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【アーツ議連】#1 文化政策の基本

2021年5月10日に立ち上げた、文化芸術振興自治体議員連盟(略 アーツ議連)でキックオフとなる第1回勉強会を開催しました!クリエイターも、政治家も、どちらもむずかしく感じる方も、ぜひ抑えておきたい「文化政策の基本」です。

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2021年5月25日19:30⁻

●はじめに:開催経緯
南雲由子 共同代表 東京都板橋区区議(現代美術アーティスト):
愛知トリエンナーレ補助金交付問題、コロナ下の文化芸術支援、アーツ前橋の事例などを通じ、文化と政治の間のところ、アーティスト、制作に関わっている人の思いを政治に届けていく必要性を実感。一方で、市民にとっても理解を深めていく必要があると感じている。自治体議員という比較的自由に動ける立場から、政治とアートと市民との間で翻訳できる人を増やしていきたいと考え、それぞれの言葉、環境が違っても、翻訳していきながら、共通理解を深め、文化振興を、畑を耕すようにやっていきたい。
初回は、文化政策についてのこれまでと現状についての講演を聞いて、今後の議論のベースを共有したい。

●文化政策について講演

作田知樹 Arts and Low ファウンダー事務局/文化行政実務担当
『文化政策の課題を共有しながら、これまでの経緯と現状を共有』

課題&現状① 「文化政策」の範囲は法的に定義されていない

文化(Culture)…近代ヨーロッパが発明した概念だが、その後は国や専門家の中でも意味がそれぞれ違う

日本
1949年 文部省設置法 所掌範囲としての「文化」の定義を明記
1999年 文部科学省設置法 「文化」の定義が削除
2001年 文化芸術振興基本法、2017年改正文化芸術基本法でも定義はない

課題&現状② もはや芸術の支援=「文化政策」ではない

1980年以前、世界的には芸術振興を中心とした政策があった。しかし以後は、大衆文化、メディア文化の振興、生活文化、そして社会問題の芸術的手法による関与も対象になり、文化政策がなにか、と一概にいうことはできない。

「文化政策」と「産業政策」の重なりと違い…ドイツ的な考え方では対立する

「文化政策」(広義):文化的人権の充足、文化的公正(公平)の実現
有形無形の文化財や文化活動を通じて、人々の生活の質的向上や活性化、公平を図る

「産業政策」:産業の育成、発展
コンテンツ産業、クリエイティブ産業、観光業など 文化産業を通じた経済政策

いずれも世界では「多様性」や「環境問題」や「格差」に取り組み文化・経済の成長に結びつけるかがキーワード!
多数派の支持を得にくいこともあり、官僚機構に政治からの自律性がなれば戦略的・革新的な推進が困難になるため、理解を深めて進めていくことが大事。

広義の「文化政策」が落とし込まれる、わかりやすい「文化行政」の例
規制行政 政府による資源の割当や自国産業の保護 
例)資源の割当:放送、通信など 産業の保護:映画の上映クオーター制(自国作品の保護政策)など
給付行政 補助金、イベントの支援や主催
その他 著作権制度、顕彰制度など


課題&現状③ 文化に関する政策が広大になりすぎて重要性が見えにくい(希薄化)

文化政策は、文部科学省だけがやっているかというと、答えはNO! 文化は様々な領域にまたがって存在する。
代表的な取り組み(ごく一部)
文部科学省→文化庁 各国立施設、芸術文化振興基金
国土交通省・観光庁→観光、まちづくり、景観
経産省→COOL JAPAN(工芸・繊維、コンテンツ産業)
農水省→食全般、農村漁村文化、日本食のPR
外務省→ジャパンハウス、国際交流基金、在外公館
総務省→自治体文化施設の支援、地域創造
地方自治体→各自治体による施策

公立文化施設への国からの補助金は、三位一体の改革により、全国知事会等の要請を受ける形で平成9年に廃止。以降、一般財源化された地方交付金の文化への配分は自治体の自主性に任されるように。地方自治体の責任が大きくなったが、福祉予算の増大や財政再建に際して、文化関連の予算は切シロとして扱われるように…

課題&現状④ 公共政策としての文化政策のテーマが日本では共有されていない 

先進国の自治体レベルの文化政策は、住民に長期的に支持されるために、文化的権利や文化的公平、地域社会のバランス良い発展のための文化からの各分野への貢献というテーマを中心に据え、似通ったものになっている。日本ではかつて「行政の文化化」という言葉があり、共通目標になっていたものの、現状はバラバラ…。
かつて「行政の文化化」の際に教育行政との違いを強調しすぎたのも原因で、テーマが希薄化してしまっている。
先進国の自治体文化政策での共通と考えられる主なテーマは4つ

1.文化的公正(公平性)の向上:文化的格差の是正
2.社会や地域への新たな視座をもたらす活動を支援:地域の歴史、現代の多様性をユニークさに結びつける
3.地域の新たな文化的ニーズへの活動を奨励:地域住民の文化的参加を促進、創造的業種の起業支援
4.文化・芸術活動に携わる人たちや観客に新たな刺激をもたらすアイディアを実現:新たな作品の制作等

≪自治体レベルでの共有例≫
・米自治体文化部局の連合American’s for the Artsは、「文化的公正」の定義を行い、さらに芸術と文化が地域の経済発展、居住性、文化産業の競争に実質的に貢献することを提言

・全米州立芸術機関連盟NASAA 政治家に文化行政の重要性を説明するためのリーフレットを作成
ファクトに基づけば、芸術への投資の有効性や「コストパフォーマンスの良さ」が認めらえる。ただし、ファクトに基づかない思い込みにより文化芸術への公的投資は無駄なものだと言われてしまいがちであり、具体的な進め方を説明。
(なぜ芸術は公共セクターにとって良い投資なのか?/すべての州が芸術に資金を提供しているか?/現在芸術への投資はどれくらい?など)

≪実践例≫
クリエイティブ・プレイスメイキング:米都市部のスラム再開発の施策として始まり、現在は農村部を含めあらゆるところで発揮できるとして展開。
意図的に、アートを中心に据えて、地域住民を主体とした地域社会発展のためのアプロ―チを実験。

全米州知事協会「芸術と文化を通じた地方の繁栄のためのアクションガイド」を発行
行政が、地方でクリエイティブなスキルを持つ人々が地域のために力を発揮できるよう、どうリーダーシップを発揮するか。起業支援や他分野連携等のちゃんとした方法論をもって、地方のアーティスト・クリエーターと共に施策を進めていく方法論を提示
↓発展
自治体の行政に芸術家を参加させる「アーティスト・イン・役所」。アーティストレジデンシー(アーティスト・イン・レジデンス)の応用
行政のあらゆるレベルでアーティストが関わっていく。例)土木工事にアーティストが関与し、地域住民向けにアーティストが企画するWSを行い、それまで関心のなかったインフラ工事などに、市民参加が可能となる


課題&現状⑤ 日本は文化予算が少ない?

文化庁で国際比較の資料を作っているが、そこでは確かにすくなめ。国家予算に対する割合も、日本は極めて先進国では小さい。また、中央より地方のほうがだいぶ大きい。(日本の文化行政は地方を中心に発展してきたため)
ただし、この予算は芸術文化経費、文化財経費の合計額であり、広義の文化行政に含まれうる「社会教育」や「生涯学習」の予算の一部は入っていない。文化に関する施策は様々な領域にまたがるため、国によって、どう予算に計上するか、違いすぎてあまり比較統計はできないのが現状。

戦後~1950年: 「社会教育施設」=図書館、公民館 明確に定義されている(教育費本法、社会教育法)
1960年代   : 教育委員会による社会教育行政と地方文化行政の拡大による並行
1970年~現在: 教育委員会による社会教育行政 VS 首長部局による文化行政
2019年→「社会教育施設」の所管を自治体の判断で首長部局に移管が可能(条例の制定が条件)

上記流れと共に、自治体レベルでの計画がより柔軟に!
2017年→地方文化芸術推進基本計画 自治体への努力義務により、計画を策定することが定められた
   しかし!
何を目指し、何に配慮すべきか抽象的。指針では、政府の推進基本計画を参酌し、その地方の実情にあわせる、とだけある。
国際的な現代の自治体文化政策の流れにそった4つのテーマが共有され、計画が立てられていくべきでは?
前掲の米Americans for the Artsやそれを支援するPolicy Linkでは、自治体の文化計画についてのより踏み込んだ考え方の共有ツールがある


課題&現状⑥ 世界には、文化政策にはどんな形があるの?

技師型 中国、ベトナム
国家や政党が公式の文化を作り、人材育成も含めて管理 安定するが多様性や表現の広がりの点で不利とされる

ファシリテータ型 米
国立施設以外は環境整備。お金も出さない。背景に国家が個人の精神に関与することへの不信。商業的に成功しないと困難になるデメリットも。

建築型 仏、独(州)
専門部局を設置し、直接政府が支援。幅広い表現が育つものの、高度な専門家自治が機能していないと政府の検閲の恐れがあるし、専門家自身による自己検閲であるという批判はある。全く新しいものは生まれにくいとも。

パトロン型 英
政府からの財政支出だが間に専門家を挟む。ファシリテータ型の弱点である商業主義を緩和する。無責任な財政支出と批判もある。また、検閲性はないと言いながらも、公益性や品位の問題が起こり、取り消されることも。

現在は、世界的に建築家型とパトロン型の併用に収束してきたが、ファインアート(非営利的な芸術、芸術のための芸術)に対する公的な直接的支援は縮小。都市の再生や経済福祉の独自の貢献を示す必要あり。

日本は??
戦後、国立施設運営と文化財行政を中心に技師型で展開
自治体では国の指図を受けない分野として発展するものの、施設整備が中心
1980年代 舞台芸術を中心に国もパトロン型支援をスタート
平成末期、観光を中心にした地方振興における文化芸術(文化財、文化資源を含む)への投資拡大

2017年 内閣官房と文化庁による「文化経済戦略」  2018年 「同戦略アクションプラン」策定公開
2018年 文化祭典法(国際文化交流の祭典の推進に関する法律)
2020年 出国税を財源とした、大規模な美術博物館を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律
→残念ながら、出国税財源はコロナで大幅削減の見通し
2018年 障害者による文化芸術活動の推進に関する法律が、文科省×厚生労働省により策定。
ユネスコ「文化多様性条約」批准の可能性→国内でも多様性重視の文化行政のトレンドが進むかも?

【まとめ】
文化政策は、そもそも「文化」という言葉の範囲が広く政策として扱う分野が主体により異なり、それぞれ文化政策の意義を整理していく必要がある。予算が必要な分野でありながら、その根拠となる法律や、ファクトをどう扱っていくかという課題は大きい。一方で最近では、先にあげた4つのテーマがいかなる複雑な状況の中でも、芸術振興を含む文化政策への有権者の支持を得るための大事な要素として、共通テーマとして広がっている。
残念ながら今の日本の文化官僚、知事、首長がこういうことを発言してくれることはほとんどない。今後のステップとして、ベースの4つのテーマが共有されていく展開が望まれる。

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