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【エッセイ】事故、あるいは事件

 ふだんは陽気なおじさんが、深刻な面持ちで私の横に立ち「巣が、」と言った。「窓を開けた奴がいるんだよ」
 「えっ!」いつもよりちょっと大きな声を出してしまったが、構わず巣を見に行く。
 窓枠の中に作られた巣だ。窓を開けるということは巣の上を窓が走るということ。一瞬で、崩壊した巣と潰れたヒナが脳裏に浮かんだ。

 巣のある会議室は使用中だった。仕方なく隣の部屋から見ると、横長の巣は窓に押されてぎゅっとコンパクトになっていたが、崩壊してはいないようだった。
「暑いとは思うけどさあ、なんでこっち側から開けるかな。気付かなかったのかな」
 おじさんのぼやきを聞きながら双眼鏡をのぞく。ヒナはまだ小さいので、隣の部屋からは姿を見ることができない。
 無事を確認したいが、無事でないことを想像すると怖くて見ることができない。ひとまず会議室には入れないので、会議の終了を待つことにした。

 夕方になって、3人で巣を確認しに行く。
 ブラインドを開けると、狭くなった巣の中にふわふわの羽毛が生えはじめたヒナがぎゅうぎゅうに詰まっていた。
「あ、いた!生きてた…」1羽が巣のふちで足をバタバタさせている。お尻が落ちそうだが、もし落ちても窓枠があるので問題なさそうだ。別の1羽がお尻を突きだし、フンをした。
「5羽いるかな…」
 窓ガラス越しだと、角度が悪くてやっぱりよく見えない。そもそも5つの卵全てが孵ったかも定かではなかった。

 窓には、新たに貼り紙を増やした。〈こちら側の窓を開けるな!鳥の巣アリ〉
 動物好きの上司は「ほんとに注意力ない奴いるな」と怒り心頭であったが、ヒナが全滅でなかったことと親鳥が変わらずエサを運んでくることを確認して安堵したようだった。

 また隣の部屋から巣を観察する。親鳥がエサを運んだ帰りにヒナのフンをくわえて持っていった。
 どうりで巣がフンまみれにならないはずだ。よく出来てるもんだ。

 

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