『人間主義的経営』 作者:ブルネロ・クチネリ
著者のブルネロ・クチネリ氏は、高級カシミヤ製品メーカーの創業者である。
1978年に創業したブルネロ・クチネリ社は、現在は紳士服、婦人服、子供服から雑貨、アクセサリーなど総合的に展開する世界最高級のアパレル企業に成長しており、2012年にはミラノ証券取引所に上場、2019年の売上高は、日本円にして770億円、営業利益は105億円、財務内容も磐石という大企業となっている。
さそかし合理的な経営をしているのかと思えば、決してそうではない。
人件費の高いメイド・イン・イタリーにこだわり、全世界137店舗で販売されている製品は、手作業の職人技で作られている。
「人間の尊厳を守ること」を経営の目標に掲げ、ブルーカラーとホワイトカラーの区別なく世間の水準を上回る給与を支給する。
本社を置くイタリアの片田舎の小さな村であるソロメオ村の城、劇場、工場など、使われていなかった施設を復旧若しくは再利用する。
若者のために、有給で学べる職人学校を建てる。
図書館を作り、ぶどう畑を興し、公園や庭園を整備する。
およそ効率的とは言えない様な投資を行なっているこの会社が、どうして高収益を得ているのか。
贈与を続けることによって収益を上げる。それは狙って行なわれたことではない。
こんなに強く美しい会社が世の中に生まれたのは何故か。
本書は、幼少期から現在までを、著者の回顧録の形で綴られている。
それは牧歌的なほど古めかしい一面もあるし、人間がお互いに差別を捨て認め合うことの重要性を訴える様な、人としての根源を説く一面も見せる。
一見、会社経営とは無縁の様な内容が語られていくが、いずれその全てが、題名である『人間主義的経営』を花開かせていくのだ。
そして、著者を支えるのは古き哲人や賢者達の残した言葉の様だ。
私などは、『孫子の兵法』や古事、或いは松下幸之助などの経営者達の考え方などを辿ることで経営の戦術を学ぼうとするが、本書の著者はそうではなく、哲学を以って考え、判断し、人間のための資本主義を目標に掲げ行動したのだ。
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