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神奈川県の進学校Mapその1(西部)

神奈川県の中学生で学力上位10%の子どもたち(10%er)は、どこの高校を選ぶのだろうか?この記事では、10%erが順当に選ぶと考えられる高校を「進学校」と定義し、神奈川県の進学校を紹介する。

※この記事は、2020年3月末時点の情勢に基づいて執筆している。『進学校Map』における進学校の選定基準は、以下の記事を参照のこと。

概要

人口:約916万人 (※2017年10月1日現在。総務省人口推計)

中学校卒業者数:79887人 (※2017年3月。文部科学省学校基本調査)

国公立高校入学定員:47593人 (※2017年4月。文部科学省学校基本調査)

中学校卒業者数に対する国公立高校入学定員比率:59.6%

進学校:33校(公立15+国立0+私立18)

横浜、そして都内へ

神奈川県の県立高校では2005年に学区が撤廃され、受検者は県内全域の県立高校を自由に選べるようになった(横浜市立・川崎市立高校には学区がある)。他県に比べて利便性の高い交通網を活かし、神奈川県民は旧学区にとらわれない学校選びをするようになった。とくに、県庁所在地である横浜市の進学校には、県内のほぼ全域から大量の生徒が流入するようになっている。さらに、神奈川県民は東京都内の高校へも盛んに進学する。とくに川崎市や相模原市、横浜市北部ではその傾向が著しい。

この記事では便宜上、神奈川県を東部(横浜市と川崎市)と西部(横浜市と川崎市以外)の2つに分ける。その上で、人口密度が比較的低い西部のMapを先に紹介し、記事を改めて東部の進学校Mapを紹介する。

Map(西部)

※地図は『MANDARA』で作成。 ※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

※東部の進学校Mapは「神奈川県の進学校Mapその2」の記事に掲載。

通学圏の最適化

神奈川県教育委員会は、大学合格実績などをもとに、県立高校の中から学力向上進学重点校を指定している。ありていに言うと、神奈川県がお墨付きを与えた公立進学校ということだ。学力向上進学重点校には、2021年4月の時点で5校が指定されている。さらに学力向上進学重点校の指定を目指す高校として、学力向上進学重点校エントリー校が13校指定されている。

【学力向上進学重点校】(5校)
横浜翠嵐高校・湘南高校・柏陽高校・厚木高校・川和高校

【学力向上進学重点校エントリー校】(13校)
横浜平沼高校・横浜緑ケ丘高校・光陵高校・希望ケ丘高校・多摩高校・横須賀高校・平塚江南高校・鎌倉高校・小田原高校・茅ケ崎北陵高校・相模原高校・大和高校・横浜国際高校

神奈川県教育委員会の記者発表資料(2020年12月23日)による

これらの高校はさまざまな施策で大学合格実績を競い合っているが、その実績の差は、各校の通学圏人口である程度説明できる。学区撤廃前は、通学圏は原則として学区そのものだったが、学区撤廃後は主に交通の便によって通学圏が変動し、高校間で通学圏人口の差が広がった。

神奈川県西部で学力向上進学重点校に指定されているのは、湘南高校(藤沢市)と厚木高校(厚木市)だ。いずれも旧学区のいわゆるトップ校だったが、学区撤廃後は旧学区外からも10%erを取り込んでいる。湘南高校は、コアな通学圏である藤沢市・鎌倉市・茅ヶ崎市だけでも人口80万人を超えるが、西は小田原市から、東は川崎市からも生徒を集め、神奈川県西部で最も大学合格実績の見栄えが良い公立高校となっている。厚木高校は旧学区内の厚木市・海老名市に加え、小田急小田原線沿線である相模原市南区・伊勢原市・秦野市からも人気があり、やはり通学圏人口は80万人を超える。

単純に自治体の人口だけを比較すれば、人口20万人台の厚木市にある厚木高校よりも、人口70万人台の政令指定都市にある神奈川県立相模原高校(相模原市中央区)に、より多くの10%erが集まるように思える。しかし、相模原市は市の中心部が相模大野駅と橋本駅の2つに分離している。相模大野駅周辺の住民は、神奈川県立相模原高校よりも厚木高校の方が通学しやすいことが多い。加えて、相模原市は東京都との境界付近にあり、相模大野駅からなら小田急線、橋本駅からなら京王線で都内への通学がしやすい。こうした事情から、神奈川県立相模原高校の合格難易度や大学合格実績は、通学圏人口30~40万人程度の地域にあるいわゆるトップ校のそれと同程度に留まっている。

神奈川県でもっとも西に位置する公立進学校は、小田原市の小田原高校だ。神奈川県第二中学校を前身とし、湘南高校や厚木高校よりも歴史が長い高校だが、コアな通学圏が小田原市や南足柄市周辺に限られる。JR東海道本線で小田原市から湘南高校に通う10%erもいるが、距離がある分、地元の小田原高校に留まる割合が高い。小田原市と藤沢市の中間に位置する平塚市には、平塚江南高校という公立進学校がある。通学圏人口では小田原高校と大差ないが、湘南高校に近い分10%erの流出が多い。平塚江南高校と合格難易度が近い県立高校として、大和市にある大和高校があるが、進学校Mapでは進学校として選定しなかった。平塚市からと大和市からでは湘南高校への通いやすさは同程度だが、大和市は横浜市への通学がしやすく、10%erがさらに流出しやすいことを考慮した。

神奈川県南東部に位置する三浦半島では、横須賀高校(横須賀市)が地元の公立進学校として認知されている。三浦半島のうち横須賀市では横浜市への流出が目立つが、約40万人を擁する人口を背景に、地元の10%erの一定数が横須賀高校に進学している。

県内全域に浸透した中学受験

かつて神奈川県で中学受験というと、ほとんどは私立中学校の受験を意味していた。しかも私立中学校は神奈川県東部に集中していて、西部の中学受験熱は首都圏としてはあまり高くなかった。例外は鎌倉市周辺で、この地域には私立中高一貫校が密集している。男子校では、キリスト教のイエズス会を運営母体とした栄光学園高校(鎌倉市)や、東京の開成高校の分校として設立された逗子開成高校(逗子市)、仏教の修行僧学校を前身とする鎌倉学園高校(鎌倉市)が、それぞれ進学校である。ただし鎌倉学園高校は、中学入試と高校入試の合格難易度を考慮して、中高一貫組のみを進学校Mapにおける進学校に選定した。女子校では、進学校Mapにおける進学校には選定しなかったものの、湘南白百合学園高校(藤沢市)や鎌倉女学院高校(鎌倉市)が、大学合格実績という観点で注目を集めている。共学の進学校には、鎌倉市周辺というには少し距離があるが、慶應義塾湘南藤沢高等部(藤沢市)がある。名前の通り慶應義塾大学の附属校で、卒業生は隣接する湘南藤沢キャンパス(SFC)の学部だけでなく、慶應義塾大学のあらゆる学部に進学している。

2009年に、神奈川県西部に2つの公立中高一貫校が同時に開校した。相模原中等教育学校(相模原市南区)と平塚中等教育学校(平塚市)である。この結果、神奈川県西部の大部分の地域で、中高一貫校への進学が現実的な選択肢のひとつとなった。相模原中等教育学校と平塚中等教育学校は、開校当初から現在に至るまで、志願倍率は概ね5倍以上をキープしている。これは、公立中高一貫校としては全国的にもかなり人気の部類に入る。とくに相模原中等教育学校は、いわゆる難関大学の合格実績で学力向上進学重点校と肩を並べる存在となった。これに寄与した要素のひとつが、相模原中等教育学校の好立地にある。相模原中等教育学校は相模大野駅から徒歩圏内にあるので、横浜市の東急田園都市線沿線や、川崎市の小田急小田原線沿線からも通学が見込めるのだ(横浜市や川崎市の公立中高一貫校は、これらの地域からだと若干遠い)。西部から東部への流出が盛んな神奈川県において、東部の10%erを獲得できることは、西部の公立進学校としてかなりのアドバンテージだと言えよう。

神奈川県(西部)内高校の大学合格実績(2020年春)

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。★を付けた鎌倉学園(1学年約320人)は学校全体の実績である。

【2022/12/30追記】この記事を含む北海道・東北・関東地方の進学校Mapの記事を、加筆修正して収録した書籍(同人誌)を通販中です。詳細は以下の記事をご覧ください。


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