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塑性変形の解明に身を捧げた6年間 〜転位という存在を知る〜

学生時代はとにかく研究に明け暮れた時期でした。塾講師のアルバイトと両立しながら、本当にキツいけど時折り楽しい。とても貴重な時間でした。ここでの経験が今の仕事にも活かされてます。

今回は大学生になるとほぼ必ず通る「卒業研究」の話をします。

私の研究の経歴は特殊で、木更津高専で3年間、筑波大学(大学院)で3年間の計6年間を費やしました。

高専と大学院では研究テーマこそ異なりますが、6年間を通して取り組んだのは、塑性変形という現象を数値解析の技術を利用して詳細に理解すること。

ひとつの分野に6年間を捧げて、学会発表など様々な経験もしました。その軌跡をここに書き記します。

塑性変形について

変形とは物体(固体)が形を変えること。どんな物体でも、負荷が掛けられたり、環境が変化したりすれば、物体の形状は変化します。

変形には大きく分けて2種類があります。負荷を解除するとバネのように元の形状に戻る「弾性変形」と、負荷を解除しても元の形状に戻らない「塑性変形」です。

弾性変形はいわゆる「負荷の大きさに比例して変形も大きくなる」というもので、線形の範囲になります。線形なので、扱い方も比較的に簡単です。

一方で、塑性変形は非線形の範囲になるため、扱い方も難しいです。未だに解明されていない部分もあり、まさに研究対象とするに相応しい事柄です。

理論の解明には数学や物理の知識が欠かせません。普段の実験とは違う試みに興味があり、塑性変形の研究の門を叩きました。

格子欠陥について

塑性変形を知る上で鍵となるのが「転位」と呼ばれる存在です。この転位の話は多くは知られていない事柄なので、今回を機に解説していきます。

金属の内部構造を原子レベルで見てみます。すると、金属は方位(原子の並ぶ方向性)が異なる結晶構造の集合体であることが分かります。この時、異なる結晶構造の境目は「結晶粒界」と呼ばれます。

結晶とは原子が規則正しく配列された集合体です。しかし、実際は原子配列に必要な原子が不足したり、不要な原子が侵入したり、またはズレが生じます。原子配列に不完全性が生じている部分のことを「格子欠陥」もしくは「点欠陥」と言います。

この格子欠陥(点欠陥)は転位の大もとです。転位は線欠陥の一種であり、格子欠陥(点欠陥)が線状に並んだ状態のイメージです。

転位については、この後で詳しく説明します。

塑性変形を原子レベルで説明する

格子欠陥を説明したところで、次に転位について話を進めます。先ほど説明した通り、転位とは格子欠陥(点欠陥)の線状の集合体です。

塑性変形が起こるということは、原子配列にズレが生じることを意味します。この現象は「すべり」と呼ばれています。原子の面がすべることで、格子欠陥の線状の集合体(転位)が生まれるのです。

塑性変形とは、結晶内の様々な所ですべりが発生すること。すなわち、転位が結晶内で増殖して移動(運動)することを言うのです。

すべり現象の可視化

塑性変形はすべりが生じることで進展することを説明しました。このすべりは、目視の範囲であれば「リューダース帯」として捉えることができます。例えば、試験片をはじめとした薄板で多く見られます。

塑性変形の進行に伴い、リューダース帯は全体に広がります。物体は次第に変形に耐えきれなくなり、破断することになります。

リューダース帯が斜めに走るのは、原子の結晶構造に対して斜めにすべりが発生するためです。すなわち、斜め方向に転位は増殖して運動するということです。

おわりに

今回は私が6年かけて研究対象としてきた、塑性変形と転位の関係について、説明しました。

転位は原子レベルで見れば、格子欠陥の集合体として実体がありますが、目視で観察することは容易ではありません。金属表面に現れるすべりの痕跡などから確認することが挙げられます。

すでに自分が学生時代に取り組んでいた研究の話は書いていますが、理系方面の記事を集めたマガジンも刷新したので、今度は転位から見た場合の研究内容の話を書いてみたいと思います。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。実際は非定期ですが、毎日更新する気持ちで取り組んでいます。あなたの人生の新たな1ページに寄り添えたら幸いです。何卒よろしくお願いいたします。

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