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平塚市美術館「こどもたちのセレクション」エピソード③

 平塚市美術館「こどもたちのセレクション」。佐々木豊さん『薔薇爆弾』の次にあるのは、堀文子さん『トスカーナの花野』(1990年 80.3×116.5cm 彩色・紙)です。

●子どもたちが実際に反応を示した作品で構成すると

 この展覧会は、子どもたちが参加した鑑賞会(2015~2022年1月)での子どもたちの反応を記した記録を集計分析して、構成したものです。(初めて読まれる方に向けて繰り返しの説明で恐縮です。詳しくは初回投稿とエピソード①に)

 同様の手法で構成した2012年「赤ちゃんたちのセレクション」の搬入時、館長さんが「学芸員が選んだら、こういう並び方にはならないわねぇ」とおっしゃっていた言葉が印象的でした。
 子どもたちの反応で選んでいるので、作品や作家についての研究を踏まえた構成にならず、通常だったら隣に並ばないような作品が隣同士になっていたりするのだと思います。

 前回より今回の方が「同系色だけど微妙に違う色」の作品を近くに配する箇所が多めで、配置に苦戦しました。図面上に配置した時点では「これは隣同士ではちょっと色味が合わない」ということになりそう、作家さんに申し訳ないことになりはしないか気がかりでした。
 担当学芸員さんはカラッとした方で「あとは現場合わせでいきましょう!」と言ってくださって、実際、搬入時に館長さんが、鮮やかに配置を調整してくださって、ほっとしました。皆様のお仕事に触れる度、大変勉強になります。

 ということで、堀文子さん『トスカーナの花野』と佐々木豊さん『薔薇爆弾』が隣同士になることも、通常なら考えられない配置になっています。

 展示が一段落し、作家さんの勉強をと未読だった『別冊太陽 堀文子』(平凡社)を読みました。
 堀文子さんは「絵の道で生きていきたい」と決意した少女時代に、自宅周辺で、二・二六事件に遭遇しています。兵隊さんに銃を突きつけられて「絵の具箱だけは離すまい」「生きたい」と思ったのだそうです。

 このエピソードを知り、ハッとしました。そのような実体験をお持ちの作家さんの作品が、「平和と復興の願いが込められている」という作品『薔薇爆弾』の隣にある。

 子どもたちの反応をもとに選んでいるので、この配置にメッセージ性の意図はなく、作品同士の色合いのバランスで配置された偶然の結果なんですけれど、2022年の今だからそう感じるのか、これまた巡り合わせの妙を感じました。

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●作家さんの「真摯に見ること、深く感じること」を感じる

 『トスカーナの花野』は穏やかな気持ちになる絵で、子どもたちも優しい目をして見ています。

 0歳11ヶ月 花に手を振る
 1歳 9ヶ月 指をさしていた。通り過ぎてももう一度みたいと戻った。
 2歳 4ヶ月 スキ
 6歳    すてき。おはながたくさん

  花の色がたくさんあるので「自分の好きな色」を見つけることができます。先日の「キッズ鑑賞ツアー」でも、それぞれ自分の好きな色について語っていました。
 堀さんは子ども時代に科学者への夢もあったそうです。描かれている色とりどりの花や草は、作家さんが「真摯に見ること、深く感じること」で生まれたものなのだと感じます。

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●うちの子、どんなことを感じているのかな?

 親子で鑑賞していただく場では、ご家族の思いに触れることがたくさんあります。

 2歳11ヶ月 この絵はすきと言ってました。色とりどりの花がさいていて最近のこの子の「かわいい物が大好き」のブームにあてはまっていたと思います。(母)

 このお母さんのように「うちの子は今、何が好きで、どんなことに興味を持っているのか」を、様子をみて理解しようとする、ご家族のほとんどがそうです。

 小さい頃が特にそう。大きくなってくると、あまり把握しようとすることは子どもには鬱陶しいものだったり、親の決めつけになって良くない面も出てくるので、変化していきますが、言葉でのコミュニケーションが未熟な小さいうちは、こうして鑑賞の場で「何が好き?これが好きなんだ~!」とやり取りすることは、育児にプラスになると考えています。親子の嬉しい時間になり、毎日の生活でも「子どもをよく見てみよう」と思っていただける、そんな機会になったら嬉しい。

 ちなみに展覧会のリードタイトル「気になる!大好き!これなあに?」という言葉は、現場で子どもたちが語っていたことや、ご家族とやり取りする姿を思い出していたら、思いつきました。

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●日頃、描いている子どもたちの視点

 長年、子どもたちが通ってくれているワークショップ「アートケアひろば」のお子さんたちと鑑賞したところ、5年生の子たちから、こんな話が出ました。

 ・丘の1つ1つがモリッと、ちゃんと段々の丘になって見える描き方をしているのがすごい

 ・手前にお花があって、丘を向こうに登って行くと家がある、というのが、なんかいい

 日頃から絵を描いている子たちならではの視点や感じ方というのもありそうです。他の作品でもそう感じたエピソードがありました。また書きます。

(本稿は美術館ご担当者様に確認いただき掲載しております)

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