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京都府の進学校Mapその2(南部)

※この記事は、『京都府の進学校Mapその1(北部)』の続きです。

Map(京都府南部)

京都(南部)1cud

※京都府北部の進学校Mapは「京都府の進学校Mapその1」の記事に掲載。

※地図は『MANDARA』で作成。

※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。♂を付けた学校は男子校、♀を付けた学校は女子校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

南部:学校間の役割分担が進む

本稿では、京都府の公立高校に設定された学区(通学圏)のうち、「京都市・乙訓通学圏」と「山城通学圏」を京都府南部とする。公立高校普通科は原則として居住地内の学区内の高校を志願する必要があるのに対し、それ以外の学科は原則として学区にとらわれず志願することができる。

「京都府の進学校Mapその1」でも述べたように、京都府の公立高校を志望する10%erは、普通科よりも特進系専門学科を志望する傾向が強い。京都府南部でとくに人気が高い特進系専門学科といえば、京都市立堀川高校(京都市中京区)の探究学科群(人間探究科・自然探究科)や、京都市立西京高校(京都市中京区)のエンタープライジング科、嵯峨野高校(京都市右京区)の京都こすもす科、桃山高校(京都市伏見区)の自然科学科、南陽高校(木津川市)のサイエンスリサーチ科が挙げられる。学科名は個性豊かだが、カリキュラムは「普通科特進クラス」または「理数科」そのものと言ってよい。

京都市立堀川高校は、2001年の国公立大学の現役合格者数が6人だったのが、探究学科群の1期生が卒業した2002年には106人に急増し、教育業界では“堀川の奇跡”と称賛された。当時、京都府の公立高校のほとんどが制度上、近所の生徒しか集められなかった中で、京都府全域から生徒を募集できた京都市立堀川高校が、学力優秀な生徒を集める上でいかに有利だったかということを物語っている。現在、京都市立堀川高校の探究学科群は京都府の公立高校の特進系専門学科で最も合格難易度が高く、大学合格実績も突出している。探究学科群の実績に引っ張られて、普通科の合格難易度も京都府の公立高校の中ではトップであり、探究学科群と普通科の両方、すなわち学校全体が進学校Mapにおける進学校の域に達している。実際、探究学科群と普通科は学力の差こそあれど、カリキュラムも使用教科書も基本的に同等のようだ。このように、かつてはひとつの学校が複数の役割を持っていた京都府の公立高校が、現在は学校単位でそれぞれの役割を持つようになっており、京都府南部ではそれが顕著である。

京都市立西京高校は生徒全員がエンタープライジング科に所属し、定員280人のうち120人は附属中学校からの内部進学者である。2004年に京都府でいち早く公立中高一貫教育を開始したことで大学合格実績を伸ばし、高校からの入学者も高学力の生徒が集まるようになっている。京都市立西京高校と同時に附属中学校を開校した洛北高校(京都市左京区)も、普通科中高一貫コース(2018年以降はサイエンス科)では顕著な大学合格実績を残している。

京都府の公立高校の特進系専門学科と普通科を、それぞれどこまで進学校Mapにおける進学校に選定するかは至難な作業である。京都市立堀川高校と嵯峨野高校の普通科は、大学合格実績を鑑みるに、山城高校(京都市北区)の文理総合科や鳥羽高校(京都市南区)のグローバル科、京都市立紫野高校(京都市北区)のアカデミア科に比べて、生徒に占める10%erの割合が高そうだ。一方、桃山高校の普通科はそう言い切れない。よって、進学校Mapでは、京都市立堀川高校と嵯峨野高校の普通科を進学校に選定し、桃山高校の普通科は進学校に選定しなかった。

山城通学圏にある南陽高校は、サイエンスリサーチ科という特進系専門学科を設けているものの、京都市から遠く(むしろ奈良市と目の鼻の先にある)、サイエンスリサーチ科も含めて山城通学圏以外からの通学はほとんどない。山城通学圏であっても宇治市では、南陽高校のサイエンスリサーチ科が狙える学力なら、合格難易度が同程度である桃山高校自然科学科の方が通学しやすいし、南陽高校の普通科が狙える学力なら、市内の城南菱創じょうなんりょうそう高校を選ぶ傾向が強い。それでも、南陽高校は城陽市以南では貴重な公立進学校であり、通学圏内の中学校卒業者数が約3000人に達することから、サイエンスリサーチ科と普通科の両方、すなわち学校全体を進学校に選定した。なお、南陽高校は2018年に附属中学校を開校し、併設型中高一貫校となっている。

私立・国立任せだった進学校教育の是正

太平洋戦争後、学区を細かく区切り、制度的に進学校を無くした京都府の公立高校を尻目に、京都府内の私立・国立高校が次々と進学校として台頭した。その代表格が洛星高校(京都市北区)や洛南高校(京都市南区)、京都教育大学附属高校(京都市伏見区)である。洛星高校と洛南高校は中高一貫校で、洛星高校は現在まで男子校だが、洛南高校は2006年に男子校から共学校に切り替わった。京都教育大学附属高校は京都府唯一の国立高校で、高校からの入学者と、京都教育大学附属京都小中学校と京都教育大学附属桃山中学校からの内部進学者がいる。ただし、附属中学校卒業生の約6割しか内部進学できず、中高一貫教育は行われていない。

京都府内の他の私立高校も大学合格実績を競い合っているところが多いが、特進系専門学科を導入した公立高校の進学校化が進むと、高校入試での10%erの確保が年々難しくなってきた。現在、大学合格実績という点で存在感を示しているのは、中高一貫教育を行っているクラスが多い。前述した洛星高校と洛南高校以外で具体名を挙げると、男子校である東山高校(京都市左京区)の普通科ユリーカコースや、女子校である京都女子高校(京都市東山区)の普通科Ⅲ類である。どちらも、高校からの入学者がいない中高一貫生だけのコースだ。もっとも、近年は公立も中高一貫教育に力を注いでおり、中学入試であっても私立・国立の絶対優位とは言い切れない状況になっている。

京都府南部は人口に対する大学生の数が多いエリアとして知られるが、とくに「関関同立」に属する同志社大学と立命館大学のブランド力が強い。このため、同志社大学と立命館大学の附属中学校・附属高校は人気が高く、高学力の生徒が多く集まる傾向にある。

同志社高校(京都市左京区)は卒業生の約85%が同志社大学に内部進学するほか、他大学の医学部医学科などに外部進学する。同志社女子高校(京都市上京区)のうち学力上位クラスであるWR(ワイルド・ローヴァー)コースは、同志社大学への内部進学ができる一方で、外部の理系大学受験を目指すカリキュラムになっている。生徒の約3分の2が海外生活経験のある帰国生で占められる同志社国際高校(京田辺市)は、卒業生の大半が同志社大学に進学する併設型中高一貫校で、最近の中学入試での合格難易度は同志社高校に迫っている。

立命館高校(長岡京市)は、立命館大学への内部進学を目指すコアコースと、いわゆる難関大学や医学部医学科進学を目指すMSコースに分かれていて、進学校Mapでは合格難易度がより高いMSコースを進学校に選定した。立命館宇治高校(宇治市)は、同志社国際高校と同様に帰国生が多く在籍している学校で、立命館大学への内部進学が多い一方、海外大学への進学も売りにしている。

京都府(南部)内高校の大学合格実績(2020年春)

京都府南部大学合格実績210929

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。★は高校全体の実績を示していることを意味し、桃山高校は普通科(1学年定員280人)を含んだ実績、東山高校(1学年約410人)、京都女子高校(2020年春卒業者数327人)、同志社女子高校(1学年約270人)、立命館高校(1学年約350人)は学校全体の実績である。

【2021/12/27追記】この記事を含む中部・関西地方の進学校Mapの記事を、加筆修正して収録した書籍(同人誌)を通販中です。詳細は以下の記事をご覧ください。


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