金属材料の強化手法と転位の運動について 〜2〜
金属(材料)を強化する方法について。前回は塑性変形の進行に伴い転位が絡み合うことで変形抵抗が上がる現象「加工硬化」を紹介しました。
金属の強化手法には「加工硬化」・「析出強化」・「固溶強化」・「結晶粒微細化」の4つがあります。ミクロな視点で見ると、いずれの方法も「転位」の運動を抑制することが共通します。
今回は次なる手法として「析出強化」と「固溶強化」について説明します。
転位の運動と相互作用 〜再掲〜
引張試験で描かれる「応力ーひずみ線図」はマクロな視点で見た金属(材料)の性能評価です。グラフで注目するポイントを決めて、各種材料のグラフを並べて比較します。
ただし、ここで決まる指標に対するメカニズムを説明するには、ミクロな視点が必要になります。その際に使われるのが「転位」です。転位については、以前の記事に詳しく書いています。
ミクロな視点で塑性変形を説明することは、金属の性能を原理に則して表すことにつながります。改めて、金属の塑性変形の過程を示すと、下記の通りです。
塑性変形が起こる初期の頃に、転位が増殖して様々な所で発生します。転位単体の運動や転位群による相互作用を見ることで、塑性変形の状態を理解するのです。
ここからは転位に着目して、金属の性能向上がどのような過程を踏まえて行われるか見ていきます。
金属材料の強化手法 〜析出強化〜
通常の金属内部に微細で硬い金属化合物を作る(析出させる)ことで、転位の運動が金属化合物の周りで阻害されます。これにより、塑性変形に対する抵抗力が上がるため、金属の性能(強度)は強化されます。
微細な金属化合物を析出させるためには、時効と呼ばれる熱処理を行います。この手法で代表的なのは、アルミニウム合金の一種であるジュラルミンです。
熱処理時間の経過に伴い、微細な金属化合物が析出するため、ジュラルミンは硬化します。ただし、熱処理時間が長すぎると金属化合物が粗大化するため、逆に軟化してしまいます。
金属材料の強化手法 〜固溶強化〜
金属に大きさの違う金属などの元素が混じると、混ぜられた元素の周辺ではひずみが発生します。原子配列が複雑化しているため、転位の運動が滑らかにいかなくなります。そのため、変形抵抗が上がります。
この強化手法は「侵入型」と「置換型」の2種類があります。侵入型は金属原子よりも小さい原子が侵入することで、周りにひずみが発生します。例えば、母材が鉄であれば、酸素や炭素などが侵入します。
一方の置換型は、母材となる金属原子と混ぜた元素の原子が入れ替わります。大きさの異なる原子が入れ換わることで、置き換えられた金属原子の周辺でひずみが発生します。
黄銅や青銅などはこの手法で強化されています。一般的に、金属を混合物が存在しない純金属のまま使用するのは稀であり、合金として使用します。そのため、多くの金属材料は固溶強化の効果を受けています。
おわりに
今回は金属(材料)の強化手法として、新たに「析出強化」と「固溶強化」について説明しました。転位の運動が阻害される点は同じですが、阻害されるプロセスはだいぶ異なります。
特に、先ほども触れた通り、固溶強化は純金でない限り該当する話です。自ずと発生する金属の強化機構もあると知りました。
次回は「結晶粒微細化」について、転位の運動の観点から説明します。
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