小説・成熟までの呟き 40歳・2

題名:「40歳・2」
 美穂にとっての40代最初の収穫が終わった後の秋の日曜日に、1組の夫婦が農園を訪問してきた。美穂が対応したが、その夫婦はこの年から勤務を始めたひとみの両親だという。その日、ひとみは出勤日ではないのでいなかった。美穂はカフェで両親からひとみに関する話を聞いた。冬に研修生だった際、ひとみは大学4年で卒業を控えていた。卒業式に出席するため島を出たことは覚えている。そんなひとみだが、幼い頃から父の仕事の関係で転校を繰り返し、やっと学校に馴染めたと思った段階で離れなければならない状況が続いたため、すっかり内気になってしまったのだという。大学には進学したものの、内気な性格から就職活動ではどのような面接官にもやる気がないように見られて、内定が得られなかった。卒業後の進路が未定のまま年が明けて、以前から料理が好きでオリーブオイルを多く使っていたということもあり、オリーブに携わる研修が受けられるということで島に向かったという。当初はそれまで家を出たことのなかったため不安だったが、仕事を順調にしているようで正規雇用としての就職もできたので、動きが楽しみになっていったという。そして、ひとみが今どのような姿をしているかが気になり、嫌がられることは予想して来訪したという。美穂は、「ひとみさんは今、どのような作業にもしっかりと向き合っています。ご両親も驚かれるかもしれません。」と言った。ひとみの両親はその日は、大尾島の観光を楽しんだ。翌日、朝にひとみが出勤した後に美穂は待機していた両親を登場させた。ひとみは、とても驚いていた。でもそれ以上に、大学在学中よりも頼もしい姿になっていた両親の方が驚いた。美穂は、「4月に勤務を始めてから1度もご両親に会っていないひとみさんにとっては嫌なことかもしれない。でも今日だけは両親の思いを受け止めてあげて。」と言った。ひとみは、「ずっと仕事で忙しくてそっちに行けなくてごめん。でも島に来てから気づいたんだけど、パパもママも私のために温かい家庭をつくってくれていたんだね。私って幼い頃から体が弱かったからずっと心配をかけていたんだよね。今度の年末年始には行くから、オリーブオイルを使って一緒に料理をしよう。」と言った。美穂は、「私も一人っ子だったので、ご両親が一人娘を大切に思う気持ちはなんとなくわかります。」と言った。その日の夜、美穂と康太は今年従業員を増やして良かったことを確認し合った。こうして、美穂は40代の道を進めていくことになる。

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