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転位から塑性理論を理解すること -2-

多結晶構造を前提とした金属材料の塑性変形(結晶塑性)に必要不可欠な存在と言える「転位」について。いわゆる「線欠陥」に分類されますが、原子空孔や不純物原子のように実体的な欠陥ではなく、原子配列の局所的な乱れとして扱われます。

出典:九州工学教育協会(弱い鉄から強い鋼に-自在に強さを変える!),http://qsee.jp/switch

今回は「転位」について、物理現象(変形問題)と関連付けながら、どのような振る舞いがあるのかを見ていければと思います。

前回は初回でしたので、転位に関する物理的な見方について、複数の視点から整理してみました。

今回は転位の弾性論(材料力学では「弾性領域」に相当する分野)を中心に、力学的な観点から話を進めていきます。


直線らせん転位が作る弾性場

ここでは線形等方弾性論を用いて、転位の周囲の弾性場(ひずみ場と応力場)を可能な限り手計算で導いてみます。加えて、弾性ひずみエネルギーに関して見ていければと思います。

直交座標系において、無限大の物体中に1方向に無限に長い直線状のらせん転位を考えます(図面は上下方向を無限長と見做します)。

おこで、らせん転位は転位線(物体上の破断の切れ目)と転位のバーガースベクトルが平行である場合に相当します。まずは、物体の上下方向に対する断面上の任意の点の変位を出します。

ここで、以前の連続体力学の話で登場した「変形勾配テンソル」の対称成分を、転位論における「ひずみ」として扱います。

$${\varepsilon_{ij}=\frac{1}{2}(\frac{\partial{u_i}}{\partial{x_j}}+\frac{\partial{u_j}}{\partial{x_i}})}$$

このらせん転位(モデル)における変位の情報は上下方向の成分だけ。表記をeに変えていますが、弾性ひずみとしては、非対角成分に相当する4成分が計算されます。

等方弾性体においては、独立した弾性定数は主に2種類(ラーメ定数)に集約されます。一部の成分を例示すると、下記の通りです。

  • $${\sigma_{11}=\lambda(e_{11}+e_{22}+e_{33})+2{\mu}e_{11}}$$

  • $${\sigma_{12}=2{\mu}e_{12}}$$ , $${\sigma_{13}=2{\mu}e_{13}}$$

転位(線欠陥)の線上において距離(r)に変数を集約すると、ひずみ場と応力場は上記のように求められます。弾性ひずみエネルギーは変数(r)を無限化した広義積分から求められます。

直線刃状転位が作る弾性場

刃状転位はらせん転位とは異なり、転位線と転位のバーガースベクトルが垂直です。変位成分は前回の類推から下記のように求められます。

$${u_1=\frac{b}{2\pi}tan^{-1}(\frac{x_2}{x_1})}$$

ところが、この変位成分は変位場に対する適合条件を満たしません。詳細は転位の運動方程式を見ることになります。これは、刃状転位の変位成分が連続的な変化にならないためです。

$${m\frac{\partial^2{u_i}}{\partial{t^2}}=(\lambda+\mu)\frac{\partial^2{u_j}}{\partial{x_i}\partial{x_j}}+{\mu}\frac{\partial^2{u_i}}{\partial{x_j}\partial{x_j}}}$$

計算過程は今回は省略します。らせん転位の場合に比べて複雑な計算処理を使うためです(デルタ関数を部分的に使用します)。

刃状転位が作る応力場は、対角成分と非対角成分の両方ともに値が存在します。また、刃状転位は応力場の対角成分の和(トレース)が値として存在します。らせん転位は対角成分(静水圧相当)が存在しないため、トレースはゼロになります。

応力場における静水圧成分の有無については、らせん転位と刃状転位の違いのひとつです。

転位に起因する弾性ひずみエネルギー

らせん転位と刃状転位の双方に言える話として、ひずみ場と応力場は距離(r)がゼロの極限を取ると発散することが挙げられます。

線形弾性論に基づく説明を付けるならば、弾性ひずみ(数値)は1に比べて小さいため、距離(r)が微小値である場合は適用外と言えます。

つまり、物体の形状は中空状態と見做され、中空領域(rが微小値である場合)は「転位の芯」と呼ばれる存在として扱われます。

ひずみエネルギーは転位の芯に関する設定次第ではありますが、距離(定数)の比に関する対数関数として求められます。

らせん転位に関して、銅の材料定数を適用してひずみエネルギーを算出すると、原子空孔の形成エネルギーに比べて大きいことが分かります。

これは物体が平衡状態において、転位が実体として存在しにくいことを示唆しています。

おわりに

今回は等方弾性論を前提として、転位の力学的な位置付けを見てみました。らせん転位については手計算で扱える範囲でしたので、ある程度ですが、導出過程も記しています。

次回は転位に働く力について、そこから転位の増殖過程にまで話を進められたらと思います。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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