見出し画像

【創作】雨の日のカフェで 【スナップショット】

雨止まないね
 
そうだね
 
雨が止んだらここを出ていく
それで私たちはもう会わなくなる
 
そうだね
 
どうしてこんなことになったんだろう
 
ずっとそれを考えている
多分僕たちは最初から目的が違った
目的が違えば、どれほどよい関係でも
一緒に居続けることは難しい
 
いいえ、きっとそうじゃない
私たちのはじまりなんて大きな話じゃない
ただ私たちは努力しなかった
 
いや、僕らは最初から違っていた
 
どう違っていたの?
 
僕は君を利用したし、君は僕を利用した
だから僕たちの関係は素晴らしかった
世の中のほとんど関係は
どちらかが一方的に搾取するだけだからね
でもそれを続けることはできない
 
どうして?
 
時間が経てば
お互い利用し続ける意味がなくなってくる
本当に一緒に居続けるには
そこに別のものがなければ
 
それは愛?
 
たぶんね
 
それは優しさ?
 
たぶんね
 
いいえ、そうじゃない
私に何かが欠けていただけ
私は後悔している
全てを
 
どうして君は僕の前に現れたのか
 
たぶん夢を見ていた
 
どうして君は僕に手を差し伸べたのか
 
たぶん愛はなかった
同情もなかった
たぶん私は別の感情に囚われていた
 
それは?
 
世界を救えると思ったの
私が貴方と一緒にいることで
私も貴方も救われる
だから世界も救われると
 
君がそんな宗教家だったとは
 
私は神を信じていない
でも、そんなことは問題じゃない
大事なのは、私が貴方の中に
本当に生きる意味を見出したことだった
 
あるいは死なないでいる意味を
 
そう、私が貴方に意味を見出した時
私はきっと救われる、変われると思った
努力すれば、私にも貴方にも
生きる意味が生まれたはずだった

そんな世界もあったかもしれない

ごめんなさい
愛していなかったのに貴方を巻き込んで

こちらこそすまなかった
愛していなかったのに君を利用した

私を憎む?

いいや、決して
愛がなかったのに僕らは一緒にいられた
そこには人としての敬意があった
君に感謝している

私も感謝している
そこには愛の苦しみも呪縛もなかった

そうだ

私たちは傷つけ合うこともなかった
そして私の救いもなかった

そうだ

私たちが頑張れば
この世界が救われて
世界にも意味が生まれたはずだった
 
僕らはそんな努力をしてこなかった
 
そう、生活に流されて、ずっと忘れていた
いいえ、本当は怖かったの
答えが出てしまうことに
自分の選択が無意味だと宣告されることに

恐怖を忘れることは悪いことじゃない

それでも私は後悔している

それは罪でも落ち度でもない
僕らはゆっくり時間をかけて
自分の人生に
何の意味もないことを学んでいくんだ
 
私の人生には意味がなかったの?
 
それを答えることは僕にはできない
 
もし私が今出ていったら
私たちが一緒にいた意味はなくなるの?
 
わからない
以前は僕らが別れても
残るものはあるだろうと思っていた
でも、今僕の中で何かが消えかかっていて
それが本当に無意味だったことに
うすうす気づきはじめている
ナイフを喉元に突き付けられているようだ
 
少しでも動いたら血が出る
 
きっとそうだ
 
でも、雨が止んだら
私たちはここを出ていく
 
そうだ
 
雨が止んだらもう
私たちの世界は消える
ここを出ていったら
 
止まなくても、出ていけるんじゃないかな
 
そうね、本当はいつ出ていったっていい
いつ死んだっていいのと同じ





(終)


※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。


今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。


こちらでは、文学・音楽・絵画・映画といった芸術に関するエッセイや批評、創作を、日々更新しています。過去の記事は、マガジン「エッセイ」「レビュー・批評」「創作」「雑記・他」からご覧いただけます。

楽しんでいただけましたら、スキ及びフォローをしていただけますと幸いです。大変励みになります。





この記事が参加している募集

#私の作品紹介

97,568件

#眠れない夜に

69,974件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?