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金属材料の加工硬化と硬化則について -4-

今回は主に金属材料に見られる「加工硬化」と呼ばれる現象に迫ります。金属材料における「塑性変形」に直結する話です。

金属材料の塑性変形の中でも重要とされる概念のひとつです。特に「加工硬化」という物理現象を数学的に説明した「硬化則」と呼ばれる理論は、数値解析でも必須と言える事項です。

前回は加工硬化の前段階と言える「降伏条件」について話を進めました。数学的な観点から「降伏」をどのように扱うかを見てみました。

今回はまた「硬化則」の話に戻ります。前回の「降伏条件」の話を踏まえて、加工硬化と降伏をどのように関連付けるのか。そこにも数学と物理の両面を満たす、一定の理論があります。

今回は「降伏曲面」の話をしまして、そこから加工硬化の段階をどのように捉えるかについて話します。


降伏曲面の概要

前回は既往の代表的な降伏条件として「トレスカの降伏条件」「ミーゼスの降伏条件」のそれぞれの特徴を説明しました。

降伏条件が応力空間(3種類の主応力を3次元的にプロットした状態)で描かれる曲面のことを「降伏曲面」と言います。

ミーゼスの降伏条件は円柱の形状を示し、トレスカの降伏条件は六角柱の形状を示します。

降伏曲面の内側に置かれた主応力状態は、変形過程に置き換えると「弾性」を意味します。曲面上に主応力状態が置かれると「降伏」になります。

例えば、簡易的に平面応力状態(2軸の応力状態を変数とする)を仮定します。主応力のひとつをゼロにするので、ミーゼスの降伏条件は次のようになります。

$${Y^2=\frac{1}{2}\bigl\lbrace{(\sigma_1-\sigma_2)^2+(\sigma_2-0)^2+(0-\sigma_1)^2}\bigr\rbrace}$$

$${{\sigma_1}^2+{\sigma_1}{\sigma_2}+{\sigma_2}^2-Y^2=0}$$

上記の式は、原点の回りに45度だけ回転させた楕円の形状と一致します。図示すると下記の通りです。

これが「降伏曲面」の意味するところになります。単軸引張では、1番目の主応力のプロットは原点を出発して点Aに向かうことになります。プロットの移動中は弾性変形ですが、点Aに達すると降伏して塑性変形を開始するという理解になります。

このときに描く応力状態の軌跡を「応力経路」と言います。応力状態のプロットが同じ位置に居たとしても、応力経路が異なれば、変形状態も異なります。

等方硬化と移動硬化

金属材料が初めて降伏するときの条件を初期降伏条件と言います。加工硬化とは塑性変形の進行に合わせて変形抵抗が増加することです。それ故に「ひずみ硬化」とも呼ばれます。

初期降伏条件を乗り越えた後で改めて金属材料が降伏する場合は、ある一定の法則に基づいて降伏条件が変化します。つまり、先ほど説明した「降伏曲面」の状況が変化するのです。

塑性変形に伴う降伏曲面の変化を表したモデルは、代表的な形で2種類に大別されます。後続の降伏曲面が等方的に拡大する「等方硬化則」と、降伏曲面の形状や大きさは変化せずに降伏曲面の中心が並進移動する「移動硬化則」です。

塑性変形を主体とする板金加工などの成形では、上記の硬化則の理解が必須になります。現実の塑性変形は「等方硬化」「移動硬化」が混合した「複合硬化則」ではありますが、原点は上記の2種類になります。

バウシンガー効果

先ほど紹介したように、金属材料が降伏を起こすと「降伏曲面」が塑性変形の進行と合わせて変化します。

例えば、初期降伏を起こした後に除荷すると「永久ひずみ」という形で変形が残ります(不可逆変形)。そこから負荷を再開すると、金属材料は改めて降伏を起こしますが、降伏応力が初回に比べて低下する現象が観察されています。

この現象は「バウシンガー効果」と呼ばれています。具体的には、金属材料をある方向に塑性変形させてから逆方向の力を加える際に、降伏応力が初期状態よりも低下する現象のことを指します。

バウシンガー効果は塑性変形の方向が正反対の場合の話ですが、転位(塑性変形に伴い発生する格子欠陥)の蓄積が少ない方向へ力が掛かることから、早期に降伏を起こすことが要因として考えられます。

バウシンガー効果は力の方向の差異を考慮する必要があるため、等方硬化則では再現できない物理現象とされています。この辺は硬化則の選定基準として、考慮に入れておく必要があります。

おわりに

今回は金属材料における「硬化則」の理論体系(数学と物理の両輪による話)について説明しました。

基本的には「等方硬化則」「移動硬化則」の2種類があり、そこから金属材料の特性に応じて選び分けることが必要です。そのひとつの分岐点が先に紹介した「バウシンガー効果」だと思います。

次回は金属材料の塑性変形の計算に関する基礎と言われる「ひずみ増分理論」について話します。

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