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芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座2023|レポートVol. 08:12人の創造性溢れる所信表明 課題解決/価値創造戦略レポートの最終発表会

【対話型ゼミ】として実施した「課題解決/価値創造戦略レポートの最終発表会」(2024年2月8日開催)は2023年度の芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座の最終回です。


約3時間にわたる発表会。好奇心と少しの緊張感が織り交ざった、温かい空気のなか始まりました

この日のために、受講生12人それぞれが考える事業/活動の課題解決や価値創造のための活動計画をまとめたレポートを提出しました。会場には過去のキャパシティビルディング講座の修了生やアーツカウンシル東京の職員の姿もあり、聴講者として受講生を見守ります。
 
聴衆の前で、受講生がレポートをもとに5分間のプレゼンテーションを行います。その後、ファシリテーター/アドバイザーの小川智紀(おがわ・とものり)さん、若林朋子(わかばやし・ともこ)さんによる5分間のフィードバックがありました。
 
この日に発表した受講生の名前|プロフィール/レポートタイトルは以下の通りです。
 
1. 植木愛(うえき・あい)|公益財団法人八王子学園都市文化ふれあい財団 芸術文化振興課 主事/「コミュニケーションを開く機会をつくる〜組織とプロジェクトの成長に向けた対話と提案〜」
 
2. 深井厚志(ふかい・あつし)|編集者、企画戦略コンサルタント/「戦略的・創造的編集による芸術の生態系のアップグレード」
 
3. 早渕仁美(はやぶち・ひとみ)|アートギャラリー運営、アーティスト/「美術と生活を並列させるためには? ともに世界を作る。」
 
4. 秋田祥(あきた・しょう)|キュレーター、オーガナイザー/「10年。ここからどうしたいのか。」
 
5. 西村聡美(にしむら・さとみ)|アートマネージャー、企画制作/「アートマネージャーが作品について語る場を持つことから」
 
6. 榎日向(えのき・ひなた)|公益財団法人東京交響楽団 フランチャイズ事業本部/「プロフェッショナル・オーケストラにおける音楽鑑賞教室のあり方〜団体規模の違いから見える実態と今後の展望〜」
 
7. 小池梨沙(こいけ・りさ)|株式会社ジェー・シー・プラス 代表取締役、民謡未来ネットワーク 代表、特定非営利活動法人日本火消し保存会 上級木遣り師、一般社団法人和軸 正会員/「暮らしの中に民謡がある未来を取り戻すために」
 
8. 佐藤千春(さとう・ちはる)|公益財団法人日本民謡協会 広報部、民謡研究会ゆたちた 主宰/「さて、なにを残すか。─民謡、再考─」
 
9. 印田彩希子(いんだ・あきこ)|特定非営利活動法人SEED OF ARTS、DEL(ドラマ・エデュケーション・ラボ) ファシリテーター、一般社団法人ソーシャルコーディネートかながわ 非常勤職員、准認定ファンドレイザー/「アーティストの仕事の受け皿としてのNPO法人の可能性〜『SEED OF ARTS』が目指す価値創造〜」
 
10. 長井望美(ながい・のぞみ)|人形劇団ネンネンネムネム!ねむり鳥、眠鳥企画 主宰、人形遣い、人形美術家、人形劇作家、企画制作者/「インディペンデント人形劇団が考える生存戦略と人形劇の未来」
 
11. 池田美月(いけだ・みづき)|独立行政法人国際交流基金 文化事業部企画調整・文芸チーム 主事/「持続的な文化芸術交流事業の実践に向けて」
 
12. 武内剛(たけうち・ごう)|映画監督、プロデューサー、芸人、講演家、タレント/「あの頃の自分に向けて〜多様なルーツを持つ若者にとっての光となる表現者へ〜」
 
※敬称略。並びは当日の発表順。プロフィールとレポートタイトルは発表時点のものです。

講座の学びを生かした集大成

発表のトップバッターを飾ったのは、八王子市の文化財団で働く植木さん。新プロジェクトとして2022年に始動した地域芸術祭「八王子芸術祭」に携わった際の反省点は「ゴールをどのように共有するか」。第2回第3回講座で学んだ協働型プログラム評価を活用して、組織内の職員が課を横断して対話する場の設定を提案しました。組織全体で事業の最終アウトカムを共有し、それぞれの職員が事業を「自分ごと化」できるように解決策を共有しました。

発表者に受講生から労いの大きな拍手がありました。受講生同士で記入したリアクションペーパーを共有してフィードバックを行います。

アートギャラリーを運営するアーティストの早渕さんは、現代美術と人の生活との間に隔たりを感じてきました。第4回講座をきっかけに、現代美術をわかりやすく伝えることは「どうありたいかを伝えること」だと思い立ったと言います。「経験としての芸術」をキーワードに、みんながたんすの肥やしになっているモノを持ち寄って作品をつくることで様々な人が出会いお互いを知ることができるイベントの実施など、具体策を提案。そして、もう一つ重要だと言うのは第5回講座で学んだ「文化権」です。芸術を享受する権利が全ての人にあるのであれば、鑑賞者が芸術を享受した時の感覚を日常生活の中で常に感じていられるような世界を一緒に創っていきたいと話します。
 
民謡を研究し、伝承・普及する活動に取り組んでいる佐藤さんは、どのような民謡を残したいかを再考しました。佐藤さんは民謡の継承者の立場の違いは大きく2パターンあると指摘。加えて第1回講座で学んだ事業/活動の3類型を活用して、自分はソーシャル型と自覚しました。そして民謡を取り巻く環境の悪化を打破するために、3月4日を「民謡の日」に制定して、日本各地で民謡に触れられる機会をつくってしまおうと提案しました。

受講生は発表のためにスライドや写真も用意しました

印象的だったのは、講座での学びがそれぞれのレポートにフル活用されていることです。また、「ネットワーク」、「対話する場」、「地域」など、社会と芸術文化のつながりや、同じ職能同士のつながりをつくるためのキーワードが頻出しました。発表では、受講生同士のコラボレーションの可能性も感じられ、全講座を通して生まれた彼らの交流の深まりを感じます。

分厚くて、おいしいパイをつくる糧に

ファシリテーター/アドバイザーの小川さん(写真左)と若林さん(写真右)から受講生に向けてフィードバック

発表が終わると、ファシリテーター/アドバイザーの2人からの建設的なフィードバックがあります。
 
若林さんは、戦略を次に進めるために、ブラッシュアップする方法を助言していきます。「担い手同士のネットワークをつくるという目標であれば、まず誰に声をかけるのか。その辺りもできるだけ具体的に設定して、その人たちに見せに行くための企画書だと思って書いてみよう」、「自分のやりたいことを考える企画なので、無理のあるギリギリの予算設定ではなく、自分がこうありたいと思う時給・日給単価や支出額など、一度自分の理想を組んでみてほしい」と改善を提案します。
 
小川さんからも、様々なヒントがシェアされました。例えば、植木さんに向けて、2021年のキャパシティビルディング講座のあるレクチャーでの話を共有します。「組織の結束を固めるために社内広報が重要だという話があった。『広報』とは合意形成なんですよ」と小川さん。また、人形劇の芸術的価値を言語化し、専門性をもつ人材育成やネットワークの必要性をレポートにした長井さんには「人形劇は、その担い手の人数に比して中間支援組織の数が多い。ひとりで全てをやろうとするのは大変だから、中間支援組織の人に出会ってチャンスをうかがってみたらどうでしょう」と次のステップを示しました。
 
全ての受講生の発表が終わると、小川さんと若林さんからのコメントがあります。小川さんは芸術文化創造活動の担い手同士の「コモンズ」について話しました。
 
「今の現場の担い手たちは、コミュニティといいますか、『コモンズ』をつくっている最中ではないでしょうか。資金獲得のために人を出し抜くのではなく、お互いで協力してなにかをつくっていける可能性を、今日の発表で感じました」
 
若林さんも同意します。
 
「『パイを奪い合う』という言葉があります。でも、そうではなく、パイ自体を仲間たちと協力して増やす発想が必要です。パイは増やせるんです。そのためには心を開いて協力できる仲間をつくることが大事。レポート作成のための個別相談デーで、哲学者のジョン・デューイの話になりました。『考えることが経験につながる』と彼は言っています。モヤモヤ考えたこの講座での時間が、経験になっていく。みんなで集ってモヤモヤ考えた経験を、分厚くておいしいパイにしていけたらいいなと思います」

その後、修了証書の授与式が行われました。

1枚目:受講生一人ひとりに修了証書が手渡されます。2枚目:修了証書を手に記念撮影

アーツカウンシル東京 活動支援部 相談・サポート課 課長の大塚千枝(おおつか・ちえ)さんからも、受講生に向けてはなむけの言葉が送られました。
 
「ここが終わりの場のようですが、本当はここが始まりなのだと感じました。今日からいろんなことが皆さんに起こると思いますが、それを見に行きたいですし、また皆さんと出会いなおしたいなと思っております。ぜひ、この芸術文化の世界に居続けてください」
 
受講生が書き上げた「課題解決/価値創造戦略レポート」、各講座の内容をまとめた講座レポートなどを収めた活動報告書・課題解決/価値創造戦略レポート集は2024年4月に公開予定です。

執筆:中尾江利(voids)
記録写真:古屋和臣
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)


事業詳細

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座2023
~創造し続けていくために。芸術文化創造活動のための道すじを“磨く”~


東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」

アーティスト等の持続的な活動をサポートし、新たな活動につなげていくため、2023年10月に総合オープンしました。オンラインを中心に、弁護士や税理士といった外部の専門家等と連携しながら、相談窓口、情報提供、スクールの3つの機能によりアーティストや芸術文化の担い手を総合的にサポートします(アートノトは東京都とアーツカウンシル東京の共催事業です)。


アーツカウンシル東京

世界的な芸術文化都市東京として、芸術文化の創造・発信を推進し、東京の魅力を高める多様な事業を展開しています。新たな芸術文化創造の基盤整備をはじめ、東京の独自性・多様性を追求したプログラムの展開、多様な芸術文化活動を支える人材の育成や国際的な芸術文化交流の推進等に取り組みます。