『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』 作者:別所 宏恭
コンサルタントが発するビジネス書に於ける欠点と言うか、違和感とでも言おうかと思えることに、「え? そんな時代認識でモノを言う?」てな書物に出くわすことが、ままあることは否めない。
それは、著者たる皆さんが、例えば10年とか20年とかの年月をかけて培ってきた中小企業とのやりとりのあれこれをベースにして書しているからに違いない。
経験則を元にして示唆を放っているのだから、その内容は過去を参照し、その過去が未だ有用であることが前提となっていることになる。
だからこそ、それを読むこちらの身としては、「ん? 未だにそんなことをわざわざ前提にする必要あるの?」となる訳だ。
全否定はしなくとも、例え部分部分では取り入れるべき点があるにせよ、その様な書物に百点満点を与えられるものではない。
対して本書では、下請けに甘んじているうちにニッチもサッチもいかなくなり、生き抜く為には自らに改革を与えるしかなかった経営者が、その経験を踏まえた上で、現代とこれからの企業の在り方を論ずる内容となっていて、いかにも未来予想的だ。
そして、全編を通じるロジカルな物言いがまた、なかなか心地良い。
どうであれ、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が進まざるを得ないこの世の中。
低価格、大量消費時代の終焉。
そんな世情に於いて、大企業はどうあるべきか? 或いは中小企業は?
まず著者は、日本の全ての企業にとっては、これからは「高く売ること」こそが最重要と言う。
「コスト削減に未来はない」、「現在に最適化してはいけない」と言い、この様な考えでは、先細りしかないと言うのだ。
では、「高く売る」為には何が重要か?
重要視すべきなのは「情報」である。
しかし、AIによってもたらされる、単なるビックデータの活用となれば大手企業に軍配が上がるのみ。
中小企業に勝ち目は無いのか?
いや、そうではない。
では、そのカギを握るのは一体何なのか?
商品が利潤を生むことに欠かせないものとは、「価値観の差」だ。売る者が提示した商品価値に買う者が納得することで、取引と差益が生まれる。そして、「主観」を磨くことこそが、情報を上手に捌き、その「差」を生むことに繋がる。
文化の幅、地域の幅、生活の幅を知り、そして人間の幅を知ることで、大手企業に比べれば貧弱となる収集データを、中小企業であっても有効に活用することが出来る様になるのだ。
DXは、コスト削減、効率化の為のものばかりと捉えるのではなく、優れた「主観」を身に付けるに有益な「余裕」を生む為の「奴隷解放」のツールにしよう。
「高く売る」為には、情報を収集する「検索力」を高めることだが、それには、ベースとなる知識を蓄えることが、まず肝要なのだ。得た情報の奥に隠れ潜む、膨大な知識を理解出来る様になることだ。
「主観」を磨くことによって、誰もが世間や大企業をあっと言わせるネクストカンパニーに成り得るのだ。
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