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『進学校Map』三訂版刊行にあたって:進学校の選び方

CURIOSISTでは、2020年から『進学校Map三訂版の刊行作業を開始します。『進学校Map』ってそもそも何?という方は、以下の記事をご参照ください。

『進学校Map』の初版は、2012年に公開を開始しました。これをいくらか修正した改訂版を、2014年から以下のページで公開しています。

この改訂版に基づき、2015年から2017年にかけて、『進学校Map』の同人誌版をCURIOSISTから刊行しました。
改訂版公開から約6年が経ち、進学校情勢には様々な変化が訪れました。学校名が変わった所もあれば、改訂版公開時には卒業生がまだいなかった学校が進学校相当として世間に認識されている事例も見受けられます。さすがに情報を改めなければ用をなさない、と思い至り、さらなる改訂版、すなわち三訂版の刊行作業に入りました。

三訂版は、2020年3月末時点での情勢に基づいて進学校を選出します。これに伴い、2018年3月までに1期生が卒業している学校のみを選出対象とします。大学合格実績などの趨勢を見るには、最低でも3期分の卒業生の動向を見なければ判断が困難だからです。

三訂版の選出結果は、noteなどWebで公開したのち、同人誌という形でCURIOSISTから刊行するつもりです。

『進学校Map』における進学校の定義は、次の通りです。

同一通学圏に住む同世代の中で、15歳時点で学力上位10%以内の生徒が、順当に通う学校

この定義を基に、どのように進学校を選出するか解説していきましょう。

「通学圏」って何?

地理・制度などの観点から、同じ進学校に通学する地域のひとまとまりのことです。たとえば、A高校という進学校があったとき、A高校に通えるのがa市、b市、c市在住の生徒のみだったとしたら、「a市、b市、c市は同一通学圏にある」、と言えます。あるいは、「A高校の通学圏はa市、b市、c市」と表現することもできます。

ある地域が、特定の高校の通学圏に入るかを調べるには、ある地域から特定の高校に通学する際の所要時間を調べます。明確な基準はありませんが、おおむね片道90分以上かかる地域は通学圏に入らないとみなすことが多いです。ただし、寮生活や下宿生活が珍しくない学校もあるので、それらは別個で考えます。

また、地理的には通学可能でも、制度的に通学が認められないケースがあります。代表的なものは、公立高校の学区(通学区域)制度です。最近は全国的に緩和傾向にありますが、学区を設定している地域では、原則として学区内の高校にしか通学を許可されません。この場合、どのように学区が設定されているか次第で通学圏が変化する可能性があります。

ひとつの通学圏に含まれる進学校の数は、地域によりまちまちです。たとえば、東京都23区内(※学区による制限無し)はひとつの巨大な通学圏と言え、国公私立問わず数十校の進学校があります。一方、田舎では同一通学圏に進学校がひとつだけしかないことが珍しくありません。いかなる進学校の通学圏にも入らない(実家を出ない限り、どこの進学校に通えない)地域もあります。

「15歳時点で学力上位10%以内の生徒」って何?

高校進学時点で、学力という尺度での序列が、同一通学圏の中学校卒業者の中で上位10%以内に入る生徒のことです。ここで言う学力には、その地域の入試制度に基づいて調査書の評定(いわゆる内申点)も考慮されると考えてください。これに当てはまる生徒のことを、『進学校Map』では「10%er」(読み方:じっぱーやー)と呼びます。10%erは私が勝手に生み出した造語です。

『進学校Map』では、生徒の学力分布は全国のあらゆる地域で均等と仮定します。たとえば、ある通学圏の中学校卒業者数が3000人であれば、その通学圏がどの地域にあっても、10%erは300人いるとみなします。現実には、地域によって学力分布にはバラツキがあるはずですが、入試制度が異なる地域間で学力を比較するのは不可能なので、考慮の対象にはしません。

中学校卒業者数は、文部科学省が毎年実施している『学校基本調査』を参考にします。三訂版では2020年4月時点での情勢に基づいて選出することにしていますから、2020年3月に高校を卒業した生徒、すなわち2017年3月に中学を卒業した生徒の数を主な基準にします(留年は無視)。他県への高校進学者、あるいは他県からの高校進学者が多い地域は、それも考慮して10%erの数を見積もります。

ちなみに「高校の偏差値」なるものがネットのあちこちに出回っていますが、ソース不明で信頼できないものが多いです。せめて、当該通学圏の高校受験生が大勢参加している模試の結果に基づいて算出されたデータで、模試の主催者が公式発表しているものでなければ、参考にすることもできません。たとえば、北海道の「北海道学力コンクール」(通称:学コン)、埼玉県の「北辰テスト」などです。こうしたデータであっても、『進学校Map』ではあくまで間接的な参考事項です。単純に偏差値の上から順に選出する、と言ったことは決してしません。入学偏差値は、その学校に合格できる最低ラインの生徒の学力を示したもので、その学校に入学する生徒全体の学力分布を表すものではないからです。ある学校に入学する生徒全体の学力分布を見積もるには、通学圏をはじめ複合的な要素で検討する必要があります。

「順当に通う学校」って何?

『進学校Map』では、原則として、学力という尺度での序列が上の生徒から順に、進学校に進学すると仮定します。たとえば、ある通学圏の10%erが300人いて、この通学圏に唯一ある進学校の定員が300人だとしたら、この進学校の入学者は全員10%erであるとみなすわけです。

また、10%erは全員大学進学志望で、できる限り大学合格実績が良い学校への進学を希望すると仮定します。もちろん実際には、10%erでも大学進学希望でない生徒がいます。その中で一番大きな勢力は、高専(高等専門学校)志望者でしょう。高専は大学進学を目標とした教育機関ではありませんので、仮に10%erの多くが進学していたとしても、『進学校Map』における進学校とは考えません。例外として、卒業後の大学編入が極めて盛んな高専に限っては、進学校選出の俎上に載せることがあります

「大学合格実績が良い」を定義することは極めて困難ですが、ここでは、各通学圏の10%erという、中学校を卒業したばかりの生徒が、どういう状態を「大学合格実績が良い」と認識するのかを考えればよいでしょう。大抵の場合、国公立大学合格者数や、それぞれの地域でブランドとされている大学への合格者数が基準になるはずです。その内実は地域によって異なりますが、とくに「旧帝一工」(北海道大・東北大・東京大・名古屋大・京都大・大阪大・九州大・一橋大・東京工業大)と「国公立大学医学部医学科」の2つは、全国のほとんどの地域でブランドとみなされていると考えます。なお、『進学校Map』では、大学合格実績は各学校が公式サイトで公表しているものをソースとしています。

まとめ

『進学校Map』では、おおむね以下の手順で進学校を選出します。

1.通学圏を設定する

2.当該通学圏内の中学校卒業者数を調べ、10%erの数を見積もる

3.入学偏差値や大学合格実績などを参考にしつつ、10%erが当該通学圏内のどこの高校に進学するかを検討する

10%erの進学先にアタリが付き、進学校の選定を終えたら、無料の地図作成ソフトMANDARAで地図を作成します。行政境だけでなく、鉄道路線などのデータも扱えるので、とても便利です。

noteでは、原則として都道府県別に『進学校Map』三訂版の進学校選定結果を紹介していきます。週に1県紹介できたとしても1年はかかります。趣味的活動ということもあって、時間はもっとかかるでしょう。どうぞ気長に、公開をお待ちください。


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