『テンシンシエン!』第23話
◆「ルアーフィッシング?」
毎日、求人サイトから送られてくるメール。おそらくAIが私の希望条件と求人情報を照らし合わせ、それぞれが近いものを選択し、機械的に送って来るのだろう。まぁ、なかなかイイ線をついてるなと初めのころは思っていたが、2週間もすると送られてくる求人内容に代わり映えがなく、少々退屈になってきた。しかも、すでに応募した会社は20社に及ぶのだが、返信される内容は、いずれも不採用のものばかりで、なんだかモチベーションも下がってきた。さらにメールの文体が、私のメンタルにとどめを刺す。
”支援VIP”の担当エージェント、”中舘 博さん”からの、AIじみた感情の無いメールもひどいが、”キャリフロ”のヘッドハンターたちから届く「ザ・テンプレート」のメールが、私の心を情け容赦なく突き放す。
キャリフロのマイページを開くと、ヘッドハンターとやり取りするためのWebメールがあるのだが、ここには応募した会社の担当ヘッドハンターから合否の連絡が来る。はじめて届いたときは、書類選考が合格したと思いドキドキしたが、5,6通も不採用連絡をもらうとすぐに耐性がついて慣れてしまう。
こんな内容のメールが届くのだが、不思議とどこのヘッドハント会社もほぼ同じ内容なのだ。ヘッドハンターたちは実は全員架空の人物で、全て同じ組織に所属するAIなのか?と思わせるぐらい無機質に感じ、私はこの先いったい誰を当てにしたら良いのだろうかと勝手に不安になり、色々愚痴っぽくなる。
だからと言って愚痴ってばかりいても何も進まない。
何か対策を練らねば・・・書類選考を通過するために何をする?
戦略?・・・
つまり先方が私に期待するものとは?
そんなところを切り口になにか考えるか・・・
以前、私には”これと言って趣味らしい趣味は無い”と言ったが、実は過去にいくつかのめり込んだものがある。その一つがルアーフィッシングだ。履歴書には、なぜか趣味、特技を記載する欄があるのだが、ここが無記入だったり、読書、音楽鑑賞では、つまらない奴と思われてしまうので、私はとりあえず、ルアーフィッシングと記載する。ルアーフィッシングにも色々あるのだが、以前、転勤で千葉県に住んでいた際、職場の同僚たちが皆バスフィッシングをするということで、私も付き合うことになったのだが、これが意外と面白くて、人に自慢できるほど散財してしまった。
ルアーフィッシングは、いわゆる餌を使う釣りと異なり、樹脂や金属でできた疑似餌を用いて、魚を待つのではなく、魚のいるところへ、積極的に攻め込まなければならない釣りなのだ。しかもその日の天候などから、その日の魚がどんな行動をするかを推察し、ある意味先回りをする。そしてその日の魚がどんな餌を食べたいのか考えてルアーを選択するのだが、ルアーには樹脂でできたミミズのようなものや、ザリガニやカエルのようなもの、プラスティックでできた魚のようなものから、一体何か見当がつかないものまで、その形状は多岐にわたる。つまり、ルアーの種類を多く持つものほど、実行できる戦術も多くなるという訳だ。そして忘れていけないことは、戦術は仮説であり、仮説を実験で実証していくプロセスが実釣ということだ。自分のたてた仮説に執着するあまり、魚を逃すなんてことはよくあって、節操なく仮説を修正変更する奴ほど釣果が上がるなんてことはざらにある。特にバスフィッシングはこの要素が強く、仕事以上に頭を使ったこともあった。
そうか・・・今の私に足りないものがわかったような気がする。
今までは、なんだか空をつかむような感じで、就職活動そのものが空回りしていた。
よし!反撃開始だ・・・
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