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転位から塑性理論を理解すること -1-

材料(構造物)の破壊過程をはじめとして、塑性変形の挙動を決める要素(力学的性質)は多岐に渡ります。

金属(材料)は一般的に多結晶構造であり、結晶中に含まれる様々な格子欠陥の影響を無視できない場合もあります。そのような事象に代表される格子欠陥のひとつに「転位」があります。

転位は格子欠陥の中でも「線欠陥」に分類される存在であり、結晶内部で線状に連なる欠陥です。原子空孔や不純物原子のように実体のある欠陥とは異なり、原子配列の局所的な乱れとして扱います。

出典:九州工学教育協会(弱い鉄から強い鋼に-自在に強さを変える!),http://qsee.jp/switch

物理的(視覚)に捉えられない「転位」は、熱力学などのエネルギーとして評価できます。仮想的な運動として見ることも可能です。

今回は転位を主体とした物理学の話を進めます。大学院の頃に自己自習をしていましたが、より包括的な形に落とし込めていけたらと思います。


すべりと転位の因果関係

転位は先に示した通り、格子欠陥が線状に並んだ形の集合体です。同時に塑性変形の素過程に直結する重要な存在です。

塑性変形とは、転位(原子配列の局所的な乱れ)が外的な荷重や環境の変化を通じて発生して、それが時々刻々と進行する物理現象です。なお、転位は不可視的で微視的な存在ですが、塑性変形はあくまで巨視的な物理的挙動です。

原子配列の乱れを指す転位の存在が様々なところで堆積し、結果として物理的挙動の差異として現れます。そのひとつが「応力ーひずみ曲線」です。

転位の最も重要な役割は結晶内部の塑性変形(結晶塑性と呼ばれています)を担うことです。その最初のステップが「すべり」なのです。

すべりに起因した物理現象のひとつに「降伏」があります。弾性限界に似た意味合いとして用いられますが、転位が一定のレベルまで増殖して、一気に結晶塑性が雪崩的に進行する現象と言えます。

すべりと転位の物理的観測

転位自体は仮想的な存在であるのに対して、すべりは明確な物理現象です。そのため、表面を鏡面仕上げしたような結晶試料を塑性変形させると、試料表面に多数のすべり線が観察されます。

多結晶構造は結晶ごとに原子構造の並び方(結晶方位)が異なるため、降伏を引き起こすタイミングやすべり線の入り方も違います。このように、複雑な過程を紐解きながら塑性変形を考えます。

すべりを原子構造として捉えると、すべり面を挟んだ上下で相対的なずれと言えます。これはせん断変形と等価な現象です。すべりが多方面に伝播することで、小さな力で塑性変形が可能になります。

すべりによるせん断変形の変位(方向)は、結晶格子の並進ベクトルのひとつと一致します。このベクトルは「バーガースベクトル」と呼ばれます。転位が同一のすべり面上を複数運動するとき、せん断変形の変位は運動する転位の個数とバーガースベクトルの積になります。

出典:九州工学教育協会(弱い鉄から強い鋼に-自在に強さを変える!),http://qsee.jp/switch

転位の視覚的な捉え方を紹介しましたが、定量的な評価方法も存在します。そのひとつとして「転位密度」があります。これは単位体積の結晶内部に含まれる転位の全長として評価します。

転位の種類と性質

転位(単体)で説明すると、結晶内部にすべり面に相当する切れ目を入れて、外力を通じてせん断の変位を導入します。この場合の配列的な乱れに相当する線を転位線と見做します。

このとき、転位線の方向とせん断変形の変位の方向が垂直である場合を「刃状転位」と言い、両者が平行である場合を「らせん転位」と言います。

垂直でも平行でもない場合は「混合転位」です。切れ目の先端が直線ではないとき、実質的に曲線状の転位が作られます。その場合は転位線の場所に対して、先述の3種類のいずれかに分類されます。

おわりに

転位に関する物理学的な話を進めていきます。今回は転位の基本的な意味について説明しました。

今回は計算の話題にはなりませんでしたが、次回は弾性論とて見た場合の転位について考えます。計算式もそれなりに出てくると思います。

転位の詳細な扱い方を自学自習を兼ねて理解する連載記事にしたいです。改めてにはなりますが、宜しくお願いします。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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