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『テンシンシエン!』第57話

◆「サカウラミ?」

 完全に逆恨みだ・・・しかし同情はする・・・だが、完全に逆恨みだ。

「山泉さん、先ほど、私に向かって”覚えていませんか?”と尋ねましたが、あなたとの接点は、あなたが応募した際に提出した、履歴書などの書類のみです。私が、それらの書類に目を通している保証なんてないはずだ。なのになぜ?・・・」
「ははは・・・そんなところに引っかかっていたんですが?最初にあなたとお会いした時、私はまだこんな病にかかっていませんでしたから、もっと恰幅がよくて、メタボなおじさんでしたからね・・・覚えてなくても当然かもしれません。」
「えっ?どういう・・ことですか?」
・・・メタボなおじさん?経理マン?・・・
「沢村さん、CAEソリューションセンター求人の話、あの話には。まだ続きがあるんですよ・・・ベテラン経理マンの求人が中止された後、わたしは・・・」

「あっ!あの時の?!・・・」
 思い出した・・・あのイケてないおじさんだ・・・

「思い出していただいたようですね・・・あの時、あなたは私に何と言ったか覚えていますか?」
「だ、だけど・・・だけどですね。いきなりアポなしで会社の来て、求人の件で話があるから、私に会わせろ!だなんて・・・ちょっと乱暴じゃ・・」
「確かに、今思えばむちゃくちゃな話ですが・・・あの時の私はそれほど血迷っていたんですよ・・・でも・・・結局、あなたの言葉が私を奮起させたというか、”あなたに仕返しする”という目標ができて、結果的に再就職先を得ることになった訳ですが・・・おかしな話です。」

「なんだこの汚いオッサンは・・・」

 思い出した・・・当時の私は、考えることが、ことごとくうまくいっていたこともあって、かなり調子に乗っていた・・・普通のサラリーマンを、少々小ばかにするような言動もあった。今思えば、本当に格好の悪いことをしていたのだが・・・

「山泉さん、あの時のことは本当に申し訳ないと思っています。失礼なことを言いました。申し訳ありません・・・この通りです。」
「もう別に謝って欲しいなんて思っていませんよ。あれ程、待ち望んでいた仕返しは思いのほか味気ないものでしたし・・・なんだかもうどうでもよくなっているのです。結局、あなたの言葉をきっかけにして、就職支援センターに再就職できた訳ですし・・・仕返しすることを目標にここまで頑張ってこれたのは事実です・・・ある意味、沢村さんには感謝していますよ。変な話ですが・・・」
「山泉さんがそう仰るのなら・・・」

「結局ですね・・・私がこんな風になったのは、私自身に原因があって、私のやり方・・・” 生き方の不味さ ”とでも言いましょうか・・・それが人生の終盤になって全部降りかかってきたような気がします。ただ、最後にあなたをですね・・・あなたを間近で見られて本当に良かったというか・・・あぁこんな風に生きれば良かったのか・・・なんて思ってしましました。」
「どういうことでしょうか?」

「うん・・・沢村さん・・・最初は、私の想定した通りに、あなたは網にかかりました。とても嬉しかった。これからどうやって仕返ししてやろうか・・・たくさんのアイデアが頭に浮かびましたよ。そこで、まずは、あなたを指名してきたスカウト案件を、全部断ってやりました・・・」


■第58話へつづく


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