見出し画像

道なき原野を進み、橋なき川を渡る、エクストリーム国境越え

1000kmのアウストラル街道の終着地オイギンスに到着。
この先は道はまともに続いておらず、フェリーで南下してから道なき道を進み、国境を越えてアルゼンチンのエルチャルテンへと向かうのが通例で、僕もそれにトライするつもりだった。
しかしその国境は、パンデミック以降閉鎖されたまま。
オイギンスの少し北にある別ルートの国境が開かれており、現時点ではこれがアルゼンチンへの最短ルートとなる。

店も宿も一切ない未舗装路を46km進むと、チリのイミグレーションが現れた。

この国境越えは、車やバイクは不可能、馬でも無理。
訪問者といったら、酔狂なサイクリストかトレッカーぐらいのもの。

5~6人の係員が出てきて、フレンドリーに迎えてくれた。
1人だけ英語を話せる人がいる。

かれらの仕事のメインは国境警備。
旅行者の相手はお遊びみたいなものなのだろう。
皆おしゃべりしたくてしょうがなさそうに、話しかけてくる。

建物内に通され、コーヒーとクッキーでもてなされた。

国境でこんな好待遇はそうそうないですよ。

出国手続きを終えて、いざ出陣。
しかしここからどう向かえばいいのか。
目の前に大きな川があるが、橋が見当たらない。

どうすんの、と思ってたら車に乗せてくれた。

ここでは最も多い車種かもしれない、4WDピックアップトラックの本領発揮。
難なく川を渡る。

川を渡った時点で地理的にはアルゼンチンに入っているのだが、アルゼンチンのイミグレーションへはここから15kmほど緩衝地帯を進まなければならない。
道路らしい道路はなく、過去に誰かが通った跡や獣道などを手がかりにする。

Google Mapsにはこのルートは記載されていない。
僕が平生から愛用しているオフラインマップ、「Osm」と「Guru Maps」には記載されており、ルート検索でもバッチリ出る。

なんか、ふつうの道路。

と思ったら道を間違えていた。
これをそのまま行ったらチリに戻される。

国境警備員から最初の道順を教わっており、「右に曲がれ」と言われていた。
しかし右に曲がれるようなところはなかった、おかしいな。
GPSを見つめながら戻り、右に曲がる正確な場所を探る。

するとどうやら、このフェンスを乗り越えるらしい。

たしかにフェンスの向こうに、獣道らしきものが見える。
不自然にぶら下がっているヘルメットの残骸も、おそらく目印として誰かが付けてくれたのだろう。

荷物をはずして、ひとつひとつフェンスの向こうに置く。
最後に、自転車を持ち上げて有刺鉄線をかわすのはちょっと厳しいかな。
僕の自転車は、荷物をはずしてもなお規格外の重さなのである。
とそこで、通りすがりのチリ人夫婦が助けてくれた。
なんでこんなところを通りすがるのかさっぱりわからないが、パワフルな旦那さんが自転車を持ち上げてくれて、無事フェンスを越えることができた。

よくよくマップを見てみたら、ちゃんとフェンスも描かれているではないか。
すごいなオフラインマップ。

しかし出だしからいきなりエキセントリックだな。
国境でフェンス越えとか不法移民みたいなことやらせないでよ。

いよいよ獣道。

野宿する時も、森や茂みの中をかきわけて行くことが多いのでまあ慣れてはいる。
でもこれは狭すぎだ。

植物のトゲが肌をガリガリと引っ掻いていく。
無類の短パン愛好家の僕としては、こんな状況でも長ズボンなんぞ履きたくない、というか長ズボンは持ってない。
バッグのストラップなんかもいちいち引っかかり、小枝がホイールやプーリーにからむ。

このルートは、登山道やトレッキングコースなどとも違う。
獣道は決して明確ではなく、不意に消失したり、別の獣道が現れたと思ったらてんで違う方向に導かれたりする。

そして、川。

たいした幅ではないが、なかなか流れが速く、底も見えない。
深さは膝ぐらいだった。
対岸は泥沼で、自転車も靴も泥まみれに。

まともに登りきれない超スティープな坂もちょいちょい出てきて、そのたびに荷物をはずして小分けにして運び上げる。

開けたところへ出て、ひとときの安堵。

再びブッシュ。

むき出しの大自然では、方向感覚を狂わされる。
いくつもの獣道に惑わされ、気づくとまったく方向違いのところにいたりする。
少しでも広いルートがいいので、あえて違うルートでしばらく進んでみて、後から軌道修正したりもする。
自転車を置いて、歩いて周辺を偵察に行き、戻ってくると自転車が見つからなくて探しまわったりなんてことも。

19時。
まだ日は高く体力もあるが、今日はこの辺でストップしとくか。

なんと、イミグレーションを出発してから3時間半かけて、たったの3kmしか進んでいなかった。
感覚的には5~6kmは進んでいた気がしたのだが。

漫画「ファブル」で、主人公が山にこもるシーンが好きなのだが、「街で10km歩くより山で1km進む方が困難だ」みたいなことを言っていたのを思い出した。

翌日。
朝6時に出発。

ルート上で唯一の橋。

この吊橋がまた難関。
なんたって、この幅。

人間がギリ通れるほど。
床板は角材と釘と針金だけの手作り。
下は激流。
落ちたら余裕で死ねる。

また荷物をはずして小分けに運ぶ。
欲張って多くの荷物を抱え込むと、突っかかって通れない。
バッグ2個が限度。

最後に自転車。
横に並んで押して進むことはできないので、前に出てハンドルを引っ張りながら後ろ向きに進む。
ハンドルがまた吊橋のメインケーブルにいちいち接触するので、ちょいちょい持ち上げてかわしながら少しずつ進む。

4往復半。
この橋を渡るだけで20分ぐらいかかった。

開けた河原へ。

ゴツゴツの石でスムーズには進めないが、広く見渡せるというだけでも安心感が出る。
それでも、ちょっと油断すると方向がずれてくるので、こまめに立ち止まってGPSを確認。
自分の方向感覚を過信すべきではない。

ヒツジさん、、、

また川。

かなり流れが速い。
深さは太ももぐらい。
ズボンが濡れるぐらいならかまわないが、バランスを崩してコケたりしたら終わる。
落ち着いて、一歩一歩慎重に。

この川を越えたら終盤、イージーモード。
今までと比べたら、これはもう立派な道路と呼んでも差し支えない。

記念撮影する余裕まで出てきた。

最後の最後でまた川か、と思ったら立派な橋が架けられていた。

昼頃、アルゼンチンのイミグレーションに到着。

キャンプした時間を差し引くと、この15kmの移動に9時間を費やしたことになる。
茶菓子こそ出されなかったが、ここの国境係員たちもフレンドリーに迎えてくれた。

無事入国手続きをすませて一安心、ではない。
イミグレーションから幹線道路に出るまで95km、ローカルロードを行く。
この区間も店や宿は一切ない。

それでもまあ、あの緩衝地帯に比べたらまともな道路が期待できるでしょう。
って、何これ?

チリでは山から流れ出る清流で水を補給できたが、こちらは濁流。

って、橋は?

こんな大きな川を渡らせるんかい。
濁流なので底が見えない。
ためしに歩いてみると、水深は膝ぐらい。
流れは速くない。

3往復半。
無事渡ってやった。
だんだん慣れてくるけど、最初はやっぱ怖いな。

山を抜けて、次第にフラットになってきた。

石が大きくゴッツゴツのガッタガタで、快適な走行とは言いがたい。
1時間に10kmも進めれば上等。
ペースはともかく、振動がひどくて自転車も荷物も相当なダメージを受ける。

アンデスの山々が遠ざかってゆく。

大無人地帯。

僕の大好物。

多くの旅人に踏みならされてテンプレート化してしまったモデルコースなんかよりも、人に見放されたようなむき出しの大地の方がスケールを感じられる。

野生動物もいるし。

なんたって車が通らないこの静寂。

このローカルロード95km区間で通過した車、0台。

やっとこさ幹線道路、舗装路。

久々の舗装路、速い!

幹線道路に達してから5kmほど南にある宿をめざしていた。
しかし・・・つぶれていた。
出た出た、さすがアルゼンチン。
ここで水と食料を補給できる期待もしていたけど、閉業している可能性もちゃんと想定していたよ。

当初は160kmの無補給と考えたが、それはこの宿が営業しているという前提での話。
確実に補給できるのは、ここからさらに120km先の街。
つまり280kmの無補給区間ということになった。

とりあえずこの廃墟でキャンプ。

まだそんなに古くは見えない。
中をのぞいてみると、つい最近まで営業していたかのようにきれいだ。

広大なパタゴニアの平原地帯。
テントを張れる場所などいくらでもありそうに見えるが、やはり全面フェンスでガードされている。
交通量は少ないが、道路から丸見えのところでキャンプはしたくない。
そして風も強い。
ここがつぶれいたせいで何も補給できなかったが、建物があるだけでもキャンプするには大いに助かる。

車が止まり、フルーツと水を差し入れてもらった。

ありがたい。

その場でかぶりつく。
フルーツなんて久しぶり、おいしい。

280km無補給と言っといて補給されてんじゃねえか、とか野暮なツッコミはやめてくださいね。

この120kmの幹線道路の区間も店一軒たりともなく、どうなることかと思ったがなんとか街に到着。
4日間280kmぶりの街。
さあ食いまくるぞー。
コーラ飲むぞー。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?