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金属材料の加工硬化と硬化則について -5-

今回は主に金属材料に見られる「加工硬化」と呼ばれる現象に迫ります。金属材料における「塑性変形」に直結する話です。

金属材料の塑性変形の中でも重要とされる概念のひとつです。特に「加工硬化」という物理現象を数学的に説明した「硬化則」と呼ばれる理論は、数値解析でも必須と言える事項です。

前回は「降伏条件」に端を発して「降伏曲面」とそこから導かれる2種類の「硬化則」の話をしました。

今回は加工硬化に関する話の最終回として、塑性変形の計算における基礎理論と称される「ひずみ増分理論」について話をします。

有限要素法をはじめとして、塑性変形の計算(アルゴリズム)を理解する上で必須の内容になりますので、概念のところから理解を進めて頂ければと思います。


ひずみ増分理論

塑性変形の計算は、ある時刻に対して直前からの変形の増分を計算して足し合わせる作業を繰り返すことで、最終時刻に到達した際の変形を求めるというプロセスが基本になります。

その上で必要になる理論が「ひずみ増分理論」です。これは塑性における各瞬間の塑性ひずみ(塑性変形)の増分値を、その瞬間の「偏差応力」の関数として考えることです。

偏差応力:金属材料の体積変化には影響を与えず、塑性変形に限り影響を及ぼす応力のこと。

偏差応力は直交座標系における3軸の応力成分から「静水圧」を差し引いた形で計算されます(ここでは各成分を添字iで区別します)。

$${\sigma'_i=\sigma_i-\sigma_m}$$

ここで、金属材料の体積変化に限り影響を与え、塑性変形に影響を及ぼすことがないとされる応力のことを「静水圧」もしくは「平均応力」といいます(添字mで記載しています)。静水圧は直交座標系における3軸の垂直応力の平均値として計算します。

$${\sigma_m=\frac{1}{3}(\sigma_1+\sigma_2+\sigma_3)}$$

前回は主に主応力で話を進めていましたので、ここでは3軸の主応力の平均値として記載していますが、話の内容としては同じでことす。

プラントル・ロイスの構成式

塑性ひずみ(塑性変形)の増分値を偏差応力の関数として定義する。ひずみ理論に従いながら定式化します。

$${\Delta\varepsilon^T_i=\varepsilon^e_i+\sigma'_i\Delta\lambda}$$

上記を「プラントル・ロイスの構成式」と言います。ここで、右辺の第1項は弾性ひずみです。偏差応力が関係するのは第2項になりますが、ここには比例係数が存在します。

例えば、線形ひずみ硬化弾塑性体を仮定した場合は、ひずみ硬化率Hを材料定数として、比例係数を次のように導きます。

$${\Delta\lambda=\frac{3}{2}\frac{\Delta\bar{\sigma}}{H\bar{\sigma}}}$$

ここでの応力の表記は相当応力です。3軸の主応力を用いると下記のように表されます。

$${\bar{\sigma}=\frac{1}{\sqrt{2}}\sqrt{(\sigma_1-\sigma_2)^2+(\sigma_2-\sigma_3)^2+(\sigma_3-\sigma_1)^2}}$$

先ほどひずみ硬化率は材料定数と書きましたが、一般的な単軸の応力ーひずみ線図でも、塑性ひずみ増分と応力増分の比として逐次で求められます。

$${F=\frac{\Delta\bar{\sigma}}{\Delta\bar{\varepsilon}^p}}$$

上記のひずみ硬化率Fを用いると、プラントル・ロイスの構成式は次のようになります。

$${\Delta\varepsilon^T_i=\varepsilon^e_i+\frac{3}{2}\frac{\Delta\bar{\sigma}}{F\bar{\sigma}}\sigma'_i}$$

以上の定式化は前述の「線形ひずみ硬化弾塑性体」を前提とします。ひずみ硬化弾塑性体の形式は他にも存在するので、場面に応じて考える必要があります。

おわりに

今回は加工硬化について数値解析の観点から必須と言える「ひずみ増分理論」について説明しました。

数値解析に用いる際は「定式化」が避けて通れない道筋なので、そこに大きく貢献した古典理論とも言えると思います。自分も久しぶりに学生時代に追いかけた内容を思い出しました。

今回で加工硬化に関する話は終わりになります。数式も含めて難解な所もありましたが、最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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