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金属材料の強化手法と転位の運動について 〜3〜

金属(材料)を強化する方法について。前回は塑性変形の進行に伴い転位が絡み合うことで変形抵抗が上がる現象「析出強化」「固溶強化」を紹介しました。

金属の強化手法には「加工硬化」・「析出強化」・「固溶強化」・「結晶粒微細化」の4つがあります。ミクロな視点で見ると、いずれの方法も「転位」の運動を抑制することが共通します。

今回は次なる手法として「結晶粒微細化」について説明します。

転位の運動と相互作用 〜再掲〜

引張試験で描かれる「応力ーひずみ線図」はマクロな視点で見た金属(材料)の性能評価です。グラフで注目するポイントを決めて、各種材料のグラフを並べて比較します。

ただし、ここで決まる指標に対するメカニズムを説明するには、ミクロな視点が必要になります。その際に使われるのが「転位」です。転位については、以前の記事に詳しく書いています。

ミクロな視点で塑性変形を説明することは、金属の性能を原理に則して表すことにつながります。改めて、金属の塑性変形の過程を示すと、下記の通りです。

塑性変形が起こる初期の頃に、転位が増殖して様々な所で発生します。転位単体の運動や転位群による相互作用を見ることで、塑性変形の状態を理解するのです。

ここからは転位に着目して、金属の性能向上がどのような過程を踏まえて行われるか見ていきます。

金属材料の強化手法 〜結晶粒微細化〜

金属は基本的に多結晶構造です。それぞれの結晶で原子配列の方向(結晶方位)が異なります。また、結晶同士の境目の部分は「結晶粒界」と呼ばれます。

結晶粒の微細化とは結晶の大きさを小さくすることで強度を上げる手法です。金属は原子が規則的に並んでいるからこそ、転位の運動が発生しやすいです。原子配列が乱れた結晶粒界では、転位の運動が妨げられます。

結晶の大きさ(結晶粒径)を小さくすることは、結晶粒界の割合を増やすことになります。つまり、転位の運動が抑制されることが多くなり、結果的に強度の増加につながります。

この強化方法は「ホールペッチの関係式」という経験式でも表されており、結晶粒径と強度(降伏応力)が反比例の関係にあることが示されています。

結晶粒の微細化については、ひずみを無数に入れた後に熱処理で微細な結晶を新た作り出す方法や、焼き入れと焼き戻しの熱処理が交互に行う方法が主に採用されています。

おわりに

今回は金属(材料)の強化手法として、新たに「結晶粒微細化」について説明しました。

結晶粒微細化に伴う物理現象はまだ研究段階の話も多くて、私も大学院で研究していたひとりです。ただ、それはそれで、塑性変化に対するミクロな性質を知れただけで面白さを感じました。

金属(材料)の強化手法についての話は以上です。今回は転位の運動が金属の材料特性に変化をもたらすことを書きました。

今後も転位に関して何かしらテーマを考えて、紹介したいと思います。引き続きよろしくお願いします。

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