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あべのハルカス

あべのハルカスに行ってきた。これが、あの天王寺の駅前か~。と舌を巻く。私は昔この辺りに勤めていたことがある。チンチン電車の乗り場前の立ち食いうんどん屋で毎朝、朝食を取っていた。


商店街を一歩入れば、そこは連れ込み宿がずらりと並ぶ、長屋通り。当時、天王寺公園には浮浪者のおっちゃん達が、村を形成していた。しかし、行政指導でブルーシート村は崩壊した。


その後、天王寺公園はカラオケ天国になった。天王寺から動物園までの一本道。衣装を着けてカラオケを歌うおっちゃんおばちゃん達で溢れかえっていた。驚くことに、このカラオケ、100円払うと衣装を着せてもらって歌うことができたのだ。


そんなカラオケ野郎たちも行政指導が入りあえなく撤去。その後、天王寺博覧会があり、今の綺麗な天王寺公園へと変貌を遂げた。あべのハルカスを見上げながら、少し昔の天王寺を思い返すのだった。

「10円ちょうだい」


20年も昔の話だが、雑踏の中で、手当たり次第行きかう人々に「10円ちょうだい」と声をかけ続けていたおばちゃんがちょうど、今あべのハルカスあるところらへんに出没していた。


職場では彼女のことを10円おばちゃんと呼んでいた。


「私も見た」「私もあった事ある」


眉間にしわを寄せて、上司の悪口しか言わない女子職員たちも、10円おばちゃんの話だけは嬉々として話していた。10円おばちゃんは町の有名人だった。しかし、そこに期待の新星が現れた。


絨毯おばちゃん。


ドレッドヘヤーのようにチリチリの髪は地面すれすれまで伸びきっていた。その長いドレッドヘヤーが絨毯のように一枚に織り込まれていたのだ。一本ではない。一枚なのである。背中に黒い板が張り付いているような髪型なのだ。きれいに編み込まれた髪はもう何年も洗っていないようで、毛羽立った古い絨毯のようになっていた。


ぼろをまとった絨毯おばちゃんは一日中地下街をさまよっていた。


「絨毯おばちゃん見た!」「私も会った、会った」


絨毯おばちゃんの登場で、10円おばちゃんの存在が薄らいでいった。そんな中、10円おばちゃんの姿が駅前から消えた。


数年後、別の駅で10円おばちゃんを見ただとか、あまたの噂は聞いたことはあるが、あれ以来私は見ていない。


「にいちゃん、たばこ一本くれや」


と、突然交差点で話しかけてきた初対面のオヤジに煙草を一本さし出すと
「そっちくれや」と、箱ごと持っていくようなオヤジたち。


最近見かけなくなったが、昔はそんな人たくさんいたなぁ〜。と、開発、開発で変わりゆく街並みを眺めながら感慨にふけるのだった。


(‾ロ‾)

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