【エッセイ】完全犯罪未遂

 雪の降る中、チョコを連れて家の裏を歩いていた。
 チョコはまだやんちゃな若い犬で、わたしは小学生だった。夕方にふたりで(ひとりと一匹で)散歩をするのが日課だった。
 雪はすでにくるぶしあたりまで積もっていた。ぼんやりと歩いていたら、ひもが後ろに引っ張られる。ふり返ると、チョコは雪の中に座りこみ、うんこをしていた。
 いつもならスコップを持ってきて片付けるのだが、その日はそれが途方もなく面倒に思えた。自宅の敷地内である。このまま放置してしまおうか。いや、あまりにも家の前であり、誰かが踏んでしまう可能性がある。
 迷っているあいだに、チョコはひと仕事を終えて好きな方向に行こうとしている。ますますスコップを取りに行くのが面倒になった。
 そのとき、わたしはたいへんに素晴らしいことを思いついた。それはこの状況を完璧に解決する方法だった。
 つまり、スコップを取りに行くことなく、犬のうんこを誰にも踏ませないようにすることができる。
 善は急げとばかりに、早速作業に取りかかった。
 まず、うんこに雪をかける。そのあと周囲を大きめに手で固め、持ち上げて雪玉にする。あとはその雪玉を背後の木立(子供の頃は森と呼んでいた)に投げ込めば、一件落着である。おにぎりの具よろしく雪玉に包まれたうんこは、誰に踏まれるでもなく木立の根元でひっそりと雪融けを待つ。証拠隠滅の成功である。
 ......はずだった。
 放り投げた雪玉が無事に木立に到達したのを確認してから、足元に目をやる。
 うんこは、そこにあった。
 おそらく、ホカホカすぎたために周りの雪を融かしてしまい、地面に取り残されたのだろう。
 わたしはしばらく、じっとその茶色いモノを見ていた。
 チョコが行こう行こうと紐を引く。しかしわたしは、黙ってチョコの希望に反した方向へ歩きはじめた。スコップを取りに行くためだった。
 こうして、ちいさな完全犯罪は未遂に終わり、チョコのホカホカのうんこは無事に片付けられたのであった。
 

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