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わたしは地獄を描かない






「地獄を描いてほしい」







絵が売れなくて売れなくて、精神的に死んでいたと言っても過言ではない頃のこと。



ネット上でわたしに連絡をしてきた男性がいた。

絵のオーダーの依頼である。


わたしは 寒さに震えながら 裸足で雪の中を歩いていて、そんなときに 見ず知らずの人から 靴を差し出されたような気持ちだった。


これで、歩ける...!!!







わたしは 早速なにを描いてほしいのか、どんなイメージなのか等をワクワクしながらメールで聞いてみた。



すると、


「地獄を描いてほしいんです。こういうの」



と、何やら画像が添付されていた。




その画像を見て、ギョッとした。


全て白黒で 骸骨や枯れた木が描かれている。ホラー感満載の絵で、見た瞬間に寒気がした。




「わたしの絵とは正反対の系統ですが、なぜわたしに描いてほしいのですか..?」


と尋ねたところ


「安い金額で描いてくれそうだったので」


とのことだった。




つまり 地獄の絵を安く描いてくれる人を探していた。わたしの絵を気に入ったわけではない。

という話だ。





絶望的な気持ちになった。

履かせてもらった温かい靴が 途端に冷たくなってゆく。






「申し訳ございませんが、

 わたしには描けません。」






引き受けようとも思った。


プライドを捨て、不本意ながらも仕事と割り切り地獄を描こうとも考えた。



けど、無理だった。






少しでもお金になるなら、受けるべき仕事だったと思う方も多いのだろう。


けれど、わたしは後悔していない。




画家としての心を殺してまで、

地獄を描くべきではなかったと思う。





絵は 心の内側から

描きたいものを表現することである



と、わたしは 信じているのだ。






今後も 誰に何を言われようと

描きたいものを 存分に描いてゆくよ。










だから わたしは、地獄を描かない。







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