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【アートノトお悩みお助け辞典】頁6.ハラスメント相談窓口の設置のヒント

第一線で活躍する各分野の専門家にご協力いただき、芸術文化活動に役立つコラムや情報をお届けする「アートノトお悩みお助け辞典」
今回は、芸術文化の創造環境におけるハラスメント相談窓口について、「ハラスメント防止講座2024」の講師・ファシリテーターであり、上級ハラスメント対策アドバイザーの植松侑子さんにご執筆いただきました。
・相談窓口はどうして設置する必要があるの? 
・少人数・短期間だから設置したくてもどうやったらいいかわからず困っている。
・ハラスメントが起こらないように防止策をとりたい。
そんなお悩みにお役立てください!


こんにちは。舞台芸術の制作者であり、上級ハラスメント対策アドバイザーの植松侑子です。
ハラスメントが発生してしまうと、被害者、加害者、目撃者、そしてその対応にあたる方々全員への影響は大きく、対応の大変さを実感されている方も多いのではないかと思います。だからこそ、ハラスメントは「防止対策」が非常に重要となります。


ハラスメント防止のための3点セット

まずは、創造現場に関わる方々が、ハラスメント防止対策なしで事業を行うことは非常に危険なことだと認識すること、そして、防止のために以下の3つを備えることが重要だと考えます。

  1. ハラスメント防止ガイドラインの作成

  2. ハラスメント防止研修の実施

  3. ハラスメント相談窓口の設置

「1.ガイドライン作成」と「2.研修の実施」の重要性については、アートノトハラスメント防止講座 2024【現場実践編】で詳細にご説明しておりますので、ぜひご覧ください。


ハラスメント相談窓口の設置

ハラスメント相談窓口は、被害者の傷を広げず、問題が繰り返されないように迅速に対応すること、安心して声を上げられる環境を整え、相談者の声に真摯に耳を傾けることが重要です。場合によっては加害者や関係者の話も客観的に聞くことで、個人の問題にとどまらず、団体・組織やチーム全体の構造的な問題を明らかにすることにもつながります。これにより、団体・組織は根本的な原因に対処し、再発防止のための措置を講じることが可能になります。


芸術文化業界におけるハラスメント相談窓口の重要性

芸術文化業界のクリエイティブな活動は、プロジェクトベースの仕事や、異なる組織、フリーランスの方々とのコラボレーションも多く、関わる方々同士の人間関係が非常に緊密になります。
異なるバックグラウンドや考え方を持つ人々が集まるため、文化的な違いや個々の価値観が摩擦を生むことがあります。そういった摩擦は上手く対話や議論に繋げていけば、作品や事業をクリエイティブにブラッシュアップしていくことにつながる可能性もありますが、そこに権力勾配があり、権力を持つ立場が自分のパワーを理解し適切に扱っていない場合、ハラスメントにつながる可能性があります。その衝突が健全なものなのか、それとも健全な衝突だと思っているのは権力者だけで、実は相手はとても傷ついているのではないか。ハラスメント相談窓口を設置することで、こうした問題が表面化しやすくなり、早い段階での対応が可能になります。

いろいろな方が関わる「事業単位」ならば相談窓口設置の可能性は広がります

少人数チームにおける課題

芸術文化業界においては、そもそも団体・組織の人数が少ない、少人数のチームで事業を実施するということも少なからずあると思います。その場合、ハラスメント相談窓口を設置するには、以下のような課題があります。

1.関係性の近さ
少人数のチームでは、メンバー同士が非常に近しい関係にあります。これにより、被害者が加害者と頻繁に接触する機会が多く、相談しづらくなる可能性があります。親しい関係性があるため、相談することで関係が悪化することを被害者が恐れることもあります。また、相談対応者自身が相談者、あるいは加害者と近しい関係にある場合、客観的で公平な対応が難しいケースもあります。

2.匿名性を担保することの難しさ
少人数のチームでは、匿名で相談することが難しく、誰が相談したか特定されやすくなります。これにより、報復を恐れて相談を控えるケースもでてきます。

3.リソースの制約
少人数のチームでは、業務上でも複数の役割を兼任することもよくあります。その上にハラスメント対応も行うとなると、対応そのものに割く時間も、専門知識をつけるための時間もないことがよくあります。また、外部の専門機関に頼る場合も、金銭的なコストがかかる場合があります。


少人数のチームでも相談窓口を設置するための具体的な対策

1.相談対応者の選任方法と匿名性を担保するためにできること
恒常的な相談窓口設置は難しくとも、いろいろな方が関わる「事業単位」ならば相談窓口設置の可能性は広がります。主催や提携に別の組織や団体が入っている場合、主催者や提携団体から相談対応者を選任することも考えられます。例えば、国内のいくつかの会場で共同主催している場合、それぞれの組織から相談対応者を選任するケースも、私が過去に関わった事業では実際にありました。また、今回の事業に関わっていないメンバーから選任することも一つの方法です。

2.リソースの制約を解消するためにできること
外部の相談窓口、ウェブサイト、研修などを活用する方法があります。たとえば、厚生労働省の「あかるい職場応援団」のサイトには、相談窓口の一覧や研修動画など便利なツールが詰まっています。相談窓口運用のために必要な「相談受付票」や「行為者聞き取り票」などもダウンロードできます。
相談窓口のひとつとして、ぜひアートノトの相談窓口もご活用ください。
また、アートノトでは、私も講師とファシリテーターを担当する「ハラスメント防止講座2024」を開催しています。動画【相談対応編 レクチャー】において、相談窓口設置のための基本的なことをお話しているほか、2024年7月12日には【相談対応編 ワークショップ】を対面で開催します。参加者同士のグループでさまざまなケースをシミュレーションし、実践的なスキルを磨く機会となりますので、こちらもご活用いただければ幸いです。


風通しの良い健全な創造の現場を整備するために

ハラスメント相談窓口は、個々の事例を通じて組織やチーム全体の構造的な問題を明らかにし、その根本原因を解明する役割も担っています。これにより、組織やチームは持続可能な解決策を見つけ、同様の問題が再発しないように長期的な戦略を策定することが可能になります。ハラスメント相談窓口は、起きた問題の解決のためだけでなく、組織やチームが持続可能な成長を実現するための基盤でもあるのです。

芸術文化業界においては、お互いを尊重し、信頼関係を築くことと安全な創造環境がクリエイティビティを最大限に発揮するために欠かせません。ハラスメント相談窓口の設置は、メンバーが安心して創作活動に取り組める環境を提供し、信頼関係を築くためにも重要な手段です。

工事現場の「安全第一」が工事をしないことを意味しないように、私たちの創造活動も一切の衝突を避けることではなく、健全に衝突しながら共通の目的に向かうことが重要だと考えます。多様なメンバーが集まることで、時にはコミュニケーションの問題が起きることもありますが、それを放置してハラスメントに至ってしまうことを防ぐためにも、ハラスメント相談窓口があることはチームのコミュニケーションの健全性を保つための大きな役割を果たします。

創造の現場に関わるみなさまお一人お一人が、創造の現場を風通し良く健全なものにする力を持っています。窓口設置のための権限を持っている立場の方は、「まず自分が」という意識で、ぜひ相談窓口の設置に踏み出していただければ幸いです。

(植松侑子)


植松侑子 [舞台芸術制作者、上級ハラスメント対策アドバイザー(一般社団法人ハラスメント対策協会)]
お茶の水女子大学 文教育学部 芸術・表現行動学科舞踊教育学コース卒業。在学中より複数のダンス公演に制作アシスタントとして参加。卒業後はダンスカンパニー制作、一般企業での勤務、海外放浪を経て、2008年からフェスティバル/トーキョー制作。2012年からは1年間韓国・ソウルに留学。帰国後はフリーランスの制作としてさまざまな劇場・組織・劇団と協働。2015年6月~舞台芸術のアートマネジメント専門職に向けた人材育成と雇用環境整備のための中間支援組織「特定非営利活動法人Explat(えくすぷらっと)」理事長。2016年7月~合同会社syuz’gen代表社員。
note:https://note.com/maticcco


ハラスメント防止講座2024

芸術文化の現場で実際の活用につながる研修や、相談対応やガイドラインの作成を想定した実践講座やワークショップ、ハラスメントを起こさない環境づくりのためのストレス・マネジメント、アンコンシャス・バイアスなどの研修を開催します。
誰もが被害者にも加害者にも、あるいは目撃者にもなりうるハラスメント。創造活動に取り組むすべての方々にとっての、風通しのよい安心安全な創作・活動の環境づくりを学ぶ機会を提供します。

6月6日(木)より公開  現場実践編 [研修動画]
6月6日(木)より公開  相談対応編 レクチャー [研修動画]
7月3日(水)アンコンシャス・バイアス編[オンライン講座] 
7月11日(木)ストレス・マネジメント編[オンライン講座]
7月12日(金)相談対応編 ワークショップ[対面ワークショップ]
8月6日(火)アサーティブ・コミュニケーション編[オンライン講座]
8月下旬公開予定 分野別実践編[研修動画]