつて小説のお仲間に「小説書くのに役立つから、脚本の勉強もするといいよ」と勧められたものの、当時脚本には興味がなくスルーしてしまった迂闊を恥じつつ、けれどおかげで今、この一冊に新鮮な気持ちで出逢えたことに感謝しています。

 それから、本書はあくまで「シナリオ・センター式」の物語のつくり方を教えるものであり、脚本そのものの書き方は説明されておりませんのでお気をつけくださいませ。
 
 作品を最後までなかなか仕上げられない方にとっては、本書の「作品の構成のしかた」が参考になるかもしれません。
 ご興味をお持ちになった方は、ご一読をオススメいたします。

 
 ★★★

 小説は、書き方をわざわざ学ばなくとも書けてしまう方もおいでです。書くまでは私も、「そんなこと学ぶものではない」と思っていました。音楽大学を出ていなくても素敵な曲を生み出せる人々があるように。
 けれど、そうした能力がある人は別として、私のようなレベルの書き手にとって、小説講座は確かな指導をいただける場であり、志を同じくする仲間にも出逢えた場でもあり、指南本もまた。
 今回の記事を書くにあたり、手許にあるニ十冊余の指南本をざっと開いてみて、それぞれの説明のしかたがかなり異なることをあらためて感じました。
 以前、こちらのnoteで小説の書き方記事をいくつか書いていたのですが、現在すべて非公開にしております。今後どれだけの需要があるかわかりませんが、小説の書き方について初心に戻り、学んできたことを整理しつつ再度記事にしてみたいと思います。よろしければゆるりとおつきあいくださいませ。

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 最後までお読みくださり、ありがとうございます。

 今日、文フリにお出かけになられた方は素敵な本や書き手さま、読み手さまとの出逢いがあったことでしょう。
 良作に触れて刺激をうけ、また新たな作品が生まれるリレーになりますように。

 今宵から冷え込みが厳しくなるとのこと。どうぞみなさまもあたたかくお過ごしくださいませね(´ー`)ノ

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