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神奈川県の進学校Mapその2(東部)

※この記事は、『神奈川県の進学校Mapその1(西部)』の続きです。

Map(東部)

この記事では便宜上、横浜市と川崎市を神奈川県東部と定義する。

【横浜市南部・川崎市南部】

【横浜市北部・川崎市北部】

※西部の進学校Mapは「神奈川県の進学校Mapその1」の記事に掲載。
※地図は『MANDARA』で作成。
※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。♂を付けた学校は男子校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

キリスト教系の進学校が密集

神奈川県東部は全国的にも中学受験率が高く、10%erの多くは中学受験を経験する。彼ら彼女らは県外(とくに東京都)の私立中学・高校も選択肢に入れるが、県内で志望校を探すとすれば、まずはいわゆる“御三家”に目を向けるだろう。2020年3月末の時点で、神奈川県で男子校御三家と言えば、
・栄光学園高校(鎌倉市)
聖光学院高校(横浜市中区)
浅野高校(横浜市神奈川区)
を、女子校御三家と言えば、
フェリス女学院高校(横浜市中区)
横浜共立学園高校(横浜市中区)
横浜雙葉高校(横浜市中区)
を指すのが一般的である。この6校のうち浅野高校を除く5校はキリスト教系の学校だ。このことは、江戸時代末期に横浜が開港し、外国人が多く流入したことと無関係ではないだろう。実際、フェリス女学院高校、横浜共立学園高校、横浜雙葉高校の3校は、かつて外国人居留地だった山手町に位置している。

神奈川県東部の中高一貫男子校で、男子校御三家に次いでいわゆる難関大学合格者数の見栄えが良い高校としては、横浜市都筑区にあるサレジオ学院高校の名が挙がる。また、中高一貫女子校で川崎市高津区にある洗足学園高校は、現在、いわゆる難関大学合格実績でフェリス女学院高校と比較される存在になっている。なお、サレジオ学院高校はキリスト教のミッションスクールであり、洗足学園高校はミッションスクールではないものの創設者がクリスチャンである。

神奈川県東部の私立進学校は別学(男子校・女子校)が多いのだが、近年は共学も存在感を示す。たとえば、神奈川大学附属高校(横浜市緑区)や公文国際学園高等部(横浜市戸塚区)である。ちなみに、公文国際学園は公文式の創始者が創立した学校で、生徒は授業と並行して公文式学習に取り組む。

ここまでに挙げた私立進学校は、いずれも高校入試を行わない完全中高一貫校である。千葉県の渋谷教育学園幕張高校や埼玉県の栄東高校が高校入試を行っていることを考えると、神奈川県の私立高校は「中学入試でこそ多くの10%erが獲得できる」という意識が高いことが伺える。

“テコ入れ”が進む公立進学校

神奈川県東部の進学校は私立の存在感が大きい。この背景には、かつて神奈川県の県立高校に細かく学区が設定されており、各公立高校の通学圏が限られていたことがある。しかし、2005年に県立高校の学区が撤廃されてからは、通学圏を拡張することに成功したいくつかの公立高校が、いわゆる難関大学合格実績の見栄えの良さで注目を集めている。その代表格が横浜翠嵐高校(横浜市神奈川区)だ。かつては横浜市を6分割した旧学区のひとつ、横浜東部学区のいわゆるトップ校にすぎなかったのが、現在では神奈川県のほぼ全域から10%erをかき集めている。また、旧横浜南部学区のいわゆるトップ校だった柏陽高校(横浜市栄区)は、横浜市だけでなく鎌倉市や藤沢市からも10%erを取り込んでいるし、旧横浜北部学区のいわゆるトップ校だった川和高校(横浜市都筑区)は川崎市からも10%erを取り込んでいる。

神奈川県教育委員会は県立高校の中から学力向上進学重点校を指定し、いわゆる難関大学合格実績などを競わせることで、公立進学校の育成を進めている。2021年4月時点で学力向上進学重点校は5校指定されていて、横浜翠嵐高校、柏陽高校、川和高校はこれに含まれる。また、学力向上進学重点校を目指す高校として学力向上進学重点校エントリー校が13校指定されている。神奈川県東部の学力向上進学重点校エントリー校のうち、進学校Mapにおける進学校に選定したのは、横浜緑ケ丘高校(横浜市中区)と神奈川県立多摩高校(川崎市多摩区)だ。旧横浜臨海学区のいわゆるトップ校だった横浜緑ケ丘高校は、横浜市都心部に近い立地を活かして広範な通学圏を有する。神奈川県立多摩高校は、人口約150万人を擁する川崎市の公立高校で最も合格難易度が高い。ただ、川崎市の10%erは東京都23区や横浜市の進学校に非常に流出しやすい上、川崎市南部の幸区や川崎区からは身近な通学先とは言えない(通えなくはないが、より交通至便な進学校が多数ある)。なお、進学校Mapにおける進学校としては選定しなかったが、希望ケ丘高校(横浜市旭区)や光陵高校(横浜市保土ヶ谷区)は、横浜市西部の公立進学校に匹敵する合格難易度を保っている。

2000年代以降、神奈川県東部では公立中高一貫校も進学校として注目を集めている。ただし、設置者は神奈川県ではなく横浜市だ。横浜市港南区に位置する横浜市立南高校は、2012年に横浜市初の公立中高一貫校となった。定員わずか40名の高校入試で集まる10%erは多くないが、中学入試では志願倍率が高止まりし、将来の10%erを多く入学させている。横浜市鶴見区に位置する横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校は、横浜市の予算がふんだんにつぎ込まれ、超高校級の科学実験設備を備えた理数科のみの高校である。2009年に開校した新設校ながら、高校入試では学力向上進学重点校に迫る合格難易度に達している。2017年には附属中学校を開校し、高校入学者の3分の1を附属中学校出身者が占めるようになった。

私立高校入試の多様な戦略

神奈川県東部の私立高校入試では、書類選考が広く浸透している。具体的には、学力試験を実施することなく、調査書(内申点+α)だけで合否を出すという仕組みだ。書類選考は基準を満たしていないと志願できないので、志願さえできればほぼ合格する。ほかの県では、内申点だけでほぼ合格が決まっていたとしても学力試験を行うのがほとんどだが、神奈川県ではそれすら省略しているのだ。この傾向は、コロナ禍によってさらに進んだという。一方、内申点の基準を設けずに当日の学力試験の成績だけで合否を出すオープン入試を採用する高校も少なからずある。

神奈川県東部の公立進学校の志望者に多く併願されている私立高校のひとつに、桐蔭学園高校(横浜市青葉区)がある。1学年約700人のマンモス校で、学力上位クラスである男子部理数科と女子部理数コースを進学校Mapにおける進学校に選定した。2018年に学科が改編され、2021年3月以降の卒業生でこれに相当するのは普通科プログレスコースになるだろう。普通科プログレスコースを併願で志望する場合、2022年度入試の書類選考では原則9教科44(1教科だけ4、他はオール5)以上の内申点が要求された。また、桐蔭学園高校は男女併学という、同じ学校の中で同じ学校の中で男子と女子が別々に授業を受けるシステムを採用していたが、2018年に共学に改められた。さらに、桐蔭学園高校には附属中学校出身の生徒と高校から入学した生徒が混ざっていたが、2019年から高校募集のみとし、中高一貫教育は同じ敷地にある桐蔭学園中等教育学校(横浜市青葉区)で行うこととした。桐蔭学園中等教育学校は2001年の開校以来男子校だったが、2019年に共学化して、別学の中高一貫校が多い神奈川県で共学ニーズをつかもうとしている。

東京都との県境近くに位置する私立中高一貫校の桐光学園高校(川崎市麻生区)は、桐蔭学園高校とは対照的に、現在も男女併学を維持している。桐光学園高校の学力上位クラスはSAコースとよばれ、進学校MapではSAコースを進学校として選定した。高校からの入学者は全員SAコースに所属するが、言い換えると相応の学力を示さないと入学できない。このため、桐光学園高校の一般入試では書類選考は行われておらず、内申点によるほぼ合格確約もない“ガチ入試”となっている。

山手学院高校(横浜市栄区)もまた、神奈川県の公立進学校の併願校として人気だが、内申点によるほぼ合格確約を得るには9教科43以上が目安である。それでも、この確約を得た上で山手学院高校を受験する生徒は例年1000人を超える。神奈川県の高校受験人口の多さか内申点のインフレか、あるいはその両方がなせる業だろう。進学校Mapでは山手学院高校のうち、高校からの入学者の学力上位クラスである理数コースと、附属中学校出身者の学力上位クラスである特進クラスを進学校に選定した。なお、この記事を書いた2022年時点では、高校からの入学者の学力上位クラスは特別進学コース、附属中学校出身者の学力上位クラスは選抜クラスという名称になっている。

系列大学への内部進学が多い私立高校は、中学入試だけでなく高校入試も積極的に行う傾向がある。たとえば、卒業生のほぼ全員が慶應義塾大学に進学する男子校の慶應義塾高校(横浜市港北区)は、高校からの入学者が生徒の約半数を占める。もっとも、高校入試で合格するのは横浜翠嵐高校の合格者でも容易ではない。神奈川県の公立進学校が第一志望の生徒が併願するならば、中央大学附属横浜高校(横浜市都筑区)や法政大学第二高校(川崎市中原区)が現実的だろう。それぞれ中央大学、法政大学に卒業生の大半が進学する。ちなみに、中央大学附属横浜高校は女子校だったが2014年に共学化し、法政大学第二高校は男子校だったが2016年に共学化した。

神奈川県(東部)内高校の大学合格実績(2020年春)

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。★は高校全体の実績を示していることを意味し、横浜市立南高校は高校からの入学者(定員40人)を含んだ実績である。また、桐蔭学園高校(2020年春卒業者数約740人)、桐光学園高校(2020年春卒業者数548人)、山手学院高校(2020年春卒業者数478人)は学校全体の実績である。

【2022/12/30追記】この記事を含む北海道・東北・関東地方の進学校Mapの記事を、加筆修正して収録した書籍(同人誌)を通販中です。詳細は以下の記事をご覧ください。


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