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広島県の進学校Mapその2(広島県西部)

※この記事は、『広島県の進学校Mapその1(広島県東部)』の続きです。

Map(広島県西部)

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※広島県西部の進学校Mapは「広島県東部」の記事に掲載。

※地図は『MANDARA』で作成。呉三津田高校と広島県立広島高校のみ、高校を中心とする同心円(半径20km)を描いた。

※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。♂を付けた学校は男子校、♀を付けた学校は女子校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

西部:出遅れた県立

日本の高校の設置者は大きく公立・国立・私立の3種類に分かれ、公立はさらに、都道府県立と市町村立、そして複数の自治体が設立する組合立に分かれる。広島県は全国的にも珍しいことに、県庁所在地に都道府県立の進学校が存在しない。広島県の県庁所在地である広島市には、進学校Mapが定義するところの進学校は、国立と私立、そして市立しかないのだ。

なぜ、広島市の県立高校を、進学校Mapにおける進学校に選定しなかったのか?たとえば、旧制中学校を前身とする広島県立広島国泰寺高校(広島市中区)は進学校ではないのだろうか?この経緯を説明するには、広島県でかつて行われていた総合選抜の話をしなければならない。

広島県における総合選抜は、1956年から1997年まで行われていた。総合選抜では、複数の高校からなるグループを作り、受検生はいずれかのグループを志願する。そのグループの合格者は、グループに属する高校のいずれかに、各高校の学力が均等になるように入学先を割り振られる。広島市内ではまず、広島国泰寺高校・広島観音高校(広島市西区)・広島皆実高校(広島市南区)の広島県立3校と、基町高校(広島市中区)・舟入高校(広島市中区)の広島市立高校2校の計5校がグループを作って総合選抜を開始し、1978年に開校した広島県立広島井口高校(広島市西区)がこれに加わって、計6校による総合選抜となった。現在でも、広島で「市内六校」と言えばこれら6校を指し、公立高校の中ではいわゆる難関校として位置付けられている。ただ、グループ内の高校の学力が均等にされるので、総合選抜実施中は、市内六校の中で大学合格実績という点で突出する高校は現れなかった。こうした状況下の公立高校に物足りなさを感じた広島市周辺の10%erは、国立の中高一貫校である広島大学附属高校(広島市中区)や、修道高校(広島市中区)、広島学院高校(広島市西区)といった私立の男子中高一貫校への進学を目指すようになった。1990年代には、私立の女子中高一貫校であるノートルダム清心高校(広島市西区)や広島女学院高校(広島市中区)なども同種の選択肢として認知された。なお、広島県東部の福山市で国立の広島大学附属福山高校が進学校として台頭したのも、福山市で行われていた総合選抜の影響が大きい。

1998年に広島県で総合選抜が廃止されると、市内六校は高校ごとに単独での入試を再開した。他県では、総合選抜が廃止されると、より歴史の長い(かつ旧制中学校を前身とする)高校が進学校として優位に立つケースが多い。順当に行けば、1877年に創立した広島県立広島国泰寺高校が最も優位に立つはずだったのだが、そうはならなかった。広島市立基町高校や、広島市立舟入高校に先を越されてしまったのだ。基町高校や舟入高校は「広島市立」の優位性を活かし、総合選抜廃止直後にいち早く校舎を改築・新設して受検生の人気を集めた(一般に、政令指定都市はその県よりもお金を動かしやすい)。基町高校に至っては校舎内部にエスカレーターが備わっており、映画『君の名は。』で主人公が通う東京の高校のモデルにもなっている。なお、基町高校の普通科は「普通科普通」と「普通科創造表現コース」に分かれていて、「普通科創造表現コース」はいわゆる美術科であることから、進学校Mapでは「普通科普通」を進学校扱いとした。

広島国泰寺高校は現在、広島市内の県立高校の中では最も合格難易度が高いものの、安古市高校(広島市安佐南区)が僅差で競っている。安古市高校は1975年に開校後、総合選抜には参加せず、安佐南区の人口増加を背景に人気が高まり、市内六校と大学合格実績で肩を並べる高校に成長した。

広島市の西側に位置する廿日市市や、東側の安芸郡(府中町・海田町・熊野町・坂町)は、広島市と事実上同じ通学圏に属する。また、広島市の北側に位置する芸北地区は人口が少なく高校の数も少ないので、進学校を目指すなら広島市に出ざるを得ない(安芸高田市から隣町の三次高校に通う事例は割とある)。安芸郡よりさらに東側にある呉市や東広島市から広島市の高校に通う生徒も珍しくないが、それぞれの地元の進学校として、呉三津田高校広島県立広島高校が認知されている。

県立の逆襲始まる

進学校育成という観点では、国立や私立だけでなく、広島市立にも出遅れた県立高校だったが、2000年代に入ると広島県教育委員会による巻き返しが図られた。その最たるものが、広島県立広島高校の開校(2004年)である。「広島高校」という名前を付けるところからして、広島を代表する進学校にしようという意欲が前面に出ている。「県広」という通称でよばれるこの学校は、広島県初の県立中高一貫校であり、もともと中学受験熱が高かった広島県民のニーズをうまく汲み取った。JR西高屋駅から徒歩10分の場所にあり、JR広島駅から電車1本(片道約45分)で行けることから、東広島市周辺だけでなく、広島市周辺からの通学者も多い。

とは言え、動きがあったのは県立だけではない。私立では、広島県の大手学習塾・鷗州塾の支援を受けて開校したAICJ高校(広島市安佐南区)が、2012年(※中高一貫1期生卒業年)に東京大学合格者7人を輩出して話題となった。現在、AICJ高校は国際バカロレア履修コースを設け、海外の大学進学にも力を入れている。2014年には、完全中高一貫(高校募集無し)の広島市立広島中等教育学校(広島市安佐北区)が開校し、県広や広島市内の他の国立・私立進学校と10%erの奪い合いを繰り広げている。広島市立広島中等教育学校からは2020年3月末までに1学年しか卒業していないので、今回の進学校Mapでは評価の対象外だが、入試での人気の高さを見るに、今後、進学校として選出する可能性は結構ある(立地の悪さがネックだが……)。

広島県(西部)内高校の大学合格実績(2020年春)

広島県西部大学合格実績210408

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。★は当該クラス以外の実績を含んでいるもので、広島市立基町高校は、普通科創造表現コース(定員40人)の実績を含む。また、広島学院高校の実績は「大学合格者数」ではなく「大学進学者数」である。

広島県西部では地元の広島大学志向がもちろん強いが、近隣では愛媛大学にに加え、山口大学に進学する生徒も目立つ。

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