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本は「初速」で見切られる 【1000文字で続ける日記のようなもの】

こんにちは。あさま社の坂口です。

自分の出版社をつくりたいな。
そう思うきっかけはいくつもあったのですが、その一つ、大きなきっかけは森の中で生まれた。

こどもを入園させるために移住した軽井沢で、学校主催のイベントがあった。創業者の方が保護者に向けて語る、という趣旨で、しかも場所は森の中だという。

保護者が20名ほどだっただろうか、椅子に見立てた切り株にちょこんと座り、話し手のまわりを取り囲む。最初に行われたのは、絵本の読み聞かせだった。普段、絵本を読み聞かせることはあっても、読んでもらうことなんて初めての体験。目ではなく、耳で入ってくる言葉が新鮮だった。意味、ではなく、「音」として飛び込んでくる。意識が後から追いつく感じが心地いい。
脱線するが、こどもたちは朝と帰りに森のなかで絵本を読んでもらう、というのを習慣にして幼稚園の3年間をすごす。それはなんの能力に結びつくかわからないけれど、記憶の奥底にまちがいなく沈殿している体験だと思う。そしてそれは、その子を形づくっていくんだろうな、と想像する。

そのご、あたらしい学校をつくるひとつのきっかけが話された。
安心して失敗できる環境をつくりたい。
心から共感できる話だった。今の学校制度では傍に避けられてしまうような考えだ、とも思った。

編集の人であればピンときてもらえると思うのだけど、目の前で話されたことに「これだ!」と瞬間的に心が飛びつくときの感覚はたまらないものがある。ふらっと訪れた講演会で、心を動かされる。そのときの衝動は本をつくる大きな原動力になる。そうして始まる「本づくり」は、机のうえでウンウン唸ってでてきた企画よりも強度がちがう。とても感覚的な話だけど。

本にしたいなぁ。

そんな想いと一緒に湧いてでた気持ちがあった。
あまり直視したくない現実だった。

でもいまの会社で本にしても3ヶ月でおわるかもな。

つくった本を大切に育てたい。できれば3年、5年、10年と販促を続けられれば本望だ。だけど、売れない本に手をかけることは、サラリーマンとしての職務として与えられたものではないだろう。評価にもきっと紐づかない。
優先されるのは、あたらしくつくる年間の本のタイトルであり、それが損を出さずに売れること。そしてそれは会社組織であればあたりまえのことだ。

それでもつくりたい本をつくりたい。
自分も、著者も、会社も満足できる三角形の真ん中を狙いたい。
そんなふうに考えて、企画づくりに奔走していた数年だったが、でもそこには歪みもきっとでる。
自分のなかで、企画の原石のようなものを市場に寄せるプロセスが、言葉を選ばずにいえば面倒になった。つくりたいようにつくればいいじゃん、と。
また仮に、原石を磨いてつくった本が「発売直後」の動きだけで、かんたんに見切られるのはどうしてもいやだった。数字や分析で優先順位がつけられるのは、それがマーケティング的に正解だったとしても、受け入れられなかった。

この本をつくりたい。
その衝動(それは編集者自身の衝動だ)をそのままパッケージして出すにはどうすればいいか。

選択肢がたくさんあるとは思えない。
答えは、シンプル、自分が経営する「出版社」をつくればいいだけだ。

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